2002年7月上

●2002年7月10日(水)

この小雨と少しの風は、台風の前の静けさなのか? お昼に食べるものが何もなかったので、もちきびご飯を炊いた。米2カップにもちきび1/2カップ。この配分がベストかも。もちもちと黄色く香ばしいご飯。もちきびは、波照間の良美ちゃんのお母さんが作ったもの。
「緑の資本論」はおもしろい。
このところ気になっていた自分の考えで、まだ形になっていなかったことがあって、それについてのヒントが書いてある気がした。言い方がちょっと難しいところもあるが、今の自分にシンクロしているので、脳の筋肉で解るような感じだ。
久々に中沢新一さんを読んだが、昔から私はけっこうこの人が好きだった。
思索家というのは考えることが仕事なのだから、世界の秘密について、いろいろな資料を研究し、どんどん深く考えて欲しい。そして、私の様なバカにもそれを分かりやすく教えて欲しい。
今はまだここに書けないけれど、日々の考えやぼんやりとした寝起きの頭で、実感してゆけるようなくらいまで、よく煮えた菜っ葉のように、この本で感じた考えが落ち着いたら、いつか日記で書くだろう。
今日は夜9時半から渋谷で打ち合わせだ。
それまでは扇風機に当たりながら、じっくりと読書の時間。

●2002年7月9日(火)

クウクウの日。
撮影がパタッと来なくなってしまい、あまりにも暇なので、最近よくクウクウで働いている。肉体仕事は楽しい。
暇にしていると、私って何か忘れているような手持ち無沙汰な気分になって、心細く落ち着かないのだ。それは、私の中のミーハーな方の人が、きっとそうなのだ。
もうひとりの方の、寝起きのようなねぼけた素朴な人は、いくらでも本を読み続けたり、だらだらと寝くさっていられるのだが。

●2002年7月8日(月)

広島の美穂ちゃんから野菜が届いた。
大きなじゃが芋とトマト、茄子、ピーマン、オクラ、そしてプラム。プラムは、枝についたものも入っていた。プラムって、杏や梅みたいに木になるって始めて知りました。そして、梅の実くらいの小粒さ。甘い! 今日も良く晴れて夕方が奇麗だったので、ベランダで黒ビールを飲んでいたら、スイセイに見つかってしまった。
ビールはもうないので、氷をいっぱい入れて泡盛を出してやった。
美穂ちゃんからのじゃが芋を厚めに切って揚げ、塩と黒胡椒をかけたもの、トマト、塩らっきょうをつまみに、陽が落ちて暗くなるまでベランダでだらだらと過ごす。ケイト・ブッシュの昔のテープをかけながら。
こんなに夏休みみたいなことばかりしていて良いんだろうか。
晩ご飯は、茄子とピーマンの炒め物(ごま油で炒め、XOジャンとしょうゆと酒で味付け)、鷄の塩焼き、そしてスイセイの好物の冷やし汁を作った。オクラとみょうが入り。
そしてまた読書。
今読んでいるのは、中沢新一の新刊「緑の資本論」だ。

●2002年7月7日(日)

七夕だったから、クウクウは暇だったんだろうか。
今夜は家でご飯?にしても、ロンロンの魚屋さんはがらがらに空いていた。
お客さんの気持ちが、まったく読めない日だった。
風呂から上がって窓を開けると、濃い蒼い空に、水色のところが湖のよう。
ゆうべもすごく奇麗だったけど、晴れて風が強かったせいだろうか。
波照間では、ものすごい星空だったそうだ。メールがきていた。

●2002年7月6日(土)

午後から図書館へ。
日差しが強いので帽子をかぶって行ったら、夏休みの様な気がしてきた。
昼ご飯の時からそうだったのだ。りうがいたから、きのこクリームチーズのパスタを作って3人で食べた。
めん類って夏休みっぽい。
けっこう人が多かったので、さっさと読みたい本を8冊借りて帰って来ました。
平日のがらんとした図書館の方が、私は好き。
ここのところの読書三昧に火がついて、何でも読み倒したい気分。だが、あまりの良い天気に、1冊目の半ばでうとうとと眠くなってしまう。
夕方の暗くなる前に、スイセイを誘って買い物へ。
いつもの八百屋へ行こうとしていると、やきそばの匂いがする。
何だろう?と思っていたら、どうやら今日は商店街のお祭りらしい。ヨーヨー売りと、かき氷屋も出ていた。けど、屋台らしきものはそれだけで、あとはいつもと変わらないこぢんまりした商店街だ。
「今日は、お祭りだから安くしとくよー!」と、果物屋のおにいちゃんが叫んでいる。いったい何のお祭りなのかは不明。
明日が七夕だからだろうか。
いんげんのぶりっと太いのと、長崎産のちょっと皮が赤っぽいじゃが芋、茄子、青唐辛子、山盛りのピーマンなどを買う。
夕日が沈もうとしていたので、大急ぎでやきそばとお茶を買って、中央公園に向かって歩いて行った。
帰ってから、青唐辛子はにんにくといっしょに刻んで「食欲味噌」の中に加えた。前にも書きましたが、「食欲味噌」というのは私の夏の定番で、味噌に少しのみりんを加え混ぜ、あとは谷中しょうが、みょうが、青じそ、万能ねぎなどの薬味類をどんどん加えてゆくという味噌。ご飯にのっけて食べると、食欲が出るんだこれがまた。残りの青唐辛子は酢漬けに。これはスイセイ用。
いんげんはごま油でよくよく炒めて、醤油だけで炒め煮。有本さんのレシピだ。
じゃが芋は、丸のまま今ゆでているところだが、皮をむいて塩と黒胡椒をふって、いんげんのしょうゆ煮に添えようかと思う。
ピーマンは網で焼いて、生姜じょうゆで食べよう。
ほったらかしておいたら勝手に育って大きくなってしまった様な夏の野菜が、私はとても好きなのだ。それらをできるだけ簡単に料理して、窓を開けた部屋で、もりもり食べるのだ。
こんど、とうもろこしも買おう。

●2002年7月5日(金)

ゆうべは布団の中で、「センセイの鞄」をいっ気に読んだ。
読み終わって電気を消しながら、ものすごく泣いた。
読み終わってからここまで泣く本て、私はあまり知らない。
余韻が、布団にこもってこもって。
川上弘美さんの本て、何冊か読んだけれど、私はどうも苦手な所があった。
勝手な解釈だが、女々しさの様なものを微妙に感じていた。
普段は男っぽくサバサバとした印象だったから、私もそのつもりで付き合っていたら、何かの拍子に、ピリッと女臭さを感じてしまった女友だちの様な、そういう読後感がいつもあった。
粘着質なのはぜんぜん良いんだけど、必要以上にサバサバしてなくてもいいんでないの?という感じで、どうも肝を落ち着かせて読めなかった。
「センセイの鞄」は、まったくどこにもそれがなかった。
すごく良いよー読んでみなーと、私の好きな人たちは皆すでに読んでいて、強く薦められていたし、とても話題になって絶賛されていた意味が、やっと分かった。
バカだなー私は。早く読めば良かった。
そして今日もまた、風呂にも入らずに読書の日だった。
畳の部屋で、座布団を2枚重ねて枕にして。
これが最近のお気に入りの読書スタイルだ。
夕方になって、だんだんに碧っぽく空がなってくる頃がまたいいんだこれが。
窓を開けているから、時々ぐぐっと頭を上にずらすと、飛んでゆく鳥の腹が見えたりもする。
スイセイが台所に行く頻度が増えてきたので、(そろそろ腹が空いてるんだな)と判断し、晩ご飯を作ることにした。
キャベツとセロリのサラダを混ぜていたら、スイセイがまたもや台所に顔を出し、大量のサラダの入った大ボウルごと抱えて、食べ始めてしまった。嬉しそうに。
その間に鮭のムニエルともやしのみそ汁を作り、晩ご飯となった。
ご飯の後にも、また続きを読む。
蛍光灯の電気って、眠くなる時には色が薄くなり、目が覚めてくる頃には濃い黄色になるもんだ、うーん眩しいなこりゃ、と思いながら目を開けたら、きっちり1時間眠っていた。
良美ちゃんからメールがきていた。
台風5号が去って今日はとても蒸し暑く、何度顔を洗ってもすぐにべたべたになるよ、と書いてあった。
波照間のその蒸し暑さの感じを、私の体はまだ憶えているからすごく分かる。
そしてメールの言葉が、良美ちゃんの声になって聞こえてくる。

●2002年7月4日(木)

テレビのスタジオに入ってしまえば、もうやるしかないから、私はそんなには緊張しないことが分かった。
自分でも驚くほど、けっこう堂々として、ハキハキしていた。
けど、出演者の人々はスタイルも良いし奇麗だしかっこが良いので、いちいち私は気後れしていたことも確か。私は芸能人ではないのだからそれで良いのだと言い聞かせるが、モニターに写った自分の顔は、まだら焼けに黒くて、シミも出ていた。腕には火傷の跡もある。
やっぱりメイクさんにちゃんとした化粧をやってもらえば良かったかも。
けど、まあ言いたいことはだいたい言えたし、料理がとてもおいしくできたのが良かった。
明るいうちに終わったので、軽くビールでも飲もうかなと「カルマ」に寄った。
昔、私が働いていた頃によくかけていたレゲエの曲がかかっていた。
あの頃、丸ちゃんは、自分でカセットテープを作るのが流行っていて、選曲はバラバラなのだが、全体的にひとつのムードを持っている名作テープが何本もあった。
それを最近、自分でCDに落としたんだそうだ。
次にどんな曲が入っているか、流れで分かってしまう。
雑音や、曲と曲の間に入る空白の時間や、そんな細かいことまでもいちいち憶えているもんだ。
そしてふと窓の外を見ると、そば屋の出前のおにいさんが自転車で通った。
あのおにいさんだった。
前はたぶん20代だったおにいさんが、20年後にも、まったく同じシチュエーションで窓の左端から出て来た。
歳をとって。けど、表情は同じで。
なんか人間ていいもんだーと、愉快になり、ちょっと泣きそうにもなった。
私はおにいさんの20年前の顔を、しっかりと思い出せる。
使用前、使用後の写真をふたつ並べて見せられた様だった。
けっこう酔っぱらって吉祥寺に帰って来ました。
もう1件寄ろうかなとも思ったが、ロンロンの本屋が開いていたので、急に本が読みたくなり、目の前にあった「センセイの鞄」と「神様のボート」を買った。
2冊とも、読まず嫌いで過ごしていたもの。
りうのご飯が塩鮭しかなかったので可愛そうになり、茄子を揚げて豚肉と中華風に炒めてやった。トーバンジャンの入った甘辛いあんかけだ。
酔っぱらって作ったのに、すごく上手くできた。

●2002年7月3日(水)

スイセイが昼ご飯に自分でラーメンを作っていた。
セロリとクレソン入り醤油ラーメンだ。
ちょっともらって食べてみたら、すごくおいしい。
セロリは太めのマッチ棒切り、クレソンはおひたしの残りで、かつお節がたっぷり 混ざっているもの。
かつお節がスープに合わさってコクを出し、良い感じだ。
今朝は、眠くて眠くて、いくらでも眠れる感じだった。
いちど10時に電話で起こされてから、泥沼の豚の様に眠りをむさぼった。
こういう事はたまにあるが、たぶん明日がテレビの収録(初めての番組)なので、今のうちにできるだけゆるゆるにリラックスしておこうとする力が、無意識に働くからではないかと自分では思う。
だって、今夜はぜったいに眠れないから。
こんだけ寝たら(12時間)、そりゃあ眠れないだろうが。
そして夢もたくさんみた。
散歩していたら、鳥が順番に私の傍の木に飛んで来る夢。
つぐみ、ひよどり、尾長、ほおじろ、シジュウカラ、ハクセキレイ、めじろ。
図書館で図鑑を借りて勉強していたから、私はそれらの判別がスラスラとできる。
奇麗だしかわいらしいし、鳴き声も聞かせてくれて、私は良い気分だ。
そしてもう少し歩くと、人家の門の脇に、洗濯もの(靴下など)を干す用の、あの 昔ながらのブリキでできた物干しに、足を吊るされた鳥たちが、瀕死の状態で何羽もぶら下がっている。
奥にある家はどんよりと暗く静かで、木や草が伸び放題で鬱蒼としている。
私は鳥たちを助けようとして、あせって洗濯ばさみを次々にはずしてやるが、鳥はドサッとコンクリートの地面に落ちて、皆死んでしまった。
いやな感じだが、むしろこっちの場面の方が意味があるのだろうなと、夢判断に最近興味を持っている私は、ねぼけながら思った。
なんとなく私は、鳥を助ける時の気持ちが散漫だった。
心からかわいそう助けなくちゃというのではなく、助けることが正義だからという様な、表向きなことに捕らわれていた。
これから買い物に行って、明日の収録で作る料理の練習をする予定。
そして、何を喋るかを箇条書きにシナリオに書き込まなくては。
ああいやだ、だんだん緊張してきた。

●2002年7月2日(火)

ひさびさにちょっと晴れたので、大急ぎで洗濯した。
夕方からはクウクウへ。
私はクウクウで監督さんの様なことをしていて、実際の仕事は若いスタッフ達に任せているわけだが、週にいちどは完全なスタッフのひとりとして、仕込みも皿洗いも皆と同じ様に働いている。
それは前からかもしれないが、たとえば、仕込みノートに「揚げ野菜」と書くのを「焼き野菜」と書いて、伝えた気になっているという様なことが、私にはよくある。意味や内容という様な、物事のソフト的な面ばかりに想いが集中して、ハード的な言葉とか記号とかの面がおろそかになる。
簡単に言うと、私は何かが抜け落ちている。ボケているのだ。
けれどそれをクウクウの子たちは、「高山さんがまた変なことをやってる」とニヤニヤしながら、フォローしてくれている。
なんか、足を引っ張ってしまっているような気がするなーと思う、今日この頃だ。

●2002年7月1日(月)

ゆうべの夢。
診療所の様な所にいて、患者さんの面倒を自分がみている。
「悪性か良性か、匂いをかいで確かめながらやりなさい。」と、先生に言われながら体を拭いてやっている。
患者さんの体は皆のっぺらぼうで、頭もなく手足もなく、腰らしき所が異常にへこんでいたりして、すでに人間の体の形ではなくなっている。
すごい悪臭がしているので、私は息を止めながらやっているという夢。
他人の下の世話とか得意だと思っていたけれど、案外自分はへなちょこなんだなと感じながらやっている。
患者さんは確かに生きている様だけど、体は肉の塊という感じ。
きっと、今「明恵、夢を生きる」という本を読んでいるから、こんなおかしな夢を見たんだと思う。
明恵という人は鎌倉時代の坊さんで、夢の中の体験を自分の直感に結びつけて修業した人らしい。
布団を上げた畳の部屋に座布団を枕にして、今日も読書の日だ。
どくだみ茶と3年番茶のブレンドを、やかんでたっぷり作っておくのが最近の私の定番だ。のどが乾いたらそれをがぶがぶ飲みながら続きを読む。
トイレからもどる時に部屋を見たら、開かれた本と座布団と毛布が畳の上にあって、まさに穏やかな読書日和の図。
その図を見ながら、9時に赤澤さんが来るまで、今日も1日どっぷり本が読める幸せを味わった。
赤澤さんが来て、餃子を作る。
あと、じゃが芋のお焼きも。
ワインを飲みながら楽しく打ち合わせ。


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