2002年10月中

●2002年10月20日(日)

クウクウはけっこう忙しかった。
今日皆と働きながら、何年か後に急に懐かしく思い出すんだろうなーこういう日々のことを、という思いがふらっとした。なんだかんだ言いながら、つまらなかったり楽しかったりしながら、大勢でひとつのことを作り上げるという作業だ。わーわー言いながら、料理を仕上げてゆく楽しさだ。これをずっと長年私はやってきて、あーでもないこーでもないと皆に注意したり怒ったり、たまに落ち込んだりもしてきたわけだが、クウクウにいる高山さんという人が、自分の中に昔から居座る頑固ものの孤独好きな人よりパワーが落ちてきた。というか、頑固ものがムキッと頭半分飛び出してきちゃったような感じか。
帰ってから、また「バーたかやま」になり、スイセイは料理用の日本酒をちびちびと、私は梅酒を飲んで5時まで開店していた。
梅酒は確か6月に漬けたのだと思うが、梅の甘酸っぱさがよく出ていて、やっぱりチョーヤとはちと違うぜっていう、ふくいくとした香りだった。
そういえば、吟醸酢っていうのたいして旨くなかったで。
いつも買っている純米酢の「富士酢」というのの方が、きりっとしているのに旨味がたっぷり、甘くないのがお気に入りだ。もう浮気はすまいと忘れないようにここに書いて起きます。

●2002年10月19日(土)

曇りから雨に、しっとりと落ち着いた天気だ。外に出なくても良い日のこういう天気っていいなあ、読書デーと思うから。
昨日の残りの青菜とあさりのスープでざざっと雑炊を作り、にんにくチップと香菜なんかのっけて、エスニックな朝ごはんをひとりで食べた。スイセイは、これまた昨日の残りの豆腐入りドライカレーをスパゲティーにしたらしい形跡があった。
そして、もうひたすら読書デーに突入。カフエオレを作って、カーテンを締め切り、布団の中で、枕もとの電気だけで次から次へと本を読む幸せタイムだ。
夜ごはんは、鯵の目刺し(めずらしいもんがスーパーにあった)、大根おろしと貝割れ和え、ながも(佐渡産のめかぶみたいな海藻、これもスーパーにあった)と納豆を混ぜたもの、茄子といんげんの黒酢しょうゆ炒め、白菜漬け、玄米、かぼちゃの味噌汁。
ひとつぐらいは仕事をせねばと思い立ち、夜中の1時に肉団子の試作をしました。これは明日のスイセイたちの晩ご飯になる予定。

●2002年10月18日(金)

雨上がりが気持ちいいのか、鳥たちが集まってはさえずっている。まるで飛び込みのように頭から突っ込んで落下するかと思ったら、ひょいと急上昇する飛び方のグレーのスマートな鳥。2羽がからまりながら遊んでいるように見える鳥。何ていう鳥なのだろうとずっと気になっていました。双眼鏡で見ると、目の脇に赤茶色の斑点があり、腹のところはグレーのぶち。くちばしは黒く長めだ。図書館で借りた図鑑を見て、「ひよどり」だということが分かった。そーか、これが有名なひよどりか。鳴き声は「ぴーーよ、ぴーーよ」と、けっこうきれいな声だ。
ゆうべは終電前で帰って来ました。「太陽」から電車で帰ろうと思ったら、12時に出れば充分間に合うことがわかった。
吉祥寺駅からてくてく歩いて帰りながら、いつも通る小学校の校庭のところで思わず立ち止まってしまった。柵の手前に、小さなオレンジ色のコスモスみたいな花が1輪だけ咲いていて、その向こうに広がる運動場は碧っぽくひんやりと沈んでいた。その景色がひじょうに美しかったので。ためしに道路脇の木を見てみたら、それもまた深い緑でつやがあり美しい。酔っぱらっている時って、いつもなんでもなく見ていたものが、うわっと美しく見えるのだがそれはなんでなのだろう。私の目のせいなのか、精神状態のせいなのか。たぶん、もともと景色などというものは、ものすごく美しいものなんだろうとは思うが。美しいと思うこと自体が、どういうことなんだろうと考えてしまった。
そういえば芸術の人たちって、自分の作品を説明したりする時に、すごくしちめんどくさいことを言う。いろいろあるが、たとえば自分の作品を見て驚く人がいて、その驚くってことがアートなんですとか言っちゃって、ぜんぜん信用ならない。そんな風だから、アートというものと言葉は正反対のものではないかとずっと思っていました。言葉にすればするほど陳腐になって崩れてゆくものだと。
大竹伸朗という人は、私の知っている限りそれをくつがえしたただひとりの人だな。芸術というものがどういうことなのか、初めてきちんと言葉で私に説明をしてくれた人だ。やられたなーという感じだ。
そしてこの人は、「想う」と私だったら書くところを「思う」と書く。秘密はそこらへんにもあるかもしれない。なんというか冷静なのだ。ものごとを見る目が冷静で、すばらしくエキサイティングなことなのだけど、たいしたことではなく当然のことでもある のだと、高い所からゆくっり眺めているような視線。それなのに文章は湿り気もほどよくあって、切なく美しい。布団に入ってからもぶつぶつとそんなことを考えていて、ゆうべはなかなか寝つけなかった。
関係ないが、背中のぶつぶつ治ってきています。日々、すごい勢いできれいになってきているらしい。スイセイに薬をぬってもらっているので私は見えないけれど、そういえばかゆみもなくなった。お医者でもらったシャンプーに変えてから、目のまわりも調子よく、乾燥して皴がいっぱい寄っていたのが、すっかり潤ってもとにもどりつつある。

●2002年10月17日(木)

ゆうべはみな子さんの本を読みふけった。「終わりの蜜月」の中のみな子さんの姿形、顔までよく見えてきた。けれど、なんとなくだがしっくりこないのはどういうわけだろう。利雄さんの目から見えていたドキュメントタッチの日々の方が、想像が広がるというか、絵のように感じられ、顔はぼんやりしか見えないが、気持ちの襞や移ろいゆく気分のようなのがよく伝わってきた。同じ日記なのに、みな子さんのは個人的な夢日記みたいで、利雄さんのは小説を読んでいるみたいだった。なんでなのだろう。
12時に起きてカーテンを開けると、ここのところ秋晴れ続きでもったいないくらい。毎日洗濯をしたくなるので、いくらちょっとしかなくても洗濯をしてしまう。
窓も磨きました。家中のをやってしまいたかったが、とちゅうでスプレーがなくなったのでやめた。
また今日も本の文章書き。少しずつ少しずつ、土をどけたら埋まっていた器(伝えたいことのテーマ)が顔を覗かせて、周りの土を指ではらっているような、今日はそんな感じだった。あとはそれを布で拭いて磨けば良いのだろうか。それもまた違う気がするような。
夕方から「既にそこにあるもの」大竹伸朗著を読み始めた。すごくおもしろい。なんで私は今までこれを読まなかったのだろう。前に私はヤノ君の家で、「これいいよー」と薦められた。その時例によってべろべろに酔っぱらっていて、ちょっと開いて読んでみたのだが、直感的にアーチストのしちめんどくさい我儘なつぶやきっていう感じがして、「あー私これだめだ読めないや」って、10センチくらい放り投げてしまった。それ以来図書館で見かけても、装丁はすごく良いんだがなーおしいなー、などと生意気に思っていた。いったい私はどこをどう読んでいたのだろう。酔っぱらっている時の直感というものを、私は動物的なものと思い、ひじょうに自分でも評価していたのだが、こういうことがあるとやっぱり疑った方がいいのかもと思う。ぜんぜんだめじゃんと思う。
だけどこれを読む気になって、そして図書館でちょうど目の前にこれがあってよかった。立花君と川原さんが、ふたりとも口を揃えて「あれはいい本だ」と言っていたから、だから読んでみる気になったのだ。私が、「あれ、前にちょっと読んでみたけど私はだめだったよ」と言ったら、ふたりして「えーなんでー?」と疑いもなくそう言ったのだ。大竹さんのような人が、自分と同世代で活躍なさっているということが、とっても心強く励まされる気持ち、と遅ればせながら私も思いました。まだ読んでない所がたくさんあるから、私はとってもうれしい。
夜9時くらいに「太陽」で丹治君と待ち合わせなので、スイセイとりうのためにきのこご飯、白菜のくたくた煮(ねこちやんの昆布をたくさん入れた)、ちりめんじゃこの卵焼きを作っておきました。そろそろ出掛ける準備でもしよう。

●2002年10月16日(水)

すっかりよく眠って1時半に起きました。
図書館に行って10冊借りてきた。大庭みな子さんの本を2冊借りたのだが、「楽しみの日々」というのが、まさにこの間読んだ「終わりの蜜月」と重なる時期に、聞き書きされたものらしいことが、今パラパラとめくっていて気がついた。うわーーい!こういうのがいちばんのプレゼントだ。
夕方からは、本の文章を書き加えたり省いたりのパソコン作業。けっこう集中してできました。昔は音楽を消さないと文章が書けなかったけれど、今はずっと C Dをかけっぱなしでやっている。クラムボンの郁子ちゃんにもらった新しいのと、前作のを繰り返しかけている。
ねこちゃんが昆布の詰め合わせいろいろを送ってくださる。最近函館に行って、一生分の昆布を買ってきたんだそうだ。それで今はそのレシピを頑張っているのだそう。昆布はわが家にかかせないので、とてもうれしい。そして、「ヤマト」という粉寒天もおまけで送ってくださる。ねこちゃんに教わったレシピで牛乳寒天(ゼリーっぽい)を、夕方のうちに作っておく。
夜ごはんは、タラのコロッケとクレソンとにんじんサラダ、ゆうべの残りのピーマンおかか炒め、大根と卵の味噌汁(卵はフライで使った残りを溶き入れた)、のりの佃煮、玄米。
食後に牛乳寒天にきな粉と黒みつをかけて出してやったら、スイセイはものすごくおいしがっていた。皿をべろりべろりとなめていたほど。

●2002年10月15日(火)

ちいちゃんに教わった新中野の皮膚科に行ってきました。
近所の病院の皮膚科ではアトピーですねと言われていたが、違うことがわかった。
目のまわりの赤いのも、シャンプーのせいではないかとのこと。今までなんともなかったのが、環境の変化や微妙な体調の変化で反応が出てくることがあるとのこと。ひじょうに安心して帰って来ました。おじいさん先生は皮膚科一筋で、怖い感じのする人だったが、ドキドキと自分の状況を話ているのに、なぜか私は癒されるような感じになった。それはなぜなんだろう、やさしいばかりが人の気持ちをやすらかにするわけではないな、などと思いながら帰ってきた。
石川県の「ぶりの押し寿司」というのを買って帰り、スイセイとふたりで食べて、「クウネル」をふとんの中で読んでいたら寝てしまった。まさにクウネルだなと思いながら。「ぶりの押し寿司」は初めて食べたが、あぶらがのったぶりと上にかぶさったカブの微妙な酸味がたまらなくおいしかった。スイセイの好物がまたひとつ増えました。またいつか買って来てあげよう。
スイセイが台所に来てごそごそしているので起きたが(10時)、まだまだ私は眠たかった。「南の島から出て来た人みたいな顔になっとる」とスイセイに言われ鏡を見ると、目が腫れて顔が真ん丸になっている。ご飯を作りながら、なんとなし微熱がある気がする。急に気が抜けて風邪でもひいたんだろうか。
夜ごはんは、キングサーモンの西京みそ漬け、あさりの潮汁、もずく、小松菜おひたし、ピーマンおかか炒め、ウインナー炒め、玄米。
ご飯を食べていたら、空が紫に光って雷が。雨もざんざんと降っている。
しばらくして、りうが濡れねずみになって帰って来た。

●2002年10月14日(月)

今日、スイセイがホームページをアップしてくれて、日記を読んでくれたらしく、双眼鏡を出してきてくれました。ごっつい昔風の大きなもので、重たいけれどものすごくよく見える。目の前30センのところに木の葉が見える。スズメなんか、お腹のところがぷっくり白くて頬っぺたもふくらみ、あんなに可愛いらしい鳥だったとは。
午後からは文章をちょこちょことやったが、どうも気が散ってしまい、ベランダで双眼鏡をのぞいたり、ぶどうジュースを作ったり、枇杷茶を買ったのでほうじ茶と混ぜて煮出したりと、なんだかうろうろしていた気がする。
おやつに、ぽってりとした衣のさつま芋の天ぷらも作った。スイセイが子供の頃、天ぷらというとさつま芋ばっかりで、「うんざりするほどかあちゃんが作るんよ」という話をよく聞いていたが、たまに猛烈に食べたくもなるそうなので。
夜ごはんは、里芋れんこんこんにゃくの煮物、塩豚とゴーヤの卵炒め、セリと春菊のおひたし、さんまの干物、大根ときゅうりの梅酢和え、かぶの味噌汁。今日の玄米は大豆入りだ。スイセイはちょっといやがっていた。

●2002年10月13日(日)

あー忙しかった、クウクウ。
ひさびさに腰がいたいっす。
賄いで作った春雨炒めがおいしくできたので、ここにレシピを書いておきます。
まず豚バラを炒め、トーバンジャンを焼きつけ、にら、しいたけ、クレソンの茎などを加えて炒める。酒、砂糖、しょうゆ、スープ(トリガラスープ)を加え混ぜたら春雨を入れて汁を吸わせ、最後に黒酢をちょっと加える。
明日から1週間は、何も仕事を入れてない。秋の行楽に出掛けたいところだが、じっくりと本のための文集をやるつもりだ。

●2002年10月12日(土)

あまりにも秋晴れの天気。
今、私がいちばん欲しいものは双眼鏡です。家の小さな森(枝を広げた背の高い木が3本あるんです)に集まる鳥たちを見たいのです。
がんばって原稿を書き終え、4時にはメールで送りました。
とりあえず今週の仕事は終わったことだし、この天気の良さにさそわれて、スイセイを誘って街へ買い物に。そしてそのまま西荻までてくてくと歩いてマキオ君の店へ。
いわしの刺し身、新れんこんのはさみ揚げ、揚げ茄子のマリネ、シメジの精進春巻き、卵うどん、〆さばとピクルスのマリネ、茶わん蒸し、新里芋の煮っころがし、茄子とみょうがのさっぱりサラダ。今、思い出すのはこのくらいだが、もっと私は食べた気がします。スイセイは飲み始めるとあんまり食べないから、ほとんど私がひとりで食べました。誰かが作ったおいしい料理に、ものすごく飢えていた私。
帰りもてくてくと歩いて帰って来た。べろべろに酔っぱらったスイセイと手をつないで。スイセイの手って、するりと抜けてしまう。助けてーとふざけても、するりと抜けてしまう乾いた手の平だ。

●2002年10月11日(金)

今日は何もしないでおくことにしようと朝布団の中で思い、そのまま1時まで寝てカーテンを開け、枕元にあった「セブンデイズ・イン・バリ」を読み始めた。とちゅうベランダでりうが洗濯ものを干しているのが見えながらも、自分はバリ島にいる感じになってぐんぐん読んだ。
お腹が空いたので、しらすと大葉とのりの混ぜご飯をさっと作り、昨日の撮影の残りの煮込みものを温めて3人で食べ、さっさと寝室にもどり続きを一気に読み倒した。
何もしないでおこうかと思ったのに、連載の原稿が書けそうな気がして夕方からパソコンに向かう。夜ごはんは、りうにジャワカレーと鷄肉を買って来てもらって、れんこんと里芋としいたけの入った、昨日の撮影のなべ物の残りで和風カレーを作った。豆腐や白菜まで入っていたが、わりと好評でした。
そしてまた原稿の続きをやった。なんとなく形になってきたもよう。
窓を開けると、冬の夜の匂いがする。ストーブを出したいくらいだ。
今日は1日中パジャマで過ごしました。風呂にも入らずに。

日々ごはんへ  めにうへ