2004年11月上

●2004年11月10日(水)晴れ

疲れはまだ残っているが、9時には起きる。
念入りにあちこち掃除をして、爽やかに11時から撮影。
「天然生活」の2日目だ。
斎藤君も、気合いを入れてひとつずつじっくり写すから、私もじっくりと作る。
カット数が少ないので3時前には終わったが、爽快な疲れです。
斎藤君も、ソファーに座ってぐったりと放心していた。
その様子を見たみどりちゃんと赤澤さんは、「斎藤君て、女が好きそうな顔してるよねー。ちょっとほっとかない感じだよねー」なんて、若い子いじり。
斎藤君は、あまりにいつもいじられているので、「最近オレ、ふたりに何言われても、鳥が囁いているくらいにしか聞こえないっス」なんて言っていた。
長女がみどりちゃん、次女が私、三女が赤澤さんで、次男が斎藤君。
長女と次男の歳の差は、15才くらい。
撮影が終わって、明るい部屋でカーテンも閉めずに昼寝だ。
街を歩いていたら、西日が背中とお尻に当たって、当たっているところが縞模様に暑い。
この感触を日記に書こう・・・と、思いながら歩いている夢をみた。
今日の撮影で、やっとひと段落がついたのだ。
やっと心も体も、だらだらに馬鹿になれてきたから、こういう体感的な夢をみたのだろう。
明日、コラムの締め切りがあるけれど、これは別腹(頭)っていう感じがする。
今日のところは、ゆるゆるになろう。
というわけで、夜ごはんは出前の寿司。
スイセイはとても喜んで、「おいしいのう」と言いながら、私の肩に頭をもたせかけてきた。

●2004年11月9日(火)晴れ

朝起きたら、洗い物が全部やってあって、台所のレンジのところもきれいに拭いてあって、感動した。
私たちがリビングで盛り上がっている時に、赤澤さんとアシスタントの田中ちゃんが、ふたりで片づけてくれたのだ。
片づけをやってから、ふたりとも帰ったのだ。
酔っぱらっている時に、そういうことってなかなかできないことだ。
古風かもしれないが、こういうことの中にこそ、人々の胸を打つ種が入っている。
強力な二日酔いだが、心は明るい。
昨夜、ものすごく楽しかったから。
最近私は、お酒を飲んだ翌日に反省モードになるような飲み方が多かったので、こういう気分は久しぶりだ。
本当に、あんなに楽しく幸せな夜は、久々だった。
お腹はピーピーだし、食欲もないのだけど、気持ちは花丸の元気。
6時まで寝たり起きたりしていた。
スイセイが買い物の帰りに外食してきたので、夜ごはんはなしにしようと思っていたが、 9時ごろ小腹が空いてきたので、うどんをゆでる。
ほうれん草もゆでて、うどんといっしょにザルにのせた。
つけ汁には、辛い大根おろしと、ねぎ。

●2004年11月8日(月)曇り時々晴れ

本の撮影最終日。
終わってから、軽く打ち上げのつもりが、朝4時までの大宴会になった。
みどりちゃんと有山君は車の運転があるから、お茶で参加していたが、新居さんも赤澤さんも私も丹治君も、どんどん楽しくなってしまい、有山君は、いちど事務所に帰ってひと仕事をし、事務所の女の子たち(文ちゃん、なかじい)を連れて、また来てくれた。
運転手は、ケンイチ君にお願いして、ひと足先に来てもらっていた。
ケンイチ君が腹ぺこなので、まずはご飯を炊いて麻婆豆腐を作る。
2時間後、有山君たちが蟹を持ってきてくれたので、セイロで蒸した。
蟹は、カメラマンの長野さんの差し入れだそう。
丹治君は、料理のアシスタントをしてくれた。
私もべろべろだし、丹治君もけっこうべろべろ。
酔っぱらって料理をするのは、なんて楽しいんだろう!という気分で、ふたりして盛り上がった。
とにかく、お腹を空かしている皆に、おいしいものを食べさせたい!という気持だけで、ガンガン料理を作った。(料理はロックだぜ!)と思いながら。
冷蔵庫には納豆と卵しかない。
納豆オムレツと、玄米ごはんと、冷凍してあった大豆と大豆のゆで汁で、小松菜入りの味噌汁を作った。
皆が集まった時、最初は何かを喋り合っていたが、郁子ちゃんのソロ・アルバムをかけて、誰かが「かじき釣り」を歌い始めたら、全員でコーラス・タイムになった。
家のテーブルにはベンチが二つあるのだが、全員を片方に呼び寄せて、ぎゅうぎゅうに詰めて座り、有山君は股の間に女の子を二人座らせ、「なみだとほほえむ」では、ドラムみたいにして頭をたたきながら、歌っていた。
皆、馬鹿だなーと思いながら、私はめちゃくちゃ楽しくて幸せだった。
郁子ちゃんがここに居て、一緒に歌っているような気持になった。
そして、有山君がつぶれてベンチで寝転んでいるのに毛布をかけてやり、私、ケンイチ、文ちゃん、なかじいは、有山君を背中で感じながら、延々とオザケン・タイム。
皆が帰って、スイセイもつぶれて部屋で寝てしまっても、4人はオザケン・メドレーを最後まで歌い切った。
このCDは、クウクウのシタ君がずっと前に作ってくれたもの。
全部で18曲くらい、いろんなのが入っている。
カラオケ状態で、これもまた、すごーく楽しかった。
有山君は、仲間想いのアニキ全開だったし、私は、バー高山のママ全開だった。
タカシ君や郁子ちゃんが、歌で皆をもてなすことができるのを、心底羨ましいと思っていたけれど、私は、料理で皆をもてなすことができるんだなーと、初めてすごく実感した。
ああ、本当に、こういうことを私はやりたいんだ・・・と、気がついた。

●2004年11月7日(日)晴れ

7時半に起きた。
何だかいやーな夢を見たな。
買い物に行っても、白菜やら椎茸やら、売ってくれない夢。
寝ながら、すごく人に気を使い、くたびれていた。
そのくたびれは、実は昨日の現実をひきずっていることを、自分でも分かっている、という夢。
昨日は、いろんな知らない人に会いすぎたのだ。
それで、どうせこれ以上安らかに眠れないのだから、エイッと起きてしまった。
朝、仕入れに行って、11時から本の3日目の撮影。
そのくたびれを、朝っぱらからみどりちゃんに甘えて、訴えた。
みどりちゃんは、優しくて、赤澤さんも、優しくて、もうひと越えいったら涙がこぼれそうになったので、えいっと気持ちの口を紐でしばり、仕事モードに入る。
そんなわけで今日は、ゆっくり料理を作らせてもらうことにした。
あー、だけど全部がとてもおいしく作れた。
私は、ちょっと具合が悪くて力が抜けているくらいの方が、いい料理が作れるのかも。
素材の上に自分がいて、「おいしいものを作ってやろう!」と挑戦する感じでなく、素材の下に自分がもぐっていて、どちらかというと、自分がうーんと引いて、なくなってしまうぐらいのぎりぎりの具合になって、そこでヘソに力を入れドーンと両足で立っていると、素材の力が爆発的に出てきてくれる。
この間、「天然生活」の撮影の時に、初めてそのことにうっすら気がついたが、今日になって、はっきりと分かった感じだ。
4品作って、3時には今日の分が終わった。
明日の撮影の買い物に街に出たけど、目がくっつきそうに眠く、人込みの中をできるだけ人と目を合わせないようにして、帰って来た。
今日もまた、「あっ、高山さんだ」と、女の子が連れの人につぶやく声が、すれ違い際に聞こえたが(私には声をかけずに)、実は、そういうことが最近とてもこたえていたようなのだ。
そういうことに、昨夜の夢の中で気がついた。
自分は、マスコミで仕事をしていて顔を出しているのだから当然のことだし、そういうファンの方々が応援してくれているからこそ、料理家としての自分があるのだが。
だって、すでにこの「日々ごはん」で、思うことを正直に書いているわけだし。
多分、プライベートな実物の自分と、メディアに流れている自分とのギャップみたいなものの渦に入り込んで、私自身が自分をもみくちゃにしている・・・という気がする。
帰ってから、まる子とサザエさんを楽しみに見る。
しかし、今夜のウルルンはすごかった。
ジミー大西が、イタリアに行ってフェラガモの靴を作った。
ジミーちゃんは、全然しり込みせずに、あのままのキャラクターで、フェラガモの由緒ある歴史的な、本物の貴族の世界に入って行った。
彼の絵を見た途端、会長(フェラガモの奥さん)は見る見る表情が変わっていった。
水が染みわたるみたいに、感動の顔になっていった。
ジミーちゃんの体の中にあるアーチストの泉が、ぶくぶくぶくと豊かに溢れそうになっているのが、テレビを見ている私にも伝わってきた。
貴族と言っても、フェラガモは物作りの貴族だから、言葉が通じなくても、文化が違っても、アーチストの情熱みたいなものは、すとーんと共通なのだ。
「キャンバスからはみ出せ!というのを、岡本太郎さんもおっしゃっていて、僕はそのことを絵描きとしてずっと考えてきたんやけど、最近は、絵の中にいろんな人を入れて、物語を作って、それでキャンバスからはみ出るっていうのをやっていたんです。でも、今回靴をやり初めて分かったんやけど、新しい僕の絵が始まったような感じです。めっちゃ面白いです」。
体は、何も気取ることなく、自由気ままにくつろいでいればいいのだ。
ものを作り出すということは、外見とか言葉とか、目に見える、聞こえることとは次元の違う、どこか違う場所にあるのだから。
ウルルンを見ながらぼろぼろ泣くことはよくあるが、拍手喝采し、違う種類の涙をぼろぼろ流したのは初めてのこと。
昨夜の夢の答えが、ここにあった。
私も、料理界のジミーちゃんにならなければならない。
今夜はスイセイがいないので、夜ごはんは何も作らない。
赤澤さんが買ってきてくれたサンドイッチの残りを、ウーロン茶と食べる。

●2004年11月6日(土)晴れ、暖かい

今日は、いしいしんじさんにお会いしてしまった。
しかも偶然に。
いろんな人に会い、よく歩き、知らない人ともたくさん話した1日だったが、いしいさんに会えたのが、やっぱり何よりもいちばん嬉しかった。
いしいさんは、ゆっくりと歩く方だった。
私は、歩くのが早いので、ちょっと体半分前に出ているような感じになりながら。
あー、しかし、いったい私は何を話しただろう。
豆腐料理をひとつお教えしたな。
撮影の中日で今日は休みだが、アノニマ・スタジオの「冬じたく展」を見に出掛けたのです。
くまちゃんの器を買いにオーパ・ギャラリーに行ったり、また別のギャラリーで湯飲みを買ったり、あちこち歩いてまたアノニマにもどったりもした。
そして軽く打ち上げし、12時くらいにタクシーで帰って来ました。
長い1日だった。
りうにも、本当に久しぶりに会った。
半年以上の気がする。
ずっと連絡もなく、便りがないのは元気な証拠・・・とは思っているものの、どうしているか気になっていた。
スイセイは、今日いろんな大勢の人が来てくれてとても嬉しかったけど、「ほんと言うと、りうに会うたのがいちばん嬉しかったん」と、帰りのタクシーの中でぼそっと言っていた。
そういえば、私もそうじゃった、と、それを聞いてじっくりと思った。

●2004年11月5日(金)快晴、暖かい

本の撮影、2日目。
夕方撮影が終わって、バス停まで母親を迎えに行く。
明日、母校の大学の記念式典があるとかで、田舎から出て来たのだ。
スイセイと3人で、「のらぼう」で軽く飲み、今さっき帰って来たところ。
しかし、風呂から上がってきた母は、この部屋で寝るので、もう電気を消そうとしている。
うー。日記が書けません。
というか、今夜は母のパワーに圧倒されてしまい、書けない感じだ。
またいつか、さらりと書けるようになったら、今夜のことをまとめてみようと思う。

●2004年11月4日(木)快晴

本の撮影、1日目。
今回は、秋の野菜を使ってだ。
皆の期待に応えて、じゃが芋のグラタンが超おいしくできた。
今、じゃが芋は、ポックリして本当においしくなってきている。
グラタン皿は、この間「タミゼ」でひと目ぼれした、フランスの古いもの。
ばっちり似合っていた。
その他、料理はあと4品ほど写してもらい、打ち合わせ。
3時半には終わった。
昼間はかなり強い陽射しで、陽が当たったところだけ暑いくらいだったが、3時を過ぎた頃から急速に薄暗くなり、夕方はぐーんと冷えてきた。
いつもの夕方の教育テレビを見ているうちに、ぐっと眠気が。
くたびれました。
たぶん、本のことなので気合いが入っていたからだと思う。
早めに風呂に入る。
夜ごはんは、マルちゃんのカレーうどんと、赤澤さんが買ってきてくれたおにぎりの残り。

●2004年11月3日(水)快晴

よく晴れ渡っているし、暖かい。
洗濯するものがなかったので、毛布まで洗ってしまった。
なんとなく掃除をしようと思っていたのだが、明日の撮影用の配置にして、家具を動かしているうちに、大掃除のようになった。
スイセイは、朝方まで何かを作っていたらしいので、まだ寝ている。
ガーガーと掃除機をかけているのに、さっき覗きに行ったら、死んだように寝ているので安心して、また続きをやる。
全部の床にワックスを塗った。
これから4日間続く撮影に、有山君も毎日いらっしゃるそうなので、どうやら私は張り切っている様なのだ。
そして、これからたまるのを予想して、食材を何も買わないようにしているので、冷蔵庫整理の夜ごはんが続いています。
今夜は、ローストポーク(撮影の残り)、トマトご飯(トマトピューレー入りのバターライス)、大根とクレソンの塩もみサラダ。

●2004年11月2日(火)まあまあ晴れ

朝から洗濯を3回戦やる。
本の撮影の準備をしたり、雑誌の整理をしたり、ワクワクした気持ちでやる。
その後、買い物で街に出たんだけど、人がわさわさと多くて、なんとなしに乱暴な空気というか、がさつな空気が流れている気がした。
モワーッと生暖かくて、空気がよどんでいる感じだった。
そして、見知らぬ人々が怖いような感じ。
何だろうこれは。
まだ風邪が治ってないということか?。
私は弱気になっているのだろうか。
スイセイは、お腹があまり空かないみたいで、「夜のごはんは作らなくてもええけ」なんて言っている。
なので、夜ごはんは、みどりちゃんの真似をして塩むすびを作った。
みどりちゃんの手になったつもりでにぎったら、おいしくできた。
今日お米屋さんで精米したての新米だったせいもあるだろう。
あとは大根の味噌汁。以上。

●2004年11月1日(月)雨のち曇り

12時より「翼の王国」の撮影。
今日もまた、いい感じにおいしく料理ができたし、斎藤君の写真もガッツリ強力だった。
考えてみると、この撮影の料理が、いちばん一期一会度が高い。
盛りつける時、いつも一発でキメるようにしているが、瞬時にアドリブが出てきて、それがすっと活かせる。
これは、斎藤君と私が作りたいイメージの土壌が安定しているからだと思う。
そしてそれをニコニコと見守って、後押ししてくれている桃ちゃん(編集者)のおかげだ。
いい仕事をさせてもらっています。ありがたいことだ。
スイセイは昨夜から風邪ぎみで、ずっと寝ている。
私のがうつったのだ。
お返し(看病してくれた)と思って、うんと優しくしてあげようと思うが、朝からしつこすぎて嫌がられたりもしながら、あきらめずに世話をやく。
ちょっと分かったんだけど、看病する人は、自分のペースで動いてはだめ。
気力も、判断力も鈍っている病人の状態に、自分のスピードを合わせるように、待つようなくらいの気持ちでいるのがコツだ。
大きな声を出したり、早口になって相手を追いつめるのが、いちばんいけない。
自分が風邪をひいたのがまだ最近だから、それが分かる。
夕方の教育テレビ・オンパレードを見終わってから、スイセイが喜びそうな食べ物を、いろいろ買いに行く。
あんパン、バナナ、ヨーグルト、マンゴー、うどん、などだ。
夜ごはんは、お粥(スイセイ)、カンパチの刺し身、塩鮭、茄子のくたくた煮、ほうれん草のお浸し(柚子じょうゆ)、黒米入り玄米(私)。



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