2002年8月下

●2002年8月31日(土)

昨日はお酒を飲んでも煙草は吸わなかった。咳はまだ治まらないけれど、ここのところの便秘が一気に解消された感じ。お酒って不思議なもので、飲みすぎると身体が悪いものをついでに掃き出してくれて、大掃除できる気がする。
3時にねこちゃんから電話で、近況など報告し合う。ねこちゃんは、最近地方に出掛ける仕事をたくさんやっているらしい。仕事を減らすようになったとは言っているけど、よく聞くとやっぱりとんでもないスケジュールで動いているようだ。けど、元気そうで安心した。
昨日のレシピを直したり洗濯したりして、夕方にはまた寝てしまった。りうが冷蔵庫をごそごそやっているのが聞こえたので、8時に起き出して晩ごはんを作る。豆腐ハンバーグ、キャベツときゅうりの塩もみ、水菜としいたけのお浸し、豆腐の味噌汁、たらこ。食べ終わったらさっさと風呂に入り、布団に寝転がって読書タイムだ。網戸からは涼しい風が入ってくる。今読んでいるのは、「エバ・ルーナ」イザベル・アジエンデ。おもしろくてぐんぐん読んでゆく快感。私はこの人のセックス観(と言えるのかどうか分からないが、小説だから)が好きな気がする。たとえば、男を気持ち良くさせてあげられることが女の純粋な歓びで、腐れた気持ちがなく、性愛とか情愛というのが大地的というか、おおらかなイメージを感じる。風通しが良いというか、肥沃な土地に川が流れているような。それは南米という土地のお国柄なのだろうか。関係ないが、古い本って、小さい虫が間にはさまっていて、読んでいるとそのベージュ色の小さい虫が、紙の上をとことこ歩いていることがよくあるが、そのたびに私は「本の虫」という言葉が思い浮かぶが、正式な虫の名前はあるのだろうか。

●2002年8月30日(金)

無事撮影が終わって、クーラーを消して窓を開け放ち、本澤さんたちとビールで乾杯した。7時半で解散して、今日やった料理のレシピの打ち直しをたらたらとやっていたら、ムラムラと遊びたい熱が沸いてきてしまった。「終わったぞー!」という感じなのだ。8月の詰まっていた仕事が、やっとぜんぶ片付いたのだ。
なんとなしに原君に電話したら、マツナリが来ているという。ふーんそうかー、今日は遅いからじゃあまたこんど行くねーと電話を切ったが、それから30分したら、私は駅に立っていた。電車に乗りながら、こういうことって昔はしょっちゅうだったことを思い出した。誰かに会いたくなったら、思い立ったその時に、何時だろうが電車に乗って会いに行っていた。相手に迷惑だとかみじんも疑わずに、電話もかけずに突然行ったりもしていた。うーん、恐ろしいことだ。
原家に着いたのは10時前だった。それでけっきょく皆で朝まで飲んでしまい、始発で帰って来ました。朝から起きて仕事して、そのまま朝まで飲むということでもしない限りなれない精神状態というのがありますが、今日は、ほんとうに久しぶりにそういう状態になった。始発電車を降りて、ゴミの収集車が街を巡回している頃、くたびれがピークになるらしく、見慣れている街のほんとうの景色が見えるようになるみたい。奇麗でも汚くも凹凸もなくて、ただ隅々まで全部同じ明るさで見えてしまう無機質な景色。夢も希望も華やぎも、私の脳が勝手に作り出してるから、普段の私の目はいつも嘘をついている。クールダウンして街を眺めると、私のやっていることや、有名とか収入とか、それがどうした?っていう気分になる。だからと言って、やる気がなくなるとか生きる希望がなくなるというのではなく、まったく逆の所から、ぐっと落ち着いたやる気のようなものが出てきて腹に居座る。
やっと遊びたい熱が静かになった感じ。たぶん私は興奮していたので、腹をすわらせて良い本が作れるように、身体を利用してこういう精神状態を味わえるように仕組んだのだという気がする。

●2002年8月29日(木)

ゆうべまた咳が出てよく眠れなかった。何なんだこのしつこい咳は。煙草はずっと吸ってないのに。怖くて吸えない感じだ。
デリデリを録画するので11時前に起きた。スイセイもいっしょに見ていて、ちょっとだけ褒められました。気分が良いのでそのまま起きて、シーツや布団カバー、布巾、バスタオルなど白いものばかりを洗濯した。台所のレンジも磨いた。先週からのもろもろの仕事が片づきつつあるのだ。今日はこれからクウクウに行って、秋のおすすめメニューの仕込みだ。帰りに明日の撮影の仕入れをすれば良いのだ。そうしたら、ほとんど私はゼロにもどれる。ゼロにもどって本の撮影がスタートだ。その間、他の仕事が入っても断る覚悟。

●2002年8月28日(水)

朝、カンカンと乾いた咳で目が覚めた。ゆうべの炊き込みご飯の残りにしらすをのっけて食べ、薬を飲んでまた横になった。しらすって私は好きだなあ。薄い塩味でホワホワしていて、ちりめんじゃこよりもずっと好きだ。病気の時にでも食べたくなるようなものが、その人のいちばんの好物だと思う。私は海苔としらすだな。
というわけで、少し横になっていたら、なんとなく元気があるような気がして起きてみた。洗濯をしたり、パソコンをやったりしているうちに、咳が出なくなってきた。風呂に入って気分もスッキリだ。
文章の仕事もスラスラとはかどって、丹治さんにお送りしたので、スイセイを誘って買い物に行く。空は青いが、なんとなく雲が黄色がかっていて、明るさがおとなしい。秋の夕方だなあ。そして風邪をひくのって、たまにはだいじかもって思った。このスッキリ感は、寝る時にもずっと担いでいた重たいリュックを降ろして、温泉に浸かって出てきたような清々しさだ。
ゆうべも咳をしながら「王国」をもういちど読んだが、身体に響くような本だなと思いました。なんというか、私の寝ぼけた頭に感応するような、素直な脳に染みるような。
夜ごはんは、しめ鯖、豚バラと豆腐と小松菜の中華炒め、ゆでブロッコリー、じゃが芋の味噌汁、玄米。煙草は昨日からぜんぜん吸ってません。このまま禁煙したいという気持ちと、心置きなく吸ってみたいという気持ちと、両方感じているが、とりあえず今日のところは禁煙しておこう。またぶり返したらいやだから。

●2002年8月27日(火)

ゆうべは咳が止まらなかった。大急ぎで薬を再開したが、すでに時遅くまったくの風邪状態だ。「夏風邪はしつこいですよ」と医者に言われていたのはこれだったか。薬も最後まで飲みきるようにと言われたのに、すっかり油断して気前よく煙草まで吸っていた私が悪いのだ。
反省してひたすら眠る。本を読んではまた眠る。6時過ぎにやっと起きて、今風呂に入ったところ。これから次の撮影のレシピをまとめなければ。そして晩ご飯は何にしようか。買い物に行きたくない。

●2002年8月26日(月)

日置さん、池ちゃん、藤原さんのいつものメンバーで久々に撮影だった。床に座ってすり鉢を股にはさんで胡麻を擂っている時、日置さんは立て膝でカメラを覗いてぐっと近寄り、シャッターの連続的な音がして、胡麻擂りのゴリゴリ音が腹に響き、ちょっと私はクラッときました。薄暗い部屋の中で、誰も何も喋らずにつっ立ったまま、私が擂っているすり鉢の中の様子を覗いている。時間が止まった様な、そこだけ切り取った時間の様な、なんか分からんけど、至福なような気持ちになったのだと思う。
4時には撮影が終わり、陽が照ってきたので、散歩がてら図書館へ。「夢判断」の本でも借りに行こうと思って。なんでかと言うと、ゆうべ落下する夢をみたからだ。エレベーターの箱がない空間のような、けれどのっぺりした四角い穴の様な所を、ジャンプしてから飛び降りる夢だ。飛ぼうとしたら以外にも落ちてしまったという感じで、すごい高さを落ちていった。途中で内臓がぐわんと持ち上がった感触で目が覚めた。すごい怖かった。
夢判断によると落下の夢というのは、何かの障害や問題を乗り越えたがっていることを意味するんだそうだ。そしてその時に、何かを失うのではないかという不安を表していることもあるんだって。乗り越えなければならない障害が大きいほど、どこか高い所から落ちる夢を見やすいとまで書いてある。うーん、当たっているような気がしないでもないぞ、最近の私。

●2002年8月25日(日)

クウクウの日。テレビの人たちが撮影に来たりして、なんだか落ち着かないまま忙しく働いた。秋のおすすめメニューで沖縄ソーキそばをやるので、ソーキを沖縄好きの新井君に任せて仕込んでもらったら、それがとろとろに柔らかく、おいしく出来上がった。私は、自分が作っても誰かが作っても、おいしく出来た時がいちばん嬉しい。
どうやら風邪は治ってきたみたい。薬のせいで便秘になる気がするので、もう飲むのをやめることにする。

●2002年8月24日(土)

あやさんの同居人の赤松じいさんが、今日白内障の手術なのを思い出し、布団の中で(がんばって赤松さん)と、ぐっと念じて目をつぶっているうちに、また寝そうになってしまった。「のびるで!」とスイセイがふすまを開けて叫ばなかったら、またぐうぐうと寝てしまったことだろう。スイセイは朝ごはんにほうれん草と豚肉入りのラーメンを作ってくれたのだ。豚肉は、使い残した50グラム分の厚切りに、適当に塩をして5日目のものだ。肉がしまって肉汁がため込まれ、ラーメンのスープで煮ただけなのに焼き豚よりぶりっとしてとてもおいしい。塩と豚とねかした時間だけなのに、こりゃあすごいもんだなあと感心していたら、ラーメンをすすっていたスイセイが、「光が弱くなったのー。」と言った。ほんとうだ。これが秋ということなのだ。
昨日の収録で化粧を少し厚めにしたせいで、目の周りが腫れてますます赤くなっている。薬草クリームを塗って、今「世界音痴」を読んでいます。世界音痴というのは、一般的な世界に対して感覚がずれているという意味らしい。
今日の予定は文章の仕事と映画の感想コメントを考えること。あさっての撮影の準備でケーキを1本焼くことだ。
ゆうべは収録が終わってから、スイセイとりうとササ坊とクウクウで閉店まで飲んだ。飲んでいる時には冗談ばかり言い合っていたくせに、駅まで送った改札の所で、りうがササ坊に抱きついたかと思ったら、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしている。あんまり人前で泣かない娘だから(私が見たのはたぶんこれで2回目だ)、びっくりした。秋田から上京したササ坊は、スイセイの20代の頃からの友人で、今は2人の男の子の母親。肝っ玉かあさんという感じの人だ。りうも小さい頃、さんざん遊んでもらったらしい。抱きつかれたササ坊も、「ミーちゃんの言うことをよく聞いてな、がんばるんだよ、りう。」と言って泣いている。なんか、育ての母に再会したりうを、継母の私が見守っているという感じの場面だった。私ももらい泣きしながらスイセイの方を見ると、わざと他所を見てつっ立っていた。
そして、ササ坊がお土産に持ってきてくれたオクラや枝豆やら茄子やらきゅうりやら獅子唐やら畑の野菜を(朝、じいちゃんがひきぬいてくれた)、今夜は料理しようと思う。夏のなごりの野菜たちだ。

●2002年8月23日(金)

朝起きたら咳はますますひどく、雨も降っているし、暗い気持ちで12時にスタジオ入り。咳止めシロップを飲んで気合いを入れたら、知らずしらずに咳は治まり、お茶をちょくちょく飲んでのどを潤しながら、どうにか6時には収録が終わりました。それにしても、何度もダメだしが出て(私の説明の仕方や言葉遣いがおかしかったり、言葉が出なくて沈黙したり、えーと、と何度も言うからだ)、一時はどうなることかと思いました。しかし、作った料理は全部ほんとうにおいしくできた。カメラや音声の人たちも、「マジうまいっすー!」とおっしゃってくれました。私は、こういうのが本当にいちばん嬉しい。
この模様は、9月2日のはなまるマーケットで放映されます。

●2002年8月22日(木)

ついにダウンです。
朝、あまりにも咳がひどかったので、病院に行って風邪薬をもらい、薬のせいで朦朧としながら眠り続ける。

●2002年8月21日(水)

痰がからんで仕方ないが、咳は治まってきた。
テレビ用の仕入れに行くついでに、カリス成城で薬草のクリームや水に溶かして飲むエキスなどを買った。最近私は目の周りがアトピーのようになっていて、何をやっても治らないから、クウクウのちいちゃんに相談したらそこの店を教えてくれたのだ。ちいちゃんが言うには、環境が変わったりして、自分では気がついていない気持ちのストレスや疲れが、目の周りに出ることがよくあるらしい。そう言われたらちょっとそんな気になってきた。そうかー、くたびれているのか私は。
帰ってから熱をはかると7度ちょっとあった。煙草の吸いすぎかと思っていたが、どうやら風邪なのかも。顔を洗ってそのクリームを塗り、布団に入ってばななさんが送ってくださった新刊「王国」を読む。本に流れる全体的なイメージと、薬草クリームが自分の肌に染み込んでゆく匂いがリンクしてしまい、いい気分で眠くなってきた。ばななさんの本を読んでいて眠くなることなど、いまだかつて一度もなかったのに。一気にうわーっと読み倒してしまうのが常だったのに。読み心地が良いのだ、とっても。それで、もうこのまま寝てしまうことにした。
目が覚めたら9時だった。フラフラと起き上がって、夜ご飯の支度をする。今日の献立は、豆腐ハンバーグ、たらこと豆腐の蒸し物、じゃが芋の味噌汁、玄米ごはん。豆腐ハンバーグは、パン粉を多めに入れて多めの油でカリッと焼いた。焼き汁に酒、しょうゆ、玉ねぎのすりおろし、バターを入れて煮詰めたもの。
ご飯を食べ終わって、本の続きを読み始める。薬草クリームをまた目の周りにすり込んでから。

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