2003年7月下

●2003年7月31日(木)晴れ、蒸し暑い

アシスタントのしおりちゃん、今朝7時10分(正確には9分だったけど、看護婦さんはそう言っていた。四捨五入するものなのかも)に生まれました!男の子です。
ゆうべ夜中に連絡があって、私は少し仮眠をとり、4時半くらいにしおりちゃんの病院に行ったんです。
しおりちゃんは、陣痛の真っ最中。病室に入ってすぐ、私はなぜかびーんと強烈に眠くなった。で、しおりちゃんの体を触っている私の体の中まで、びーんびーんとしびれるような感じになってぼーっとしてしまう。
どんどん陣痛の回数が多くなり、痛さも増してゆくみたいで、しおりちゃんの様子はどんどん変化していった。
痛がりはするけれど、陣痛の合間はすごく冷静なしおりちゃんだった。
ふだんからもなんとなく感じていたけれど、痛がり方が、しおりちゃんのもって生まれた品性のようなのも感じました。
看護婦さんも、ゆっくりゆっくり優しくて、ずっといい感じだった。
「痛いよねー、痛いねー。だいじょうぶですよー」と、声にも言葉にも不安にさせる影がかけらもなく、すごく安心感がある。山や木の自然界みたいな安心感。
それから、しおりちゃんはゆっくり歩いて分娩室に入り、斜めになるベッドに横たわりました。
あんなに完ぺきな人間の形をしたものが、股から出てくる感動。
そしてそれが腹の中で育っていたことの感動。
生まれたての血がついた赤ん坊を抱く、しおりちゃんの顔を見て感動。
感動の嵐の中、爽やかにタクシーに乗って帰ってきました。
帰るとすぐに仮眠して、12時から撮影が始まりました。
あー、長い長い一日だった。
しおりちゃんと永谷は、もっともっと長かっただろう。
今日の撮影は、なぜだかものすごく私の鼻も舌もビンビンで、すごくおいしいものがどんどんできていった。
くたびれてはいるのだが、アドリブも冴えて、静かに落ち着いていました。
ふー、一気に書いたけど、今日はこのへんでやめとこ。

●2003年7月30日(水)曇り、午後から晴れて蒸し暑い

朝起きたら、きのう真ちゃんにもらったイングリッシュ・ローズがすっかり開いていた。
梅ガムか、チェリー味のガムの匂いだと言ったら、真ちゃんは怒るだろうか。
真ちゃんが丹精している庭のバラはもうお終いで、ギボウシがたくさん咲いていた。
いろんな種類のギボウシらしいが、薄紫の地味な花なので、私にはあまり違いが分からない。大輪の蓮の花も、ピンクと白と両方あった。
さて、原稿がどうにか出来始めている。あともう1話書けばオーケー。
ふーっ。昨夜は朝までずっとやっていた。
明日だいじな試験があるみたいにして、必死で机にかじりつき、何でもいいから書き始めたら、なんかポカッと話が浮かんできた。
そういうものなのかもしれない。
何というか、どっぷりと言葉の世界にはまるというか、書く態勢に身も心もはめこんでゆく感じだった。
しかしその状態に身を置くまでの真空みたいな頭の感じ、辛かった・・・。
やはり私は料理家だ、と開き直るわけにもいかん。
文章の方でもお金をもらっているのだから。
でもひとつ分かったことは、何でもいいから書き始めることだと思った。
昔、井伏鱒二が若い頃の開高健に言っていた。
開高「先生、どうしても書けない時っての、はどうしたらいいんでしょう?」 井伏「うーん、何でもいいから書くことですな。アイウエオでも何でもいいんです」 夕方、明日の撮影の仕入れであちこち走り回る。
蜩が鳴いていた。けっこう蒸し暑くて、髪の毛の中まで暑くなる。
やっと夏がきた感じ。
帰りにおいしい魚屋さんで、平目のお刺し身、大粒のあさり、しらすを買う。
夜ご飯は、揚げ里芋と豚肉の黒酢炒め(テレビの試作)、平目の刺し身、あさりの潮汁、キャベツとクレソンの塩もみサラダ、玄米。

●2003年7月29日(火)曇り、夜になって雨

真ちゃんの絵のモデルで、写真を撮りに出掛ける。
向田邦子の恋愛(?)とかという本の表紙の絵だそうだ。
後ろで髪をひっつめたような、白いブラウスを着てタイトスカートをはいている、成熟した女の人っていうのが、クライアントの希望だそうだ。プッ。
私のキャラではないが、首筋と耳が出ているっていうことだけで、真ちゃんは私に頼んできたと思われる。もちろんノーギャラだ。
けど、昔から私は真ちゃんのモデルをやりたかったし、こんなことは滅多にないから、締め切りぎわだがまあいっかと出掛けた。
娘の古都ちゃんの白いブラウスを借りて、私の喪服のタイトスカートを着、椅子に座ってポーズをとる。かたわらでは奥さんの洋子ちゃんが、白いボード(顔に光を当てるやつ)を持って、まるっきし家内制手工業だ。
真ちゃんは、カメラを構えながら、「いいよ、いいよ」と私に声をかけるのだが、それは決して「いいねー、いいよー、その感じー。」・・カシャッ(シャッターの音)、という「いいよ」ではなく、語尾が上がらない感じ。
つまり、「それでいいよ」という、しいていえば、そのままじっとしててねお願いだからっていう意味がこめられているのだ。
私は何度も吹き出してしまった。
真ちゃんは、「僕は体のシルエットと、洋服の皴が欲しいの」なんて言っていた。
でき上がった絵はたぶん、私ではないと思う。
でも、秋にその本が本屋に並んだら、これを読んでいる皆さん、興味があったらチラリと表紙を見てみてください。けっこう私は楽しみだ。
帰ってから、原稿書きに突入だ。
今夜はスイセイが川原さんちに遊びに行っていないので、夜ごはんは独身気分。
オムライスにしました。
エリンギと舞茸があまっていたのでごはんといっしょに炒めたが、ほんとうはもっとふつうのオムライスが食べたかった。
なんでオムライスにしたかというと、夕方、下の家(例のお母さんと息子の家族)から匂いがしたんです。オムライスと、たぶん赤だしの味噌汁の。

●2003年7月28日(月)晴れ

昨夜は、「デッドエンドの思い出」をいっきに読んでしまった。
ひとつひとつ、誰かに読んでもらっているような、お話を聞いているような気持ちになった。きびしく、そしてとんでもなくいい話だった。
感動して胸の中が暖まり、おかげで今朝は目が腫れて、片目だけなぜか一重に。
朝ごはんはスイセイにそうめん、私はチーズをのせたパン。
午後からはがんばって原稿書きに励む。
前回のレシピと次の撮影分のレシピを、りんごのタルトを焼きながら書いた。
そして、物語を書き始めたのだが・・・書けない。
昼ごはんはスイセイが冷やしラーメンを作ってくれた。
冷たいスープのラーメンに、シナチクと煮卵、そしてキャベツの千切りが入っていた。
見た目はちょっと変だったけど、このキャベツがけっこうおいしかった。
夜ごはんは、「盲導犬クイール」の最終回を見て泣きながら、鯵の干物、小松菜とクレソンのおかか炒め、納豆、大根と青じその味噌汁、玄米。

●2003年7月27日(日)晴れ、夕方から小雨

晴れだー。
ベランダの掃除をスイセイとやる。
そしてひき続き私は窓拭き、床にはワックスまでぬった。
きれいになった床にぺたんと座り、揺れる洗濯ものをしばし眺める。
今日は土用なので、おいしい魚屋さんに鰻を買いに行く。
角を曲がる前からすでにいい匂いが。
いつものおにいさんは、大忙しで鰻を焼いていた。
レストランなんかで並ぶことを私はしないが、ここの鰻だけはとくべつ。おばさんとおじさんの後ろに並んで、焼けるのをひたすら待つ。
スイセイからはキャベツの千切りのリクエストが。
おいしい鰻を食べたら、野菜もたくさん食べなくちゃということらしい。
そして・・イヤッホーー!。
ばななさんから「デッドエンドの思い出」が届いたんです。
今夜、布団の中で読もう。
その前に「鰻」、そして「ウルルン」と、続々と楽しみなことが。
夜ごはんは、かば焼き丼、三つ葉と麩の吸い物、モロヘイヤのおかか和え、千切りキャベツ、スイカの漬物とたくわんの予定。

●2003年7月26日(土)曇り、少し晴れ

昼ごはんにそうめんを食べていたら、ひさびさに青空が見えた。
スイセイに、レシピのファイルの新しいページを作ってもらう。
今までは黄緑の枠だったけれど、心機一転してオレンジ色にしてもらった。
窓際に枕をもってきて、青空を眺めながらちょっと昼寝と思っていたら、しっかり寝こけてしまいました。
寝込み際にハルが吠える声がして、「ハル!、ハル君!」という、下の男の子のいつもの声がした。あーよかった。やっぱり引っ越してないじゃん。
いつの間にか、隣でスイセイも枕を並べている。
寝ながら私は、物語(7月いっぱいで締め切りの仕事)のことをじーんと考えていた。
登場人物の顔が浮かんできそうで、まだうすぼんやりしている。
7時にさわやかに起きました。
夜ごはんは、スイセイがこの間から食べたがっていたクリームシチュー(撮影の残りのじゃが芋グラタンに、にんじんとマッシュルームを加えて作った)、塩豚とゴーヤと小松菜の炒め物、かぶの塩もみ、塩辛、玄米。
クリームシチューをひと口食べて、「うまいのー」とスイセイ。
最近たのしみにしているドラマ、「すいか」を見ながら食べた。
そしてデザートはスイカだった。
そういえばご飯の時、雷がごろごろしていたが、もしかして梅雨明けか?

●2003年7月25日(金)曇り、はだ寒い

早起きして9時半に病院へ。
やっぱり膀胱炎でした。
泌尿器科は男の人がけっこう多い。
診察室の戸がちょっと開いた時、「タマが上の方でひねくれたようになっているわけですね」なんていう先生の声が聞こえてきた。さっき若者が入っていったが、タマって、お医者さんがそんな言い方を・・・。
検尿しようとトイレに行くと、おじさんがいて驚く。
どういうわけだかトイレが共用なのだった。
杖をついたおばあさんが、「しょっ、しょっ」と大きくかけ声をかけながら、足をひきずって歩いてきて、やっと腰かけに座った。
歩く時だけかと思ったら、このばあさんは、バックから財布を取り出す時にも「しょっ、しょっ」とかけ声をかけていた。癖なのだろう。
けっこう元気なばあさんで、「生きてたよ!」なんて、看護婦さんに挨拶していた。
そしてその様子をじろじろ見ている、眉間に皴のおじさん。
病院って、いろいろな人がいる。
帰ってからコンビニのサンドイッチを食べてひと息つき、12時からスープものの打ちあわせ。
そして3時からは、じゃ芋、にんじん、玉ねぎものの打ちあわせ。
もう1本は7時から。テレビの打ちあわせだ。
ふーくたびれた。
1日3本の打ちあわせというのはやっぱりきつい。
まず、たくさんの人に会わないといけないのでくたびれるし、3本の仕事の違いに、また頭の中がずらされるし。
そして、その打ちあわせをしている間に、スイセイはとんでもないことをした。
私のレシピのホルダーを、手違いで消してしまったんです。
ぜんぶ、まるごと。
400個あまりの、今までコツコツ書きためてきたレシピを・・。
だから私のマックは、さっきまでずっと治療中(快復中?)だった。
けれど、いろんな方法をためしても復活はありえないということがじわじわと確かになった。がーん!。
その間、布団をかぶって寝ていた私。
気がついたのですが、くたびれている時って人にやさしい気持ちになる。
やる気満々の元気な時だったら、スイセイをののしって、痛めつけるようなことを言ってしまった気がする。
もうなってしまったことは仕方ないんだから、ゼロにもどろう。
リセットしろってことかも・・・などと、寝ぼけながら考えていた。
とりあえず、この間の撮影分のレシピを明日さっそく打ち直しだ。
その分はちゃんとプリントアウトしてあったので、だいじょうぶ。
10時に起きて、今夜の夜ごはんはそれぞれが食べたいものを自分で作ることに。
私はしいたけ、三つ葉、長ねぎ、卵入りの鍋焼きうどん。
スイセイはスパゲティーをゆでて、昨夜の残りのいわしのみりん干しときんぴらをおかずに食べていた。
そういえば、今日病院で血圧を計ったら、60と100だった。
「低いですねー」と看護婦さんに言われた。
あんまり血圧を計る機会がないから分からなかったが、けっこう私は低血圧なのかな。
だから午前中はいつも頭がぼーっとしているのだな。

●2003年7月24日(木)曇りだが、しばし晴れ間が

朝起きたらぼんやりと晴れていたので、大急ぎで洗濯。
みりん干しもざるに広げて干す。今夜の晩ご飯だ。
郵便局に自転車をこいで行く。
帽子をかぶって行ったので、なんとなしに夏休みの感じがにじみ出ていた。
晴れ渡っているわけではないが、たまにパーッと明るくなるんです。
スポーツセンターのプールを横目でのぞきながら、自転車をゆっくりこいだ。
帰ってから、白花ゆうがおのつぼみらしきものを発見。
どんな花なんだろう。
誰だったか、ティッシュをくしゃっとさせたような花だと、何かに書いていたのを読んだことがあるが、それは忘れたい。
下の階の家族(お母さんと小学生の息子)は、どうやら引っ越してしまったようだ。
会うと必ず挨拶をして、私は好きな家族だったのに。
息子も最近どんどん背がのびて、顔が小さくハンサムになってきたのを、私はひそかに楽しみにしていたのに。
けど、いちばん淋しがっているのはハル(大家さんの犬)だろう。
今日も、庭の端っこの柵の前に前足をそろえてねそべり、ずっといっ点をみつめている姿が、ベランダから見えた。
あの息子は、いつも柵ごしにハルと遊んでいたから、きっとハルは待っているのだ。
お昼に玉ねぎのお焼きを作って食べる。にんにく醤油にトーバンジャンのタレ。
コチュジャンだと玉ねぎともども甘くなるので、トーバンジャンにしたが、ちょっとチジミ風だ。おいしい・・。
午後からは、レシピの直しやパソコンまわりの仕事。
夕方、ポストに手紙を出しに行った帰りに気がついたのだが、下の家には電気がついて、新聞もささっていた。引っ越してないじゃん。
スイセイがこの間リフォームしている所を発見したので、すっかり引っ越してしまったと思い込んでいた。勝手な思い込みだった。
あー、よかった。
夜ごはんは、にんじん、れんこん、ごぼうの薄味きんぴら、甘じょっぱい卵焼き、いわしの自家製みりん干し、玉ねぎと油揚げの味噌汁、玄米。
最近ずっと気になっていたのだが、なんとなく、私は膀胱炎みたいな気がする。
明日病院に行こうかな・・。

●2003年7月23日(水)曇りがちの雨

11時より撮影。
アーモンド料理の数々、12品。
みどりちゃんとひさびさのお仕事でした。
ぜんぶ終わったのが7時。さすがにくたびれたけど、楽しかったー。
夜ごはんは、撮影の残りものばっかり。
試食ですでに満腹だったので、私は食べない。
「はぐれ刑事純情派」を見ながら、たくわんだけポリポリと食べながら、スイセイのごはんにつき合う私だった。
今夜は早く寝よう。ちょっとくたびれてます・・。
なんて言いながらも、風呂の中で次の撮影のメニューがぽつぽつと浮かぶ。
白い紙を前にすると、さらにずずずーっと次々アイディアが。
なので、寝る前にラフスケッチをしておく。

●2003年7月22日(火)曇り

ちと二日酔い。
昨日はサイン会が終わってから、スイセイとクウクウで打ち上げをしたので。
スイセイは、「みいはようやった」「あのみいが、サイン会じゃなんて、がんばったのう」などと、同じことを何度も言っていた。育ての親みたいだ。
帰りにセブンイレブンに寄ってアイスや牛乳など買い、スイセイがスピードくじをひいた。3枚ひいて3枚とも当りだった。
アイスコーヒーと豚汁をもらって帰って来たが、そういう時いつも、当り券をとっておいてりうにあげようかな?と、一瞬思う。
明日は撮影なので、のんびりもしていられない。
これからレシピのまとめをして、仕入れに行かなければ。
そしていくつか仕込みもしなければならぬ。
そういえば最近カラスばかりいて、私の好きな木のところに他の鳥が来ないのだけど、そういう季節なのだろうか。
渡ってしまったってことだろうか。
それともカラスがなわばっているんだろか。
買い物の帰りにおいしい魚屋さんで、しめ鯖、いわし、鮎の干物(魚屋さんが干したそう)、明太子を買う。
27日は土用の日なので、日曜日だけど開店しているそうだ。
「鰻焼いてますから、よかったら来てくださいねー」と言われる。
そうか、鰻か。こう寒いと土用って感じでもないが、鰻もいいなぁ。
夜ごはんは、鮎の干物、しめ鯖、小松菜おひたし、こんにゃくおかか煮、油揚げとニラの味噌汁、玄米、明太子。
いわしは、またみりん干しを作ろうと思い、酒、みりん、しょうゆに漬けて冷蔵庫へ。

●2003年7月21日(月)雨のち晴れ、曇り

サイン会。
サインと絵を書くので必死だった。
私も人見知りな方なので、下をむいてばかりだったが、もっと皆さんと会話をすればよかったなとも思う。
握手を求められた人と手を握ったが、なぜかみんな、握る力が同じくらいの弱さだった。
そういうものなんだろうか。
私の方がぎゅっとしたいような感じでした。
来てくださった方々、ほんとうに、ありがとうございました。
遠くから。
雨が降っていたのに。
そして自分の時間をさいて。
ありがとうございました。



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