2006年7月中

●2006年7月20日(木)曇り

8時に起きて、ヨガ。
とても調子がいいし、夜もよく眠れる。
いつまで続くか分からないけど、できるとこまでやってみよう。
昨夜は、『しずかに流れるみどりの川』と、『たべるしゃべる』を交互に読んでいて、バタッと寝てしまった。
12時から『世界ふれあい街歩き』を見るつもりだったので、スイセイが起こしてくれたのだけど、私はものすごく寝ぼけていた。
他にもこの家に誰かいて、一緒にテレビを見ることになっているような、あまーい、楽しみな空気があった。
スイセイの後から、誰かがテレビの部屋に入ってくるはずなのに、来ないから、「あれ?何で来ないの?」という感じ。
今思うと、たぶんそれはカトキチとアムとコロちゃんだろうな。
身も心もすっかり一緒に暮らしていたから、まだそれが体の中に残っているんだろう。
朝ごはんは、昨夜の残りの麦ご飯にハンバーグをのせて、豆のシチューをかけて食べた。
1時からは、NHKの打ち合わせ。
それまで時間はたっぷりあるから、『記憶のスパイス』にいそしもう。
打ち合わせが終わり、明日の撮影の買い物で、あちこちぐるぐるまわる。
アンティークのカトラリーを捜しに、西荻まで自転車をこいで行った。
夕方、スイセイが汗びっしょりで帰ってきた。
ひさしぶりに走ったのだ。
まだ明るいうちに風呂に入るのって気持ちいいな。
夏はまだこれからなのに、なんか、もう終わってしまったような、何度も何度もそんな気がする。
あまりに涼しいし、アムたちのところで夏休みを満喫したからだ。
今も、すぐにでもまた行きたい… 、と思ってしまう、あの夏の日々。
夕方のビールがおいしかったなあ。
夜ごはんは、鯵の干物、お刺し身盛り合わせ(鮪、カンパチ)、水菜とみょうがのサラダ(柚子こしょう、レモン汁、ごま油、薄口醤油、塩)、茄子といんげんのクタクタ煮、豆腐と葱の味噌汁、納豆、玄米。

●2006年7月19日(水)小雨

雨だし、どんより暗いけど、スイセイが7時に起きたので、30分ほどうろうろして、私も起きる。
布団をたたみ、水を1杯飲んで、ヨガをみっちりやった。
汗がけっこう出ました。
風呂に入り、朝ごはんを食べ終わった今でもまだ、手の平やら足の裏やら、体の中もポカポカと温かい。
ヨガをやると、食べ物が何でもおいしくなるな。
頭の芯はボーッとしてフワフワしているけど、どんなことでもやる気があるような、心が真ん中に座っている気分。
さて、これからあちこち掃除をし、『記憶のスパイス』の校正だ。
1時に、田中君たちが、刷り上がった『たべるしゃべる』を持ってきてくださるから、それまで頑張ろう。
『たべるしゃべる』、ついに仕上がった。
本の匂いを嗅いだり、撫でたりして読んでいるうちに、猛烈な眠気が。
毛布をかけて寝てしまった。
フィッシュマンズの佐藤君の夢をみた。
夜ごはんは、試作なので早めに準備していたら、指を切ってしまった。
『しずかに流れるみどりの川』の、プリモ少年のスープを作っていて、たどたどしい手つきで玉葱を刻み、赤ピーマンを刻んでいたら、ザクッとやった。
そんなことまで再現しなくたってよかろうに。
でも、味はおいしくできた。
『犬が星見た』の中の、羊肉のハンバーグ(麦入りバターライス添え)と、トマトと胡瓜のサラダも、とてもおいしくできた。
この料理は、「小説すばる」でやります。
写真は、原田奈々ちゃんが写してくれる。
あさっての撮影が、今からとても楽しみだ。

●2006年7月18日(火)小雨

昨日は、夕方、リーダーのところにお土産を届けに行き、蕎麦屋に行った。
スイセイと語る話は、カトキチとアムのことばかり。
だんだん旅行の打ち上げっぽくなってきたので、「みな李」にもはしごした。
けっこうお腹がいっぱいだったから、つまみみたいなものしか食べられなかったけど、豚肉のメニューが増えていた。
イベリコ豚の網焼きとか、シャブシャブとか。
こんど行ったら、ぜひ食べてみたい。
ほろ酔いで11時くらいに帰ってきて、風呂に入ってバタンと寝た。
今朝も早起きする予定だったけど、11時まで寝てしまった。
旅のくたびれが出たみたい。
起きてすぐにヨガをやる。
ヨガっていっても、寝そべって呼吸をするだけだけど。
アムに教わった呼吸のやり方を、練習しているのです。
千葉の農園からじゃが芋を送ってくださったので、お昼にいも餅だんごを作ってみた。
じゃが芋を丸ごとゆでてつぶし、片栗粉を混ぜてなまこ型にまとめる。
アムがやっていたみたいに、厚切りにして、オリーブオイルとバターで香ばしく焼いた。
半分は塩と胡椒、残りはバター醤油味。
ねっちりしておいしかったけど、アムの家で食べた〔福田さんというおばさんが作ったのを、アムが冷凍しておいた)ものより、なんとなしに粉っぽい。
片栗粉を加えてから、私はすりこぎで混ぜただけだけど、よく錬った方がいいのかな。
スイセイが推測するには、作ってから何日か寝かした方がええのでは?。
こんど、また作ってみよう。
午後は、アムたちに送る荷物を作って、散歩がてらスイセイと郵便局へ。
買い物もして帰ってきました。
さてと、『記憶のスパイス』の校正を始めよう。
夕方からどんどん涼しくなってきたので、靴下をはき、長袖をはおった。
こんな日は、きっと北海道も寒いだろうな。
夜ごはんは、冷やし中華(麺は富良野のスーパーで買った)、トマト、いかボックン(「みな李」で食べ残しをお持ち帰りした)。

●2006年7月17日(月)小雨

昨夜は、あんがい涼しかった。
明け方なんか、寒いくらいで目が覚めました。
7時半に起きました。
スイセイは、「7時に起きてしもうた」と言って、ホームページの更新をやっていた。
アムたちのリズムが、まだ体の中にある。
お茶をいれて、私はヨガの呼吸の練習をやる。
前に、レタスクラブの編集さんからもらったヨガの本を押し入れから出し、じっくり読んだりして。
これからしばらく、ヨガを勉強してみよう。
朝ごはんは、昨夜の残りのスパゲティに卵をからめてオムレツに。
ソーセージの残りも温め、レタスを添えた。
「ごはんが出来たよ」と呼びに行く時、今までは、冷めないうちに早く食べてほしくて、スイセイを追い立てるみたいなセカセカした感じになっていたんだけど、アムとカトキチの、お互いを尊重し合う空気が、ポワーンと甦ってきました。
冷めたって別にいいじゃん。
それよりも、スイセイの仕事がひと段落ついて、「腹ヘッター」の気分になるまで待った。
待つといっても、私もヨガのことなどやって、自由にのんびり過ごしているから、待ってはいない。
アムの家では、誰か作りたい人がその日のごはんを作って、他の人は手伝ったり、手伝わなかったり。
それぞれがやりたいように、自分の時間を過ごしていた。
料理がお膳の上に出てくると、「ごはんだよー」って呼ばなくても、おのおのが匂いを嗅ぎつけて、なんとなく集ってくる。
食べ始めるのは、皆がそろってから。
コロちゃんも、匂いを嗅ぎつけ、興味をもってお膳の周りに集る。
でも、ぜったいにあげない。
「コロ、ごめんねー。あげられないんだよ」と、皆口々に言い伝えると、そのうちコロはあきらめて、そのへんに寝そべっている。
前にカトのお父さんが泊まっていた時、いちどだけ秋刀魚の頭をあげちゃったそうだ。
コロは、その時の味を覚えてしまって、だから、マラウイごはんのホッケの時には、本当にかわいそうだった。
アムたちは、コロにも長生きしてほしいから、人間と同じ味のついたごはんはあげないようにしている。
コロ専用のごはんは、鶏の胸肉と、菜っ葉の残りや、サツマイモを細かく刻んで、お釜で炊いたご飯に混ぜて煮て、カトキチが作っていました。
葉っぱやキャベツの皮は、ご飯の量と同じくらいにたくさん入れる。
それを小分けして、冷凍していた。
時間も1日2回と決まっていて、朝と夜の散歩から帰ってきたらあげる。
この間の子供会の時、パックのジュースやアイスキャンディーを、チビたちが食べたいようにさせてしまったことを思い出して、私はすごく反省した。
チビたちは、私が怒らないから、ほとんど料理を食べずに、桃だとか、甘くて冷たいものばかり食べていた。
そのことについて、「なんかの、胸が痛うなった」とスイセイが次の日に反省していて、これからは、うちに集ったら、そういうのは禁止にしようということになった。
しつけとか、そういうことでは括れないくらいに、すんごく大事なことだよな。
カトキチたちは、ごはんのことではコロちゃんに注意するけど、あとのほとんどは、コロちゃんのやりたいように、どちらかというと、コロちゃんの方に自分たちを合わせている感じがした。
散歩にしても、コロちゃんの行きたい方へと引っぱられていく。
これは、国分寺に住んでいた時からそう。
首輪についた紐がピンとなりそうになったら、人間の方が走っていた。
そういうことがあるから、きっとコロちゃんも、ふたりの注意をちゃんと聞いて、聞きわけがいいんだな。
コロは、ふたりのことが大好きだから、どうしてダメなのかとか、自分なりにちゃんと分かろうとしていると思う。
ヨガの本を読んでいるうちに、あらがいがたい眠気が。
ゆらゆらと夢をみたり、覚めたりを、波に揺り動かされるみたいになって寝ていた。
ものすごい気持ちがよかっただ。
斎藤君から電話がかかってきて起きたけど、放っておいたらずっと寝てしまっていたかも。

●2006年7月16日(日)晴れ(北海道)曇り(東京)

今朝もまた、カッコーの声で目が覚めた。
7時15分に起きる。
皆は、もう起きていて、これからコロちゃんの散歩に出掛けるところだった。
私はまだあんまり動き回れないような感じなので、残る。
生理になっちゃったし。
予定より1週間も早いんだけど、ずっといっしょにいたから、アムのがうつったのかも。
2階の部屋で荷物の整理をしていたら、タネちゃんちのおばあちゃんの声がした。
窓からのぞいたら、歩いてくるのが見えた。
おばあちゃんは、今朝作ったいも餅だんご(ヨモギの葉っぱ入り)と、菜っ葉の種を持ってきてくれた。
「アムたちは散歩に行ってます」と伝えると、ちょっと残念がっていたけど、種をどこに植えたらいいのか聞いてみたら、空き地にはえている草が何なのかとか、次々と教えてくれる。
「これはアカザ。ゆでてごま和えにするの。昔は血止め草にしてたの」とか、「これは丈夫でね、どこででも出てくんの。うちんちの畑にもあるよ。とってもとっても出てくんの」とか、「ありゃー、ごぼうが出とるよ」とか。
おばあちゃんは、知恵の宝箱だ。
見ず知らずの私にまで、ケチケチせずにどんどん教えてくれる。
おばあちゃんが帰ってからは、のんびりと洗い物をしたり、掃除をしたり。
2階の部屋も、布団をたたんで掃除して。
アムたちが帰ってきました。
コロちゃんは、夕べの残りのホッケの皮を、カトキチがほぐしてくれているのを、じーっとみつめながら待っている。
夕べは、すごく食べたそうにして、食卓の周りで鼻を鳴らしていたけど、カトキチたちはぜったいにごはん時にはあげないから、コロちゃんもすごく我慢する。
だから、ものすごく楽しみにしていたホッケの皮なのだ。
私たちの朝ごはんは、アムがマラウイのデザートを作ってくれている。
クレープみたいなのを焼いて、バナナを1本のせ、砂糖とレモン汁をしぼって、クルンと布団みたいに巻く。
それと、タネちゃんちのおばあちゃんにもらったいも餅だんごを、香ばしく網で焼いたもの。
これは、ほんのり砂糖が入っている。
そしてデザートは、富良野産のメロン。
帰り支度をして、10時45分に家を出る。
アム、カトキチ、コロちゃんが、空港まで車で送ってくれる。
とちゅう、スコールみたいな雨がザーザー降ったけど、走っているうちに急に止んだ。
降っているところと、まるで降ってないところがあったみたい。
来た時みたいに、また緑の畑や黄色い麦畑の広がる中を、ひた走る。
畑や牧草地が小高い丘になって、ポプラの木が並んでいるところなど、電車の窓から見たフランスの田舎の景色にそっくりだ。
12時くらいに空港に着いた。
アムがコロちゃんを抱っこして、別れの挨拶。
12時50分の飛行機に乗って、2時半に羽田に着いた。
東京は、ムワーッと蒸し暑く、空気が重たい感じ。
けっこう走って、ぎりぎりで間に合ったバスに乗る。
バスの窓から外を眺めながら、東京って、なんて汚いところなんだろうと思ってしまった。
ビルの谷間とか、高速道路の柵とか、ため池の淀んだ水とか。
目の中にはまだ、緑や黄色や茶色やら、でっかい大地の景色が残っているから。
渋谷周りで吉祥寺に帰ってきました。
くたびれてはいるけれど、スイセイも私も、心の中にポッと灯火がついている。
アムとカトキチとコロちゃんがいるっていうことが、それだけで嬉しいような気持ち。
飛行機で2時間だし、あっという間に着いてしまったけど、でも本当は、ものすごく遠いところに行ってきたのだ。
同じ空の下とは思えない、遥か遠くの、森と動物たちの世界に。
なんか、原始時代から帰ってきたみたい。
でも、2時間なんだから、行きたくなったらまたすぐに行けるんだからな、とも思ったり。
帰ってから、すぐに風呂に入り、洗濯機を回す。
ハルの声がするのでベランダから覗いてみるが、ずっとコロちゃんの無邪気な顔を見ていたので、ハルの顔がとんがって、やたら生意気そうに見えてしまう。
夜ごはんは、タネちゃんちのおばあちゃんにもらったブロッコリーで、スパゲティにする予定。
あとは、冷凍しておいたドイツのソーセージと、レタスサラダ、冷やしトマト。
スパゲティは、ブルーチーズと生クリームでソースを作った。
テレビを見ていても、草原や茶色い地面や森が出てくると、0.何秒かで北海道に頭が戻ってしまう。
アムとカトキチとコロちゃんのことが、あの家のことが、むわーんと思い出される。
匂いもする。
まだ全然近くにいるのだ。
でも、今日の夕暮れの蒼い空は、吉祥寺も美しかった。

●2006年7月15日(土)晴れ

今朝もまたカッコーの声。
すごく近くで鳴いているのが聞こえる。
「カッコ−、カッコー、カッコー、カッコー」。
スイセイが起きて、そおっとカーテンを開けたら、急に遠くからの声になった。
飛んでいってしまったらしい。
カッコーって、朝早くはまだ鳴かない。
6時半くらいからぼちぼち鳴き始め、7時くらいにはっきりと鳴くようになるみたい。
だから、私の目覚まし時計はカッコーの声だ。
スイセイは、煙草をくわえてトイレに降りていった。
私は、もう少しごろごろしてからて起きる。
7時10分です。
外の水道に顔を洗いに行ったら、カトとコロちゃんが散歩から帰ってきた。
すごくいい天気。
玄関の脇の、毛のはえたみたいな肉厚の草に、始めて黄色い花が咲いた。
「これは毒があるからぜったいに食べちゃだめ」って、タネちゃんちのおばあちゃんが教えてくれたそう。
アムは、この草のことを「うさぎ」と呼んでいて、「うさぎに花が咲いたよー」と、カトキチに教えています。
出てきた時に双葉で、うさぎの耳にそっくりだったから。
「共産党」っていう名前の草もあって、それは、「取っても取ってもまた生えてくる」から。
おばあちゃんが考えたんじゃなくて、ここいらでは皆がそう呼んでいるんだって。
今朝は、アムがヨガをやっているところを見せてもらうことになっていたんだけど、生理になっちゃったから、今日は休むことになりました。
昨夜のごはんは、つまみからスタートした。
おとといの晩のバーベキューで、枝豆とアスパラがちょっとずつ残ったから、ごま油で炒めて塩をふったら、それがやたらおいしくできた。
アスパラは、枝豆と同じくらいにコロコロに切った。
まずアスパラだけでしわがよるくらいまで炒め、枝豆を加えて炒りつける。
最後に、粗塩をふって出来上がり。
次は、アムと一緒に自家製マヨネーズを作り、タネちゃんちのおばあちゃんにもらったサトウサヤをゆでて、ゆでたてをマヨネーズにつけながら食べた。
そして、胡瓜の味噌添え(アムの畑の青じそと葱を刻んだ)。
次は、バーベキューの残りの厚切り玉葱をごま油で炒め、豆板醤、オイスターソース、醤油ちょっとで味つけ。
これもまた、超おいしくできた。
富良野の玉葱って、すごくおいしいな。
カトキチとアムが、いちいちすごくおいしがるので、私は張り切って「バー高山」になった。
1品ずつ作って、私もつまみながら、ビールを飲みながら、減ってきたらまた次を作る、という感じ。
何を作ろうかと考えている時、皆の喜ぶ感じを想像しながらやっていることに気がつきました。
そこに、冷蔵庫に何があるのか、何を早く使ったほうがいいのか、調味料は何があるかを考え合わせ、どんな風に料理したらおいしいのが出来るかをつなげると、1品の料理にまとまる。
次は、お土産で持ってきた清水さんのゴーヤで、チャンプルを作った。
この間の子供会の時、ヒラリンが作ってくれたのがすごくおいしかったので、その感じを思い描きながらやった。
豚肉にしっかり下味がついていたので、早めに塩をまぶして、全体の味つけも、塩と薄口醤油ちょっとだと言っていたのを思い出しながらやった。最後はかつおぶしだ。
すごーくおいしくできました。
この家で料理を作っていたら、いろんなものがおいしくできる。
それは、まず水が冷たくておいしいからというのが分かった。
本当に、アゴのつけ根の方まで味が伸びて広がる甘さがあって、「甘露、甘露」とつぶやきたくなる味。
お茶でも水出しの麦茶でもコーヒーでも、すごいおいしい。
だけど、東京に暮らしていて、わざわざペットボトルのおいしい水を買って料理を作ろうとは思わない。
水道をひねったら、たまたまおいしい水が出てくるから、そして、空気もとてもきれいで、自然もいっぱいあるところだから、ここでは普通に使う。
東京は東京で、近所に畑があったり、図書館があったり、公園があったり、ちょっと歩けばすぐ街に出るように、水もそういう場所の味がする。
だから、料理もそこにぴったりの調理法で、その場所で食べたいものを作る。
そしてここいらの野菜は、何を食べてもすごくおいしいことも分かった。
だから、東京よりももっと単純で野蛮な料理が似合うんだ。
ゴーヤチャンプルは、味はおいしかったんだけど、でもどことなく、ここでゴーヤを食べていることがぴったりこないような気になった。
暑いんだけど、暑さの種類がゴーヤではないような感じなのだ。
今朝の朝ごはんは、カトキチのリクエストでじゃがいものお焼きを作った。
キタアカリみたいな黄色っぽいじゃが芋を千切りにして、フライパンに広げて焼く。
カトキチに伝授しながら作った。
黒こしょうが終わっていたので、塩だけだったけど、芋がねっとりして、周りはカリッとで、すんごくおいしかった。
2枚目はちょっと厚めにして、オレガノを少しふりかけ、カトキチが焼いた。
さて、今日はこれから観光に行きます。
昨日会った、森の近くに住んでいるおばあちゃんが教えてくれた、昔の暮らしの博物館みたいなところへ。
お昼はどこかで食べて、牧場がやっているジェラート屋さんにも行く。
あと、ホームセンターで何かの道具を買って、スーパーでビールとかも買う。
帰ったら、ちょっと休憩してから、プリン小屋の仕事をする予定です。
博物館は、とてもおもしろかった。
縄文時代から、時代を追って暮らしの道具などがいろいろ展示されていた。
石うすのところには、「きなこを作ろう」と書いてあって、実際に体験できるようになっていた。
すり減った石の具合が柔らかくて、地べたに座り込み、いつまでもやっていたくなるような感じがする。
縄文の時代に使っていた人の気分が、ぽわーんと伝わってきました。
下駄に金属をくくりつけた「下駄スケート」というのに、4人ともぐっときた。
カトキチは、「スイセイさんの発明品みたい」と言った。
皆で笑い合う。
ここの博物館のいいところは、ケースとかに入ってないから、手で触れられること。
あと、私たちの他に誰もいないし、博物館ぽくないところ。
「生涯学習センター」という、市がやっている施設だから、お掃除のおばちゃんとかもいて、のどかな感じ。
森の近くのおばあちゃんが、昔使っていた家具も展示されていると言っていたけど、どれだか分からなかった。
お昼に入ったラーメン屋さんは、大衆食堂みたいな雰囲気。
ちょっと銭湯っぽい。
中に入ったとたん、子供のころに入った食堂と同じ、おいしそうな匂いがプーンとして、よだれが湧いた。
カトキチとアムは冷やしラーメン、スイセイはカレーライスの大盛り、私はすごく迷って、醤油ラーメンにした。
冷やしラーメン、具がいろいろのっていて、すごくおいしそうだった。
東京のとはぜんぜん違う切り方と、盛りつけ。
錦糸卵は千切りだけど太め。
胡瓜は斜め厚切り(ねり辛子がのっている)2〜3枚、焼豚はペロンと大きいまま。
あとは、くらげと木くらげ、刻み葱たっぷり、ガリ(生姜の甘酢漬け)、紅しょうが、もみのり。
ちょっともらって食べてみたら、麺が太めでシコシコで、甘酢っぱいタレがよくからまり、すごくおいしかった。
スイセイのカレーライスは、人参が入ってなくて、じゃが芋がいっぱいでトロリとしている。
上にちらばったグリーンピースに混じって、葱が1カケのっているのをカトキチが発見。
黄色っぽい、やさしい味のするカレーだった。
私のラーメンは、海苔のかわりにきくらげ。
スープがたっぷりめで、チャーシューが4枚ものっている。
チャーシューメンというのもメニューにあったが、どれほどのっているんだろうか。
気になる。
スープがかつおだし系で、麺は黄色っぽく太めの、すごく好みのものだった。
大満足で店を出る。
コロちゃんが車の中で待っているから、食べたらすぐ出る。
いろいろ買い物をして、おいしいジェラートを食べて帰ってきました。
1時間ほどごろごろ昼寝して、「プリン小屋」に出掛ける。
納屋の片づけの続きをやった。
くわとか斧の先とか、ルンペンストーブとか出てくるたんびに、博物館を見てきたばかりなので、どんな風に使われていたか分かったのがすごく面白かった。
夕ごはんは、アムがマラウイごはんを作ってくれた。
トマトソースを作って、ホッケを焼き、ごはんにかけて食べる。
このトマトソースがすごいおいしいんだ。
にんにくと、玉葱を2センチ角くらいに刻んで油で炒め、しんなりしたら大ざっぱに切ったトマトをたっぷり入れて煮込む。
味つけは塩だけ。
ごはんを木の器に盛り、このトマトソースと焼き立てのホッケをのせ、くずしながら混ぜながら、スプーンとフォークで食べる。
マラウイというのは、南アフリカの上の方にある国だそうです。
私が作ったのは、ポテトサラダ。
皮が赤いじゃが芋を、丸ごとゆでて作った。
このじゃが芋がまた、すんごいおいしくてびっくり。
黄色くねっちりして、栗みたいな味が混ざっている。
ゆで卵とさらし玉葱とマヨネーズで和えただけ。
あとは、大根を大ぶりに切って塩をまぶし、アムの畑の青じそを刻んだもの。
タネちゃんちのおばあちゃんが、夕方持ってきてくれた大量のブロッコリーも塩茹でにした。
昨日の熱さで、少しだけ花が開きかかったから、売り物にできなくなっちゃったんだそう。
見た目にはそんなには分からないのに、形がそろった野菜しか売ってもらえないなんて、とても残念なことだし、農家さんは本当に大変だ。
新鮮ですごくおいしいのに。
私は東京にいるとき、近所の農家で時々野菜を買うけれど、あんまり形がそろってない からこそ、野菜がいきいきとおいしそうに見える。
野菜は自然のものなんだから、天気や土の場所によっても、いろんな風に影響をうけて育つのは当たり前だ。
スーパーの野菜ばかり見ていると、皆、そのことを忘れてしまうんじゃないかな。
私だって、急いでいる時なんか、大量生産の品物みたいなつもりで、何も考えないで選んでいる時があるものな。
あまりに形がそろいすぎているから、物みたいに思えてしまうんじゃないかな。
そういえば、フランスのマルシェの野菜も、ふぞろいでいきいきしていた。
日本も、そういうのを考え直したらいいのにな。

●2006年7月14日(金)晴れ時々曇り(東京は35度、静岡は38度の真夏日だったそう)

昨日もそうだったけど、朝は7時くらいに目が覚める。
お酒も残ってないし、ぜんぜんスッキリと覚める。
カッコーが鳴いて、太陽の陽射しが太股に当って、ぽっかりしている。
30分くらいゴロゴロしてから起きた。
カトキチはコロちゃんと散歩に行っているみたい。
下に降りてみると、アムはヨガをやっていた。
すごく音がする呼吸で、本格的にやっている。
顔も真面目で、すごくかっこいい。
声をかけたり、そばにいたりしたら邪魔になりそうな集中度なので、スイセイと散歩に出掛ける。
プリン小屋まで歩いた。
天気予報では曇りだったけど、けっこう晴れて、陽射しが強いじゃん。
ハアハアいいながら、山道を登った。
帰ってから、ゆうべの後片づけをやり、ヨガの呼吸法をアムに教わるのをやった。
今まで私は、すごくうそっこの呼吸でやっていたことが分かった。
もう、ぜんぜん違うんだ。
難しいので、何度も何度もやっても、まだできない。
でも、自分の体の中のことなので、じーんと味わいながらやった。
しばらくやっていたら、体がジンジンしてきて、もう、今日は日記をやりたくない気持ちになった。
けっこう蒸し暑く、コロちゃんは涼しいところを捜してはゴロンと寝ころび、ハアハアして大変そう。
私たちでさえ暑いのに、コロは毛皮を着ているんだものな。
「コロ、だいじょうぶか?」「コロ、えらいなあおまえは」と、皆で口々に声をかける。
今日の日記は、もうこれで終わりにします。

●2006年7月13日(木)晴れ

6時半くらいにトイレで起きて、2度寝していたら、「うわー、すんごい嬉しい!」と言っているアムの声で目が覚めた。
まだ7時だけど、もうどこかのおばさんが来ているみたい。
なんかの野菜をもらっているみたい。
アムは、その後も「うわー、すんごい嬉しい!」と、3回くらい言った。
よもぎのことを、おばさんに質問してるみたいな声も聞こえてくる。
7時半に起きる。
台所に行くと、葉っぱつきの大根とラディッシュとサトウサヤが山もりだった。
おばさんと思っていたのは、お隣(といっても、家があんまりないから距離はけっこう離れている)のタネちゃんちのおばあちゃんが来ていたのだそう。
豆乳もおばあちゃんが作ったそうで、醤油のプラスチックボトルにいっぱい入っている。
カトキチは、朝ごはんの支度。
私は、冷たい水で顔を洗う。
ここの水道は、湧き水なんだそう。
そのうちにやっとスイセイが起きてきて、「ウルルンで、最初の朝に起きれん人の気持ちがよう分かった」なんて言っている。
朝ごはんは、サトウサヤの塩茹で、ラディッシュ、食パン(網で焼いた)、ゆで卵、温めてこした豆乳、バター、エバジャム(甘夏のマーマレード)。
窓際に置いたテーブルで食べる、採れたて野菜と出来立て豆乳の朝ごはんはサイコーだった。
窓からは、青空と、どこまでも丘と畑だらけ。
食べ終わったら、皆ごろごろする。
私は日記書き(カトキチのマックを借りて)。
アムは洗濯したり、窓枠に足を伸ばして座って歯磨き。
カトキチは、窓から首を出してウィーンとひげそり。
スイセイは、大きい方の窓際に腰掛けて、煙草タイム。
洗濯機のブザーが鳴ったら、洗濯物を干して、ドライブに出掛ける予定。
「北の国から」の五郎が建てた、「拾って来た家」を見に行くのです。
行ってきました。
すごーくおもしろかった。
今皆は、顔を洗ってお昼寝タイムで、居間にごろごろしている。
コロちゃんも足を投げ出してお昼寝。
私だけ、こうして日記を書いています。
コロちゃんも含め、皆、本格的に寝ているみたい。
すごい静かで、窓からは涼しい風が入ってくる。
カタコトカタコトと、キーボードをたたく音だけが響いている。
私は陽に焼けたみたいで、なんとなしに顔が火照っています。
五郎の家は、スイセイの憧れだったから、けっこうじっくり見ていた。
観光客も来ていたけど、あんまり気にならなかった。
だいたいのお客さんは、玄関から中をのぞくだけで、「へー、すごいわねー」なんて言っている。
私たちは靴を脱いで部屋の中に入り、いろんなシーンをぼんやり回想したりしながら、1軒ずつ見て回った。
カトキチも、プリン小屋を建てたばかりだから、いろんな細かい発見があるらしく、「うーん、そうかー」と感心している。
別の場所に建てた、五郎の石の家へも行く。
ここは、本当に山の中にあった。
宮沢りえちゃんが来た時に入った、石積みの風呂場に興味があったので、順番を待って階段を登る。
楽しみにして見るが、なんとなく人に見せ過ぎて良いところが減った、みたいな感じになっていた。
見られ過ぎで埃をかぶったみたいな、すすけて鈍くなった感じ。
なんか、貧乏臭い感じもする。
お腹ぺこぺこで、お昼は蕎麦屋へ。
ここも、「北の家族」のロケで使われた場所らしい。
カトキチはもりの大盛り、スイセイはざるの大盛り、アムは冷やし山菜蕎麦、私は冷やしたぬき。
手打ちの麺は、太めでしっかりして、おつゆも甘くなく、田舎っぽくてとてもおいしかった。
それからは、森の中を走り抜ける道をドライブ。
道ぞいに、ずっと渓流が流れていて、森林はうっそうとしている。
アムたちは、「ジャングルクルーズ」と呼んでいた。
とちゅうで車をとめ、皆で川の中に入ったのがすごくよかった。
水がめちゃくちゃ冷たくて、私は顔を洗った。
コロちゃんも、ちょっとだけ入った。
コロちゃんは、渓流を初めて見たらしく、流れをじーっと観察していた。
葉っぱが流れていくのとか、頭がキョロキョロと動いて、体ごとで追い掛けそうになっていた。
牧場がやっている、搾りたての牛乳で作るジェラート屋さんに行ったんだけど、定休日 だったので、「拾って来た家」の売店みたいなところにまた戻って、ソフトクリームを食べた。
アム、カトキチ、私の3人で、木陰でバニラを食べていて、「ラベンダー味って何か怖いよねえ」とか言ってたら、スイセイがラベンダー味を舐めながら出て来た。
ミックスとかじゃなくて、完全なラベンダー味みたい。
ちょっと舐めさせてもらったら、思ったとおりの味だった。
でもスイセイは、けっこう気に入っている様子。
ドライブの間中、青い空にぽっかりと白い雲で、子供の夏休みみたいだった。
帰ってきてすぐに、めいめいが、畳のあちこちにごろごろ寝転ぶところも。
そういう時、うちのお母さんはすぐシュミーズになって、胸をはだけて寝ていたっけな。
夕ごはんは、外でバーベキューっていうか、網焼きっていうかをやることになった。
カトキチが炭をおこしてくれているので、私とアムで準備する。
焼くものは、エリンギ、アスパラ(農家で買ったやつ)、玉葱、ゴーヤ(清水さんのを東京から持ってきた)、浅蜊、塩ホルモン、ジンギスカンの肉(ゆうべの残り)、つぶ貝、コマイ(干しだらみたいな味)。
他には、胡瓜を大きく切って塩をまぶしたの、ちぎったキャベツのにんにく味噌(自家製みそ、おろしにんにく、みりん、ごま油)添え、枝豆。
舞たけとエリンギの残りで、きのこご飯も作った。
だしは、干し椎茸と浅蜊を蒸し煮した汁。
醤油と塩で味をつけ、ごま油をちょっと、きのこは網焼きしてからいっしょに炊き込んだ。
アムのうちは、お釜でご飯を炊くので、おこげも香ばしく、とてもおいしく出来た。
缶ビールを飲みながら、外で食べるのは、なんでもものすごくおいしい。
景色はすばらしいし、空がだんだん暮れてゆく。
薄暗くなってからの時間が長くて、なかなか暮れない。
こういう料理が、北海道にはぴったり似合うんだな。
原始人みたいに、素材を焼いて、焼きたてを食べたい人がどんどん食べる。
面倒なことは何もしないのに、すごーくおいしい。
そのうちに、ポツポツ雨が落ちてきた。空のほとんどは晴れているんだけど。
最初は気にしないで食べ続けていたが、だんだん本格的になり、納屋の中に避難することに。
中の方が薄暗いので、夕方の外の景色が、遠くの方までよく見えながら、また続きを食べる。
暗くなってきたら、ランプをつるして、「納屋バー」になった。
やかんを網の上に置いて、焼酎のお湯割りに移る。
なんだかんだと、たわいのない話や、すごく大事な話とか、いろんな話がポンポン自由に飛び交った。
なんか、縄文時代の縦穴式住居にいるみたい。
炭の火が落ちてきたので、玉葱がゆっくり乾きながら焼けて、すごく甘くなるのを発見したり、枝豆をのせておいたら、ちょっと薫製みたいな香ばしい味になったり。
おいしい食べ方の発見をしながら、大昔から、そうやって料理って生まれてきたんだなと思った。
そして、この家に来てから、ここでの暮らしのことを、どうも何かに似ているなとずっと思っていたんだけど、それは山小屋だった。
昔、夏休みに、住み込みで山小屋のアルバイトをしていたことがあるんだけど、周りがぜんぶ自然で、あんまり人を見かけない感じとか、知らない鳥の鳴き声がいろいろ聞こえたりとか。
広い台所で、窓からの景色を眺めながら、冷たい水で洗いものをする感じとか。
時間の流れが、頭で思っているのの4倍くらいに、ゆっくりな感じとか。
ふだん東京で喋っていることが、すごく小さいような、神経質なような、馬鹿らしいような話に思えてしまうこととか。
ここでの話は、目の前のことをじっくりと観察して、思ったまんまの言葉で喋る。
仕事の難しい話や、誰かの悪口とか不満とかって、もし話したら、その口が腐ってしまうような感じがするから、誰も喋らないし、思いつきもしない。
「納屋バー」は10時で閉店となり、部屋に入ってまた飲みは続いた。
私は、ろうそく風呂に入る。
カトキチもアムも眠そうだし、コロちゃんも布団で寝る態勢(いつもアムの枕もとで寝る)になっている。
スイセイはまだ話し足りないみたいだけど、11時に寝ることに。

●2006年7月12日(水)小雨のち曇り(北海道)

4時半に頑張って起きた。
夜中か明け方、雨が降ったみたい。
昨夜は、10時半くらいに寝たは寝たけど、1時間で目が覚めてしまった。
スイセイは、部屋で何かしていてずっと布団に入ってこなかった。
2時くらいに寝たそうだ。
おならが、スイセイと同じくさい匂い。
スイセイもうんこが出なかったらしく、朝から何度もぶっ放している。
リュックをしょって、5時に出掛ける。
こんなに朝早いのに、ムシムシとすごい湿気。
5時40分のバスで羽田空港に行き、空港でスイセイはかけ蕎麦、私はおにぎりセットを食べる。
おにぎりは、ほぐし身の鮭のと、普通の鮭のおにぎりが1個ずつ。
そして、なぜかおかずにまで鮭が入っていた。
790円もするのに。
7時30分発の飛行機。
飛行機の中ではひたすら寝て、あっという間に旭川空港に着いた。9時10分です。
迎えに来てくれたカトキチは、ロビーにいてすぐに分かった。
アムは、コロちゃんと一緒に、ガラスごしに待っていた。
お互い大きく手をふり合う。
カトキチは、陽に焼けた。
アムは、ナウシカみたい。
北海道は雨。
でも小雨。けっこうひんやりと寒い。
長そでのパーカーを持ってきて、大正解だったな。
「アムプリン号」で、いざ出発です。
空港を出たら、いきなり森やら平原の中にいた。
コロちゃんは、アムの膝の上に立ち上がり、窓から頭だけ出している。
自分も走っているつもりになっているそうだ。
首を動かして細かく景色を見たり、ちゃんと鼻もクンクンさせている。
そしてダッシュボードのところには、コロちゃんの前足が滑らないように、滑り止め(階段のところにはる茶色いやつ)がはってある。
どんどん走って、なだらかな丘の畑がずーっと広がるところや、紫や、黄色や赤やら、いろんな色の花が線をひいたみたいにきっちり色分けされた、へーんな観光地みたいなところも通る。
どんどん走って、街の中も走り、大きいスーパーで買い物。
「皆が食べたいものをどんどんカゴに入れて、ワリカンにしよう」と、カトキチが言う。
ジンギスカンの肉とか、ジュースとか、もやしとか玉ねぎとかピーマンとかお菓子とか、食べたいものをいろいろ買う。
焼酎も買った。
これは、すごくいい考え。
カゴのまま「アムプリン号」に運び、ダンボールに買ったものを移す。
これも、すごくいい考えだな。
コロちゃんは、車の中でいい子にして待っていた。
そして、まだ11時前だけど、お昼を食べに旭川ラーメン屋さんへ。
ここは、「北の国から」で、風吹ジュンがパートをしてたラーメン屋さん。
アムは味噌ラーメン、他の3人は味噌野菜ラーメン。
スープが濃厚で、麺が黄色くて、すごくおいしかった。量もちょうどよかった。
パートのおばさんが何人かいて作るんだけど、誰のを食べても、いつも同じ味がするそうだ。
ラーメン屋さんから出たら、空気がいい匂い。
花のような、ミントみたいな、シーンとした洋風の匂いがする。
またどんどん走って、森の中の川に沿った道に入った。
北海道の川って、なんか違う。
石ころの河原がなくて、急な山の斜面から、いきなり川になっている。
川のふちには、ふきの葉っぱがはえているのも、北海道っぽいことに気がつく。
雨が降ったらほんとに傘になるくらいに大きい、ふきの葉っぱだ。
水はいかにも冷たそうで、透き通って、泡が立つくらい流れが早く、渓流という感じ。
小学生の時に読んだ、『コタンの口笛』を思い出す。
柏の葉っぱが川に落ちて魚になったとか、コロボックルがふきの葉っぱの下に住んでいるとか、たしかそういう話だった。
帰ったら、図書館で借りてもう一度読んでみよう。
またどんどん走って、両側が牧場の、まっすぐなゴトゴト道を行く。
牧場には、牧草のでっかいロールが転がっていた。
それからまたどんどん走って、「あれがうちだよー。あれがプリン小屋だよー」とアムとカトが口を揃えて教えてくれた。
見ると、広い丘の上の方にものすごく間隔をおいて、赤や青の三角屋根の小屋がポツンポツンと建っている。
どこも同じような家なので、どれなのかすぐには分からない。
「木が1本建っているところの横だよ」と言われて、やっと分かる。
そのぐらい目印が何もなく、ただ広々しているのだ。
途中の農家の無人売り場で、アスパラの大束を買った。
道路を曲って、ピンクと白の花畑のガタガタ道を登って、カーブを曲ったら、ついに到着。
青い三角屋根の、見た目はわりとふつの家。
でも、玄関が高くなっていて(雪がたくさん降ってもいいようになっているのだろう)、中に入るとたたきが広く、靴を脱いで上がるところがコの字型になっている。
引き戸を開けると、台所がやけに広い。
台所っていうか、床の部屋っていうか。
流しやガス台の台所部分は、全体の1/3くらいしかなくて、残りは広い床。
カトキチたちは、奥の畳の部屋を居間にしているけど、ここいらの人たちは、台所にストーブを置いて、ソファーも置き、そこで暮らしているんだそうだ。
寒いから、奥の畳の部屋は普段は使われてないそう。
窓は、ガラスが2重(外側がサッシで、中が木枠)なのも、お風呂とトイレがあるところの廊下がやけに細くて、できるだけ寒い空気がこもらないようになっているのも、変わ っている。
私たちは、2階の屋根裏部屋を使わせてもらうことになった。
上に熱がこもって温かいのも、雪国ならではの家の造りなんだな。
私だけ30分ほど昼寝をして、プリン小屋に皆で出掛けた。
アムプリンのホームページで、この小屋が作られてゆく過程を、毎週楽しみに見ていたので、実物を目の前にして、ドキドキした。
大きなモミの木が隣に建っていて、ハイジに出てくる小屋っぽい。
流しのステンレスの下が、古い木を使ってあったり、作業机も納屋から拾ってきたものだから、頑丈で味わいがある。
床にはまだ紙が敷いてあるから、ところどころしか見えないけど、これをはがした全体像を頭の中で思い描きながら、あちこち撫でたりしながらじーっと見た。
あぁ、これがあのトイレねとか、これがあの納屋から救い出してきて、アムがきれいに磨いた作業台だなとか、ひとつづつ思いながら。
小屋の方は、ほとんど出来ていて、手伝うことがないみたい。
カトキチたちは、私たちがいる間は休日にしようとしてたみたいだけど、スイセイも私も、なんでも手伝いたい気持ちで来た。
なので、納屋の中を片づけることに。
前に住んでいた人のいらない荷物が、いっぱい重なっている。
土にまみれて、ドロドロに濡れた服とか、湿った毛布とか、錆びた道具とか、古いペンキとか、野菜の種とか。
富良野は、日本一ゴミの分別が厳しいところだそうで、アムに教わりながら、どんどん袋に詰めていった。
あと、プリン小屋を建てる時、もともとあった家を壊した時に出たトタンの波板とかを、どんどん外に運び出して積み上げたり。
「高山さーん、力あるねー」とカトキチにほめられたので、嬉しくなってどんどん頑張った。
(夕ごはんの、ジンギスカンとビールが待っている…)と、心の中でつぶやきながら。
コロちゃんは、その間ずっと長いひもにつながれて、自由に行ったり来たりしたり、腹ばいになったりして、私たちが作業しているのをじーっと眺めていた。
私もカトキチも、トタン板を運び出すたんびに、「コロちゃ〜ん」と話しかけながらやった。
コロちゃんの首の鈴の音がすると、気持ちがなごむ。
5時までやって、帰ってきた。
寒いのに、しっとり汗をかいた。
労働の喜びだ。
カトキチが夕ごはんの支度をしてくれるというので、アムとスイセイと私で、コロちゃんを散歩に連れていく。
何にもないところを、どんどん歩いて行く。
なんにもないっていっても、大自然しかないっていう意味。
坂道を登って、また下って。
もともとは山だったところを開拓したんだから、坂道っていうか山道だ。
百合根とか小麦とかビートの畑が、うわーっと広がっている。
あとは、電柱と電線があるくらい。
電柱も細いし、電線も1本か2本だ。
道の脇には、ふきがいっぱい生えている。
空気は、ふきとよもぎとハッカが混ざったような、緑色の濃い匂い。
その中を、どんどん歩く。
ぐるーっとまわって帰ってきたけど、まだまだ行ってない場所が、丘も森も山もでっかくある。
帰ったら、カトキチがすっかりごはんの支度をしてくれてあった。
ジンギスカンの肉、玉葱、ピーマン、もやし、キムチ、ゆでたスナップえんどう。
カセットコンロとジンギスカンの鍋が、お膳の上にセットされ、虫が入らないように、蚊帳みたいなのをかぶしてある。
労働の後のビールはうまいし、ジンギスカンの肉も、脂っぽくなくとてもやわらかくておいしい。
野菜も、焼き過ぎないようにしてジャンジャン食べた。
とちゅうから、アムがどこかの納屋からもらい受けた、ランプの灯りとローソクにする。
曇りだから星は見えないけど、外は真っ暗。
私は風呂に入り(ろうそくの灯りだけ)、もう少し飲んで、皆10時すぎに寝た。
ここいらの水道は、湧き水をひいているんだそうで、冷たくてとってもおいしいんだけど、お風呂のお湯も、とろとろとやさしい感じがしたのは、湧き水のせいなのかな。
なんか、顔もツルツルする。

●2006年7月11日(火)曇り

起きてすぐに掃除機をかけていたら、クラーッと目まいが。
風はあるんだけど、けっこう蒸し暑い。
水風呂に入って、ユミちゃん作のレバーペーストをパンに塗って食べる。
この間はこしょうだけだったけど、粒マスタードもけっこう合う。
11時から、『記憶のスパイス』の打ち合わせ。
桃ちゃんと丹治君がいらっしゃる。
もう、表紙案もページ案も出て、全体の流れが分かるようになっていた。
写真も強力だし、文章も読みでがあるし、けっこう見応えのある造りになっていて、(アウワーッ!)とびっくり。
自分の本なのに。
そうだ。
丹治君が教えてくれたのだが、先週の日記で、『たべるしゃべる』が脱稿したと書いたが、それは間違いだそう。
校正が完全に終わったのは「校了」というそうだ。
「脱稿」とは、原稿が書き上がって編集者に渡す時にいう。
というわけで、『たべるしゃべる』が校了したかと思ったら、こんどは『記憶のスパイス』だ。
続々と実物の本に近づいてきている。
私は、原稿しか渡してないのに、本当にありがたいことだなあ。
終わってから、丹治君と別件の打ち合わせ。
去年からずっと温めていた企画の、新しい本です。
北海道から帰ったら、ボチボチ始める予定。
夜ごはんは、金目鯛のかす漬け、おくらのおひたし、白滝の炒り煮、小松菜炒め、胡瓜とみょうがの塩もみ、納豆、油揚げとわかめの味噌汁、玄米。
明日は、朝5時に家を出る予定なので、10時半には布団に入る。



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