2002年11月上

●2002年11月10日(日)

くうくうの日。早い時間からどんどんお客さんがいらして、暮れの慌ただしさをちょっと思い出した。ぎゅっとエプロンの紐を締めて、てきぱきと動いたので、腰の具合がやばいです。帰ってからストーブで温めたら少し良くなったみたい。
ところで、先々週怪我をした私の顔は、「治りましたねー」と皆は言ってくれるけれど、けっこう跡が残っていて、ちょっと見るとシミの様なのだ。あんまり気にしていないが、お酒を飲むとそこがポーッと赤黒くなるのです。
終わり頃にシタ君が来た。シタ君はとっくにクウクウを辞めたくせに、時々賄いを食べに来る。一応は遠慮していて、最後の番のグループが食べ始めると、なんとなく誘われるのを待っている様子。しかも彼は痩せの大食いで、すごい食べっぷりがいいのだ。口の周りにマジでごはん粒をつけながら、カカカッと箸を動かしていつもかっこんでいる。私はそういうシタ君を見るのがすごく好きだ。

●2002年11月9日(土)

自転車をこいで川原さんの家へ、ちょっとした作業をしに行った。
すっかり仕事部屋の空気になっていました。窓が大きくて陽がたくさん入り、すっきりと片付いた部屋。音楽もかかっていていい感じだ。大きな机の上には色鉛筆や刷毛があったり、資料や紙が積んであったり、それらが整然と広げてあって奇麗だった。イライラした感じがまるでしない仕事部屋だ。お土産に持って行ったごろごろ野菜のスープに、あさりのオリーブオイル蒸しを加えてみたら、まるで地中海風のように洒落たおいしいスープになり、ふたりして喜ぶ。
帰りに、農家の野菜を売っているところでキャベツを買った。「今畑から採ってきたばっかりだ」とおじさんは言っていたが、固く巻き込まれたみずみずしい玉の外側の葉までパリッと新鮮ですごくおいしそう。これで120円とは。
夕方、旧図書館で何か展覧会があるというので、近所だからスイセイと出掛けました。残念ながら内容には興味を誘われなかったが、古い図書館の建物はとても良かった。床の羽目木や階段のむき出しのコンクリートや、トイレの通路なんか石垣になっていて驚いた。古い本棚やブックエンドなど、もらって帰りたいほどだった。この図書館が栄えていた頃の景色が、ぼんやりと浮かぶ。窓の外には緑があって、床がキュツキュッと鳴って・・・しばしタイムトリップしました。また昼間に来てみよう。
帰ってからワインを1杯飲んだらポーッと眠くなってしまい、スイセイとお昼寝タイム。「今夜、ご飯作りたくないなー」と甘えると、「えーで」と優しいスイセイだ。
私は助けられているなーと思う。自分のやりたいこと、やりたくないことを気持ちのままに無理せずやったらええというのがスイセイの考えなので、くたびれた時にそれがものすごく響くことがある。
で、夜ごはんはスイセイが卵うどんを作ってくれました。太めの乾麺をゆでて、ゆで立てに卵を落としたもの。濃いめのつゆをちょっとかけて食べるというものだ。讃岐うどん風。どうしても今日買ったキャベツを食べてみたかったので、ざくざく切って茹でた。それだけは私がやりました。切る時、包丁をちょっと入れただけで、パンッと割れるように切れた。小皿にマヨネーズをしぼり、ナンプラー、ゴマ油、黒こしょうをひいたものをゆで立てのキャベツにつけて食べた。大満足のごはんでした。

●2002年11月8日(金)

ムキタケのつくだ煮作りました。
酒、砂糖、しょうゆを煮立てた中にムキタケを入れて、アクを取りながらしばらく煮ただけ。表皮の下にゼラチン層があるそうで、ちょっとなめこに似た感じ。なめこよりもぜんぜん大きくて平たいから、最初はちょっとびっくりする形だったが、煮たらおいしそうになった。
冷めてきたので、今台所に行って味見をしたが、こりゃあすごくおいしいものだ。煮汁がとろっとしていい感じだ。小さい瓶にいくつも詰めました。いろんな人にあげようと思う。伊藤君が寒い山に入って採ったきのこです。この間の電話の時には、「吹雪いてます」と言っていた。
トリガラでスープをとりながら、また今日も本の原稿とにらめっこだ。自分のしつこさにまだまだゲーが出ないけれど、本が出た時にすっかりうんざりして、しばらくはそんな本見たくもないと思うくらいになると良いと思う。というか、きっとそうなるだろう。
夜ごはんは、鷄のパエリア風炊込みごはん、ソーセージ炒め、卵とチーズのスープ、カリフラワーのサラダ。スープはトリガラの煮込みとちゅうのスープで作った。まだほんのり薄かったけれど、チーズのおかげでいい感じに。今日のスープストックには白菜やらカリフラワーの茎や葉が入っているので、野菜の味もじんわり混ざっている。
さっき、ふっと思い出してスープの火を消した。6時間近く煮込んでいたことになる。ざるでこして味見をしたら、うーん、すごい濃厚な味。喩えは悪いが味の素のようだ。
明日これを薄めて、じゃが芋と白菜とキャベツとソーセージのスープを作ろう。今週はずっと家にいるので、ご飯作りにもそろそろ飽きてきたけれど。

●2002年11月7日(木)

9時に原稿の速達で起こされ、11時にまたペリカン便で起こされる。もうちょっと寝たいんだけどなーと思いながら布団をかぶっていたら、いつの間にか寝こけてしまい、2時に川原さんの電話で起きました。私のレシピの食パンを2次発酵しているのだが、型が小さすぎてはみ出てしまいそう、どうしたらいいでしょう?ということだった。とりあえず2/3量を型に入れ直して、残りは丸くして焼いてみたらということに。
宅配便はきのこでした。一昨年波照間島で会った伊藤君が、富山の山の中で工事の住み込みアルバイトをしていて、「きのこがたくさん採れたから送ります」と、このあいだ電話があったのだ。開けてびっくり、ものすごい量のきのこが冷凍されて入っていた。茶色い方がムキタケ、白い方はブナハリタケというのだそうだ。手紙らしいものは、簡潔にきのこの説明だけを書いたノートをやぶったみたいな紙切れ1枚。照れ屋の真っ正直な伊藤君らしくて笑った。こういう手紙って、いちばんその人が伝わるようで私は好きだなー。だいじにとっておこう。
4時くらいから、川原さんの家にパンの様子を見に行く。ご近所さんなので。
パンは、かわいらしくそれなりにおいしそうに焼けていた。しかし電気のオーブンだとは電話で聞いていたが、オーブントースターをひとまわり大きくした様な、電子レンジと一体型の電気オーブンだった。奥行きも高さもそんなにないのに、初心者さんというのは無謀なことをするものだ。そうかー、と私は思う。私の本を見て作ってくれる人の持っているオーブンって、こういう感じかもしれないな。だけど、食べてみたら案外ふっくらおいしくて、形もかわいいし、作った本人もとても嬉しそうだし、それはとっても良いことの様な気がした。プロっていうのは、プロの味にできるだけ近づくように皆さんに作って欲しいと一方的に願ってしまうから、説明過多になったり、ついおせっかいをやきたくなったりするけれど、そんなのは料理家のひとりよがりな自己満足でしかないかもなー。けっきょくは作る本人が幸せだと思いながら作れたり、食べてみて「おいしいじゃん」と思ったりすることの方が、どんなにか貴重なことだか。
夜ごはんは、もつ煮込み、ちくわとほうれん草の卵炒め、かますの干物、ゆうべの残りの根三つ葉のおひたしと玄米。
とりあえずムキタケの方が大量なので、つくだ煮風に煮ようと思い朝から解凍しているのだが、まだまだぜんぜん溶けないぜ。

●2002年11月6日(水)

本のメンバーと打ちあわせ。
立花君は、立花君ぶりを発揮して川原さんに厳しい要求をしていました。
しかし、これからの全体の流れについて皆で話し合っているようだったが、そのスピードに頭がついていかず、とりあえず自分のやらなければならないことを確認するのが精いっぱいだった。どんくさい私。
皆が集まった時に聞いてみようとか、確認してみようとかって思っていたことを、いざ集まってみるとワーッとなってしまって、ぽんっと忘れてしまう私。どうにかならないもんだろうか。そしてまたひとりになると、いろいろな疑問点や忘れてはいけないことなどが出てきてしまい、メールしたり電話したりしてしまう私だ。また高山さんだ、しょうがねーなーっと思われているにちがいない。
今、私は暇なんですね。
これから食パンでも焼こうかしら。
焼きました食パン。何度も作っている私のレシピだから、夜ごはんを作りながらふんふんと簡単にやってしまえる。粉やらイーストやら計るのが面倒くさいが、後はなんでもなくまるで洗濯をするような気軽さでやれる。パン生地をねるのって、案外らくちんなんだということを、ぜひ皆さんにお伝えしたい。このレシピは本で紹介します。
夜ごはんは、ごぼうの黒酢煮、根三つ葉のおひたし、茄子と南蛮唐辛子(山形のほどからなんばんというのを昨日八百屋で買っておいた)のにんにく味噌炒め、塩鮭、じゃが芋と絹さやの味噌汁。味噌汁のじゃが芋(大きめに切った)をだし汁で煮る時に、水面が動かないくらいのものすごく弱火で時間をかけて煮たら、ポクポクとしてじゃが芋の味がしっかり残り、まるで違うおいしさだった。メークインのせいもあるのだろうか。
うちのスイセイは、新聞を読みながらとかテレビを見ながらごはんを食べるから、めったにおいしいと言ってくれないが、今日は味噌汁を飲んで「うーん」と唸りながら新聞を読んでいた。こういうのって、ものすごく嬉しいことだ。
今日は早く風呂に入って、太宰治の「父の言い分」というのを読もう。昨日図書館で借りてきました。
夜中にごそごそと台所で音がして、ゆうべ作っておいたマーラーカオを誰かが食べようとしているらしい。そういう音って「家族」だなーと思い、あったかい気持ちになる。

●2002年11月5日(火)

打ち合わせが思ったより早く終わったので、あちこち掃除をした。
本棚やテーブルをオレンジなんとかで磨き、ついでに床もちょっと拭いてみたらなかなか良い感じなので、ワックスがわりに床に塗り込んでみました。ツルツルとすべって良い感じだ。しかしスイセイはそのツルツルが「にんにくの茎炒めがキュッキュッゆうのんを思い出していやじゃ」と言うし、りうは「ゴキジェットが床につくとそうなるよね」とか言う。せっかくきれいになって私は気に入っているのに、理解の薄い家族だ。
夕方、図書館に行って10冊借りたかったのだが、返却の中に自前の本が混ざっていて、1冊は家に置きっぱなしだったので、けっきょく9冊しか借りられなかった。公共の場所で自分の本を見た時、家の中を見られた様な、なんともいえず恥ずかしかった。
夜ごはんは、鯵のひらき、ほうれん草のバター炒め、絹さやのゆでたの、かぼちゃの甘辛煮、とろろ芋、えのきの味噌汁、玄米。
八百屋で赤かぶを見つけたので、柚子香漬けを夜中に作った。
赤かぶは皮ごと5ミリくらいの厚さに切り、塩でもんでしばらくおいて、出てきた水分を捨てずに調味料を加えてゆくという私のレシピ。かぶから出てきた水分もまたおいしいので捨てないやり方だ。柚子のしぼり汁、みりん、薄口しょうゆであまりしょっぱくないように味をつけ、柚子の皮のすりおろし、昆布を加えてひと晩漬ける。明日の打ちあわせの時に皆に出してやろうと思う。

●2002年11月4日(月)

なんとなくたらたらとした1日でした。
買い物に行くのもめんどうなので、冷凍庫にひき肉があったのを思い出して、ぎょうざを作ることにした。
皮の水の分量って、ほんの大サジ1杯でもかなり固さがちがう。何度も作っている自分のレシピだが、作るたんびに微妙にちがう。手が憶えているから私はそれでいいけれど、本になって読者の方々が作ってみる時に、その微妙な水加減をどう伝えれば良いのだろうと考えながら練ったので、けっきょく2種類作った。さいしょのはちょっと固め、次のはまあまあ柔らかめ。そしてふたつを茹でて食べ比べてみたら、固い方がぷりっとしてキメ細かくだんぜんおいしかった。固い方は練るのもちょっと大変だし、肌触りもあまり良いとはいえないけれど。けど、柔らかめの方だってぜんぜん文句なくおいしいんだよなー。
しかも家族のごはんだし、まったく頓着なしに皮をのばしていたら、ぜんぜん丸くならなかった。四角だったり五角だったりという感じ。けれど具を包むとどれも可愛らしい餃子の形になるし、ゆでたら形などぜんぜん気にならないのです。味は、もうばつぐんのおいしさ。買ったものとは大違い。
私はそういうことを読者さんに伝えたいんです。だから、変な形の皮とか写真を撮って欲しいくらいだ。
夜中にふと思い立ち、マーラーカオを作った。
きび砂糖と紅茶入り。なぜかあんまり紅茶の香りがしなかった。それなりにおいしかったけれど。

●2002年11月3日(日)

クウクウの日。
加藤君と愛ちゃんの結婚披露宴。
ふたりはクウクウの初代メンバーでした。だからその当時働いていた子たちも集まったりして、ちょっと同窓会みたいな感じでもあった。私は、とても嬉しかった。
昔、クウクウの奥の椅子に座って、よく愛ちゃんの悩みを聞いたりしていたことを思い出しました。とても真っ直ぐな娘だったから、私は可愛がっていた。
小さいことにぐちゅぐちゅと悩んでよく泣いていた愛ちゃんの中に、当時すでに漠然とした何か太いものを感じていたが、今はそれがすっきりとそそり立っているという感じがした。もしもそれが男の力だとしたら、加藤君はなかなかやるなー。加藤君は愛ちゃんにべた惚れで、人前でせいせいと褒めるのです。
スイセイも嬉しかったらしく、べろべろに酔っぱらって、最後は愛ちゃんに寄りかかってトローンとした目で宙を見ていた。

●2002年11月2日(土)

洋服の整理の続きをやり、リビングもスッキリ掃除をして、今日もまたパソコンだ。
連載の文章を書き上げました。
あとは次の撮影の企画書を読んで、メニューを考えること。
世の中は連休なのですね。夕方のニュースでいろいろなお祭りや行事の風景をやっていた。餃子祭りっていうのを何処かでやっていて、スイセイが「えらいのー」と感心していた。何がえらいのかと思ったら、普段の半額で餃子を売っていたらしい。
「今夜は餃子かの?」と、すぐに食べたくなるスイセイだ。
夜ごはんは、冷凍してあった肉団子をもどして、にんじんとブロッコリーのグラッセを作った。肉団子の横でプチトマトも焼き、バルサミコしょうゆソースにした。それらをかわいらしくひと皿に盛りつけ、あとは玄米だけのスピードメニューだ。今夜はりうが外でごはんを食べてくるというので。

●2002年11月1日(金)

雨だっていうのに早起きして洋服ダンスの整理をし、新中野の皮膚科へ。
そしてついでに映画の試写会へ行くつもりでいたら、試写会は昨日でした。お茶しに行った「太陽」でDMを見て気がついた。今日が10月31日だと思い込んでいた私。
けど、シネアミューズでそういえば何か見たいのやってたっけと思い出し、とりあえずタクシーに乗って行ってみました。すると、その映画「ガーゴイル」は明日からでした。
こんにゃく、ちくわ、つみれを買ってとぼとぼと帰ってきました。なんか、むしょうにおでんが食べたくなったのです。
まあ、いい運動になったと思うことにしよう。
ずっとパソコン仕事ばっかりやっていたから、すごく外に出たかったのだ。
たまに出掛けると、そういうことって私は多いような気がする。
だけどどっか行きたいなー。温泉でも行きたいよな、しっぽりと紅葉に包まれてな。

日々ごはんへ  めにうへ