2002年7月中

●2002年7月20日(土)

夕方から原君宅へ。
お母さんは私が行くと、いつも服装について何か言ってくれる。
今日はまずピンクのTシャツを褒め、スカートを撫でては、「きれいねーこれ、何の花かしら?え?桜?。そうねー桜だわ、素敵だわねー。ここの所がほら、色が変わってるのねー。」と褒めてくれた。よっぽど気に入ったのか、繰り返しまた撫でては同じせりふを何度も(たぶん5回くらい)言っていた。
「陽に焼けたねえ。」と原君に言われ、「そう、真っ黒でしょ。」と私。
「ほらお母さん、みい真っ黒だよ。」と原君。
私の腕を見てお母さんは、「毛が生えてる。」とだけ低い声でつぶやいて、布を触るように撫でていた。お母さんは嘘をつかない。
私は毛深い女だが、見た人はそう思っても口には出さず、「ほんとだ、真っ黒だねえ。どっか行って来たの?」と、たいがいそう言う。
原家の今日の晩ご飯は、きゅうりとみょうがとスモークチキンの酢の物、じゃが芋のたらこ入り豆腐マヨネーズ和え、卵豆腐のとろろ和え(絶品でした)、豚ときゅうりの山椒炒め。これら全部が原君作。
そしてデザートはいちぢくヨーグルト。
これがめちゃくちゃおいしかった。いちぢくとヨーグルトと砂糖をフードプロセッサーでかき混ぜて半冷凍にするらしいのだが、「こんど何かで紹介してもいいですか?」と、思わずお願いしてしまった。
いちぢくをシロップで煮てからヨーグルトと混ぜようとプロは考えると思うが、いちぢくが生のところが良いのです。いちぢくの味が、のどの脇のあたりに残るんです。

●2002年7月19日(金)

ゆうべは「モロッコでラマダーン」上下巻を読み倒した。
前作の「ガンジス河でバタフライ」もかなりエキサイティングだったが、今回もそれを上回る波乱万丈さだった。
汗をかきかき、涙をたらしながらぐんぐん読んでいった。
自然が雄大で激しく、土くれのひとつみたいに暮らしている場所での恋愛って、格好つけることも大げさなのも自然に負けてしまうから、そんなことを思いつきもしない。そしてそういう場所で、お互い想いをつのらせながらも肌を重ねない男女って、めちゃくちゃロマンチックじゃん。その真っただ中にいる照ちゃんが、すごい大まじめに完全にはまっているのに、3ページに1箇所くらい関西系のつっこみがチラッとはさまる。そこらへんのノリが私は大好きだった。切なくて笑けながら泣けてくる感じ。
今日もまたすばらしい天気だ。
風が強いので、洗濯物がすぐに乾く。
そうめんを食べながら、雲が流れていくのをぼーっと見ている。
夕方ベランダに出たら、カラスが一羽頭の上をスーーィと飛んで行った。静かに羽ばたいて黒い腹を見せながら。
そして雲は茜色に染まり、白い月が少しずつ光ってくる。
去年の夏もこんなに奇麗だったろうか。
作りました、「ごんぼうの酢煮」。この間「野菜や」さんで食べたのをやってみた。ごぼうを4センチくらいに切って4つ割りにし、出し汁と醤油と酢、酒、みりん少々で歯ごたえを残して煮含めた。おいしくできました。
まぐろの剥き身とホッケ、水菜のおひたし、納豆、玄米で晩ご飯。
りうが今日は友達の所に泊まるので、みそ汁はなし。

●2002年7月18日(木)

ひざ下丈のぺらぺらスカートとちびTシャツ、そしてビーサン。
波照間で過ごしてたのと同じ格好をしてクウクウで飲んでいたら、ものすごい冷えてしまった。足が芯から冷たい。そんなに冷房きかしてるわけではないのに。
これから温泉の素入り腰湯に入って、汗をかこうと思う。このまま寝たら、きっと風邪をひくと思うので。
今日は、赤澤さん、みどりちゃんと打ち合わせだった。
なんか、頭の上の方にチラッと見えてきました。本の姿が。
ひとりで考えている時にはありきたりのスケッチだったのが、赤澤さん、みどりちゃんと、ひとりひとりのブレインが私のアイデアを通過して、それぞれのイメージがスケッチの上に降り注ぐのが見えた感じ。
「ごはんや」の朝ちゃんが、トマトを送ってくれた。
金沢の農家に嫁に行って、赤ん坊ができて、でっかいお腹でトマトの収穫にふーふー言っている朝ちゃんの姿が、トマトに映っているよう。
この間会った時、朝ちゃんは袖なしの赤いワンピースを着ていたから、なおさらトマトと重なるのだろうか。

●2002年7月17日(水)

二日酔いで9時には目が覚めてしまい、うろうろと寝たり起きたりして10時まで待ち、あちこちに電話をかけまくった(まだ酔っぱらっている)。
ほとんどが仕事関係の真面目な電話だが、最後に原君に電話して、だらだらと近況を報告し合う。下ネタ話で朝からげらげら笑った。
昨日から読み始めているのは、「モロッコでラマダーン」高野照子著。
照ちゃんの本の中には、いつも小さい照ちゃんがいて、私を笑かしてくれたり泣かしたりする。照ちゃんは文字になってもえらそうでなく、きどってもなく、いつも実物の照ちゃんが変わりなくそこにいる。
そして、照ちゃんの旅行の足取りと共に私も歩いているので、随分遠くまで来たもんだなーと、一瞬本当にそういう想いが私の体によぎる。
そしてまた写真がいいんです。
カメラを向けられたモロッコ人が、皆ふざけたり笑い転げたりして映っている。
内気な人は内気なりにも、ふっと笑いがこぼれたりして。
動物さえも、カメラに鼻先を向け照ちゃんに反応して笑っている。
照ちゃんて、人を幸せにするなー。

●2002年7月16日(火)

また食パンを焼いた。
こんどはプラムとシナモン入り。
そしてパンを焼きながら、こんどの本で何を作るかせっせとスケッチをした。頭の中で考えているよりも、こうやって絵にしてゆくと、どんどんアイデアが出てくるんです。前書きやテーマになるような文章も、どんどん書いた。
晩ご飯を作るのが面倒な気分なので、8時くらいに出掛けて西荻の「のらぼう」にスイセイとてくてく歩いて行った。
ここは、前「ごはんや」さんで、今は朝ちゃんの弟のマキオ君がやっている。
野菜料理がいろいろあって、センスも良いし丁寧だし、本当においしい。
赤ワインのデカンタを飲んでから、九州だったか四国だったかのラム酒を飲み始めた。一升瓶に入って、ルリカケス(鳥)のラベルのあんまりかわいくないものだが、その変さに誘われて、30度だというのにくいくいと飲んでしまった。
それならばと、マキオ君が出してきたのは、同じルリカケラスベルの50度だ。「神酒」と書いてある。おみきだって。
これがすごかった。スッコーンと酔っぱらってしまった。
帰りに出口まで送ってくれたマキオ君の首に腕をまわして、首すじにキスをしちゃったような気がする。汗がちょっとしょっぱかった。
真面目にやっている可愛い若い男の子を見ると、私はねえちゃんのような気分になって、可愛がってやりたいパワーが炸裂するらしい。
帰りながらスイセイにも抱きついて、べたべたなよなよした気がする。
スイセイでない他の男と飲んでいたら、やっぱり抱きついてべたべたしたと思われる。やばいなー「神酒」は、っていうかやばいのは私だ。

●2002年7月15日(月)

起きたら夕方4時でした。
ひさびさに心置きなく眠った。
台風の前だからか、風が強い。
そして今日も青い空に雲が流れている。
だからという訳でもないが、白い四角いものだけを洗濯しました。
シーツ、バスタオル、ふきん、 Tシャツ。
晩ご飯は、ぶりの照焼き、マッシュポテトブロッコリー、わかめの三杯酢、冷や奴、茄子の煮浸し生姜風味、わかめのみそ汁、玄米。

●2002年7月14日(日)

今日もまたクウクウでした。忙しかったーすごく。
帰って風呂に入ってから、窓を開けてストレッチだ。
今夜は星が少し見える。
飛行機らしい明かりが、ものすごいスピードで空を横切って行ったが、飛行機ってあんなに早いものだったろうか。
クウクウの新井君が、「最近、俺、空見るんですよ。帰ったら、ベランダで泡盛飲みながら、ぼーーって空見るんですよ。」と、今日言っていたが、私にもそれがうつってしまった。良いことはすぐに伝染する。
今頃、新井君も見てるかなー?なんて少し思った。
そしてスイセイと、ぐだぐだと話をしていたら夜が明けてしまった。麦茶を飲みながら。その間、何度もベランダに出て、空の色が変わるのを見たり、鳥を見たりしていた。
6時頃になって、枕を窓際に寄せ、新鮮な青空を布団の中から仰ぎながら寝た。

●2002年7月13日(土)

パン、焼きました。
カスピ海のヨーグルト入り。
ライ麦も少し入れた小型食パンだ。
私は小型の蓋つき型で焼く食パンの形がどうしても好きで、焼き上がりが、ぴっと角がとがった正方形に焼けないと気が済まない。
1度目は生地の量が少なくて厚みが足りなかったので、すぐに量を増やして2度目を焼きました。
今、焼いているところ。ぷーんと香ばしい匂い。
夏は室温で発酵できるから嬉しい。
スイセイの部屋が生暖かいので置かせてもらったのだが、よくもまあスイセイはあんなに蒸し暑い部屋で、クーラーもつけずにパソコンばかりやっているものだ。
そういえば昨日の新聞で、電子レンジで発酵させるスピードパンの話が載っていた。ひょえ〜。
高い温度で発酵させれば、そりゃあ早く膨らむが、できるだけゆっくり発酵させた方が、パン生地はキメ細かく、おいしくなるというのが定説だ。いったいそれはどういう原理なのだろう。水分を多くするとか書いてあったが。
というか、パンは、時間がかかってこそ楽しいのにな。
私のは、イーストの量も少なめ。だから発酵に時間がかかる。
自分で作るんだったら、ふわふわと軟弱なパンよりも、噛みしめるほどにおいしいじっくりした味のパンが好みだ。
世の中の多くの人々は、料理をしたくないから、手間を省いて簡単に済ませたいと思っているのだろうか。料理はしたいんだけど、めんどうなのはいやなのだろうか。うーん、どっちも根元はおんなじか? 私は料理は好きだけれど、みじん切りもきらいだし、面取りもあんまり好きでない。裏ごしなんてとんでもないって感じ。アク取りも一度きちんとやってほっておく。べたべたと手を加えるのが嫌いなのです。
時間はかかるけど、ほったらかしておけば、手間もかからないし簡単な料理というのがあります。その間は、ぼーっとしていても本を読んでいても、掃除をしても自由だ。時間というのは、確実に食べ物をじんわりとおいしく変化させてくれるのです。そして時間がかかった分、愛着もわいてきます。
と、ここまで書いているうちに、なんかこれって、私の人間関係の好みに似ているかもと思いました。
べたべたせずに距離を置いた関係だ。つかず離れずっていうか。
けれど気に入った素材のことはよく見て、さわって、理解する。
だからおのずと気に入った素材の種類は淘汰されてくる。
もしかして、人付き合いの好みに合わせて料理のやり方をすれば、皆たのしく料理ができるのかも。

●2002年7月12日(金)

クウクウで働いた。
けっこう忙しかったっす。
扇風機を買ったから、厨房のオーブンの仕事も皿洗いも、かなり快適だ。
クウクウでヨーグルト菌をもらってきたので、帰ってからすぐに牛乳を加え仕込んだ。明日になったらできているらしい。
明日、パンの生地に混ぜて焼いてみようかと思っている。
なんか、カスピ海のヨーグルト?だそうで、普通の自家製ヨーグルトよりもねっとりしているのだ。そのねばりは、喩えは悪いが木工ボンドのよう。
おいしそうに言うと、とろけたチーズのよう。
そうそう、出来立てのモッツァレラチーズのよう。
ためしに、エキストラバージン・オリーブオイルと自然塩と黒胡椒をひいて食べてみたらイケました。
レモンを絞って、きゅうりやセロリをつけて食べたらうまいだろう。
これ、赤ワインにきっと合います。
酸味は少ないが、つい食べてしまうおいしさだ。
腸に良いらしい。

●2002年7月11日(木)

台風一過。
すばらしい青空! 雲ひとつ、本当にまったくない。
ゆうべの台風はすごかった。
打ち合わせというか、丹治さんアルタイ共和国へ行ってらっしゃい、帰ってからもよろしくお願いします会は、渋谷の「野菜や」さんでした。おいしかったし、美しかったし、きりっとして感じ良かった。
そして吉祥寺に着いてから、ひとりでもう1件はしごした。
1時間くらいいたかな?誰とも喋らずに、ぼーっとひとりで飲んだ。
そのおかげで、台風のまっただ中に帰ることができました。
雨はそうでもないが、風がものすごかった。
いつも通る並木道の欅の林が、背の高い木だから、空に向かって上の方の枝がすごく変な揺れ方をしていた。想像を絶する動きだ。
ものすごく大量の海の中のもずくが、対流に向かって体をあずけているような。
枝がしなっているとはとても思えない、ダイナミックな動き。
不規則なようでいて、全体的には緻密な約束事で成り立っているような動き。
私、欅の秘密を見てしまったよー。
すごいもんを見せてくれるなー、自然てすごいなー、脱帽だなー。
と、心の中で叫びながらご機嫌で帰って来ました。それにしても、顔も髪の毛も、パンツの中まで、リュックの中まで、びっしょり濡れていたから、やっぱり雨もすごく降っていたのだろう。
そして今日は快晴の中、矢川さんのお別れ会の会場を下見に行った。
当日、簡単なケイタリングのようなことをするので。
教会に隣接した古き懐かしい静かな建物で、矢川さんにぴったりな気がしました。
夕方には帰って来て、すぐに晩ご飯を作る。
かんぱちのお刺し身、かじきまぐろの塩焼き、ニラとえのきの辛子和え、南瓜の煮物、焼き茄子とオクラのみそ汁、玄米。
今の南瓜はとてもおいしい。ほくほくしてねっとりと甘い。
私は南瓜の煮たのにマヨネーズをちょっとつけて食べるのが好き。
これは、子供の頃いちばん上の兄が考え出したもので、フランス料理のようだと家族中で気に入っていた食べ方。
昨日「野菜や」さんで食べた南瓜もおいしかったな。甘く炊いたのに、片栗粉をまぶして揚げてあった。そして、ごぼうを酢で煮たのもおいしかった。赤ワインに合っていた。こんどやってみよう。

日々ごはんへ  めにうへ