2007年3月下

●2007年3月31日(土)曇り

こういう日を、花曇りとか花冷えというのだろう。
ストーブをつけ、毛糸のカーディガンを羽織る。
スイセイは「ルウム」へ。
私はどこへも出掛けずに、出張の準備などでのんびり過ごす。
冷凍庫の鶏肉で、今夜は何を作ろうか。
夜ごはんは、鶏のカツレツ(じゃが芋と人参のバタ−焼き、スパゲティナポリタン添え)、キャベツと胡瓜とクレソンの塩もみサラダ、玄米。
夜になって、嵐のような雨と風。

●2007年3月30日(金)快晴

朝方、雨が降ったのだろうか。
スイセイが作った物干しハンガーに、雫が残っている。
ポカポカと暖かく、空気がみずみずしい。
今日は、あちこちお花見日で賑わっているだろうな。
さぞかしいい気持ちで、ビールなど飲みながら、風に吹かれているだろう。
新しい本のイメージが自然に湧いてきたので、白くて大きい封筒を開いて、どんどん書き出した。
窓からいい風が入ってくる。
夕方は、教育テレビメドレーを見ながら、大量の洗濯物をたたむ。
夜ごはんは、豚の生姜焼き(千切りキャベツ、青じそ、みょうが)、刺し身蒟蒻(大根おろしポン酢醤油、わさび醤油)、目指し(いつぞやの残りに大根おろし)、納豆、豆腐と葱の味噌汁、玄米。

●2007年3月29日(木)晴れ、爽やかな風

昨夜、いしいさんの『みずうみ』を、本格的に読み始めた。
言葉の連なりのいちいちがとても美しく、音楽を聞いているよう。
読み進むうち、誰かに耳もとで朗読してほしいと猛烈に思ってしまった。
自分は布団の中で目をつぶったまま、その世界をただじっと味わいたい。
目から言葉が入ってくるより、耳から脳みそに届いてほしいような感じなのだ。
『みずうみ』の水面がキラキラゆらめくような、水の中のような、体感的な言葉。
まいったなあ。
もったいなくて、なかなか読み進めない。
朝っぱらから風呂掃除。
あちこち掃除機をかけ、雑巾がけ。
春というより初夏のような天気です。
5月の爽やかな風が吹いている。
風呂場の下の杏は花がずっかり散り、若葉が出てきた。
そういえば、ミニバラのことをずっと書いていなかったけど、スクスクとたくましく育っています。
いちど、水をあげ忘れたまま朝寝坊して、枯らしてしまったのだけど。
枯れた株をとりのぞき、元気な株だけ残しておいたら、そこから少しずつ大きくなってきた。
中国に行っている間も水をあげていなかったのに、すっかり元気でいてくれた。
それで、昨日、大きな鉢に植えかえてみたのです。
こんど留守をする時は、スイセイにお願いして水をあげてもらおうと思う。
『日々ごはんH』の校正は、昨夜で終わった。
スッキリと気分がいいので、これから目黒の庭園美術館に行こうと思う。
スイセイは忙しそうなので、ひとりで出掛ける。
アルフレッド・ウォリスというイギリス人の展覧会。
船の絵ばかりたくさん描いている、おじいさん。
前に『日曜美術館』で紹介されていた絵を見てからというもの、ずっと気になっていた。
7時くらいに帰ってきた。
すごくおもしろかった。
やっぱり、とても好きだった。
アルフレッド・ウォリスという人は、21才年上の奥さん(子持ち)と結婚して、船具を売るお店や、アイスクリ−ム売り、廃品回収などをやっていた。
奥さんが亡くなって、70才の時に絵を描き始めたそうだ。
若い頃はサバやイワシ漁で、航海に出たこともある。
変な形のボール紙や、古い木の切れ端、開いた封筒などに船用のペンキで描かれた絵。
太い釘や細い釘で部屋中の壁にぎっしり打ちつけてあるのを、たまたま通りかかった画家に発見された。
向こう岸の家々が斜に建っていたり、道を歩いている犬やにわとりが大きかったり。
それはウォリスが、船の上から見た陸地の景色だから。
頭の中に残っているその景色を、そのままに描いているから。
船の上の方が地面なのだ。
波に揺られる船の方を地面とすると、本当の地面の方が斜めになったり、傾いだりして見える。
キャンバスに立て掛けて描いたのではなく、机の上で、紙の方向をあちこち変えながら描いていたそう。
海のぐるりの家々は、どこから見てもこちらを向いていて、海の方に倒れ込みそうにせせり建っている。
海をたっぷり描いている。
開いた封筒の、のりしろも利用して描いている。
船や家の大きさとか、遠近法とかめちゃくちゃなのに、船に跳ね上がる波のすごくリアルなのがあって、吸い込まれるようになった。
夜ごはんは、鰤の押し寿司、胡瓜と食欲味噌、冷やしトマト、冷や奴(みょうが、生姜、葱)、エビチリ(昨夜の残り)、肉じゃが(いつぞやの残り)、玄米(昨夜の残り)、ビール。
夜ごはんも夏のような食卓になったので、めずらしくビールを1缶ずつ飲んだ。

●2007年3月28日(水)晴れ

ぐっすり眠り、鼻水で目が覚めた。
今日は、花粉がたくさん飛んでいるのだろうか。
午前中から活発に動き、図書館にも行った。
桜はもうずいぶん開いて、遠くの方まで桃色にけぶっていました。
帰ってからは、『日々ごはんH』の校正に集中する。
夕方までやり、『おじゃる丸』。
前にやった、風見鶏の回の再放送だった。
前回は途中で電話がかかってきて、後半を見られなかったのだけど、やっぱりすごい回だった。
シュールだし、詩だし、音楽だし、人生だし、日々ごはんだし。
涙がぼろぼろこぼれた。
夜ごはんは、エビチリ(ゴーヤ入り)、きくらげとほうれん草と溶き卵の中華スープ、たたき胡瓜、トマト、玄米。

●2007年3月27日(火)曇り

どんよりした日。
布団の中で、もう少しもう少しとねばっている間に、11時になってしまう。
昨夜は11時に寝たというのに。
朝風呂に入っても、頭の芯がスッキリしない。
ぼんやりしたまま支度をして、西新宿まで打ち合わせに出掛ける。
筋肉痛のため、階段の昇り降りがちょっとだけ辛かった。
でも、ボヤーンとしながらも、気持ちは元気だった。
薄い膜を1枚かぶっているだけで、心の底はなんか明るい。
たぶん、気圧が低いのだろう。
帰りは斉藤君が車に乗せてくれて、ちょっとしたドライブ気分。
私は、ベラベラ喋った。
西友の前で下ろしてもらい、買い物をし、4時前には帰ってきました。
別件の試作をしてスイセイに写真を撮ってもらい、メールに貼りつけお送りした。
「うちはテキヤじゃのう」、とスイセイ。
家内製手工業というような意味で。
今日の仕事はこれまでか? いや、ちょっとでも校正の続きをやろう。
夜ごはんは、いろいろチャ−ハン(鶏肉、ゴーヤ、きくらげ、長葱、香菜)、肉じゃが(昨夜の残り)、塩もみ人参サラダ、豆腐と葱の味噌汁。

●2007年3月26日(月)快晴

起きてすぐに校正の続き。
3時くらいまでやって、スイセイと走りに行った。
仙川上水の土手のところで、スーパーのビニール袋を手に、つくしを摘んでいるおじさんがいた。
公園の桜は2分咲きくらいで、葉っぱも芝生も黄緑色で、散歩の人々も春めいてぼけて霞んで、「印象派の絵のようじゃの」。
すごくひさしぶりのわりには、足も痛くならず、気持ちよくストレッチまでやった。
しっとりと汗をかいて、スーパーで買い物。
じつは今、ものすごく眠たい。
夜ごはんの支度をしながらも、目がくっつきそう。
夕方、風呂上がりに窓を開けて食べた、いちごもミニトマトもサイコーだった。
今夜はよく眠れそうだ。
夜ごはんは、新じゃがと新玉葱の肉じゃが、いかの刺し身、スズキの刺し身、春キャベツと胡瓜の塩もみ(昨夜の残りに梅干しと青じそをプラス)、ほうれん草のおひたし、豆腐と葱の味噌汁、玄米。

●2007年3月25日(日)雨

今朝は、4時近くまでぐっすりだった。
起きたらスイセイがいない。
いったいどこに行ったのだろう。
トークショーは、とても楽しかった。
始まる前、松浦さんの方がドキドキしていらっしゃるのがかわいらしく、私は姉ちゃんのような気持ちになった。
始まってしまえば、あんがい私は図太いのだ。
あっという間の1時間で、いったい何を話したのだろう。
終わってから、本を買ってくださった方々にサインをした。
ひとりずつ、顔をちゃんと見合わせて、少しずつだけど会話できる時間があった。
その時、それぞれの方たちの向こう側の景色というか、暮しや仕事や家族や友人たちのこと、田舎の景色やら、なんとなくポーッと見えるような感じになった。
それがとてもおもしろかった。
助産婦さんをやっている人や、パンを焼いている人。
本屋さんに勤めている人、辛い職場だけどどうにか頑張って毎日働いている人。
それぞれの人たちにはまた大切な人がいて、かけがえのない暮しがある。
目の前のひとりから、何十人、何百人、何千人、何万人ものつながりと広がり。
そういうのを一瞬感じて、ぐらりとするような感触もあった。
丹治君も、アノニマの若者たちふたりも応援にきてくれて、終わってから皆でごはんを食べた。
ずっと前、丹治君に連れてきてもらったお店。
店に入って腰掛けたものの、その時私たちはハシゴ酒の3軒目で、あまりに酔っ払っていて、ふたりとも何も食べられないし飲めないことに気づき、慌てて出てきたタイ料理のお店。
たしか、その時のことは『日々ごはん@』にも書きました。
松浦さんはあんまりお酒が飲めないそうで、ビールをコップ半分くらいしか飲んでないのに、とても楽しそうにいっぱい話して、酔っ払っているみたいだった。
松浦さんて、会えば会うほどおもしろい。
今まで本で読んだり、雑誌で読んだりしていた松浦さんは、当たり前だけどほんの一部分なんだ。
あの小学生みたいな笑顔の向こうに、くしゃくしゃな顔や、泣き顔や、辛そうな顔や、いろんなのが粘土細工のように見えかくれしていた。
お父さんの顔もあった。
松浦さんは、4年生の女の子のお父さんでもあるのだ。
「もう、僕なんかほんとにダメで、くるくるパーでどうしょうもない父親なんです」なんて言ってらした。
そして、池袋のジュンク堂というのは、すごく大きな本屋さんでたまげました。
1階ごといろんな種目で分かれていて、とにかくたくさんの本がぎっしり並んでいる。
お客さんは、小さめのスーパーの買い物カゴみたいなのを抱え、エスカレーターを乗り継ぎ、あちこちの売場で選べるようになっている。
それがすごくうらやましかった。
吉祥寺にもこんな本屋さんがあったらなあ。
というわけで、昨夜は吉祥寺に着いてから「いらぶちゃー」でスイセイとお疲れさまの乾杯。
2時半くらいにタクシーで帰り着き、顔だけ洗ってバタンキューだった。
今日は、何もやらない日と決め、夕方からだらだらとテレビを見続ける。
夜ごはんは、目ざし、春キャベツと胡瓜の塩もみ、たらこ、焼き海苔、新玉葱と落とし卵の味噌汁、玄米。

●2007年3月24日(土)曇り

昨夜はよく眠れなかった。
トークショーのこと、ワクワクもあるけれど、やっぱり緊張しているのだ。
胃のあたりがキューッと痛くなったりもした。
こんなのは初めてのこと。
ちょっといやな夢もみた。
いしいさんに送っていただいた『みずうみ』は、おとといから1ページ、2ページと少しずつ読んで、でももったいなくて、その先にどうしても進めない。
最初の1行で、もう、物語りの息吹きは始まっている。
いしいさんの世界。
扉の向こうには、独特のあの大きな世界がどっぷりとあって、開けたとたんにダーッとこっちに押し寄せ、部屋いっぱいになるのが分かっている。
そういう予感がプンプンする言葉と句読点と、隙間で出来た青緑の本。
厚さも、紙ざわりもとてもいい。
だから、そこへ行くには、いろんなことを終えてからでないと。
とにかく、トークショーを終えないと。
飛行機のリクライニングシートに埋まって読みたいような気もする。
空の上でシャンパンを飲みながら読んだら、いしいさんの世界はどんなことになるのだろう。
今日は朝から掃除機をかけ、念入りに雑巾がけしてワックスも塗った。
ずっと前に言っていた、みどりちゃんの「掃除してから出掛けると、帰ってからきれいで気持ちいいんだよね」というセリフを思い出して。
さて、今日もまた、出掛けるまで『日々ごはんH』をやろう。

●2007年3月23日(金)晴れ

午前中から、明日のトークショーの準備などやる。
今日は、これから赤坂で打ち合わせ。
3時からなのだけど、早くからいそいそと出掛ける準備をしています。
でも、まだまだ時間があるので、『日々ごはんH』の校正をやろうと思う。
打ち合わせが終わり、吉祥寺に着いたら、もう暗くなっていた。
ヒラリンとお茶でも飲もうと喫茶店を探していて、とてもいいところをみつけた。
おじいちゃんとおばあちゃんがふたりでやっていて、カウンターに孫が座っている。
商店街の昔ながらの喫茶店という感じのお店。
そこのツナサンドが、「こんなおいしいツナサンド食べたことない!」っていうおいしさだった。
ツナがくずしてなくて、マヨネーズで和えてもない。
パンに塗られた辛子のきいたマヨネーズ、玉葱の薄切り、レタスもパリッとして、ふんわりとパンにはさまっている。
三角に切って盛りつけられた真ん中には、パセリの枝。
きっと、ずーっと長年作り続けられてきた味とスタイル。
おじいちゃんも、昔のウエイターさんのまま年をとったような人。
でも、ちっとも堅苦しくなく、おばあちゃんは暇になるとカウンターで煙草を吸ったりしていて。
おじいちゃんが孫の写真を撮ったり。
こんど、また来よう。
他のサンドイッチやトーストサンドも気になるし、ハンバーグカレーも気になる。
買い物をして帰り着き、すぐに夜ごはんの支度をする。
夜ごはんは、醤油ラーメン(もやし、メンマ、葱)、ほうれん草のおひたし(じゃこ)、ショーロンポー(黒酢、醤油、千切り生姜)。

●2007年3月22日(木)快晴

天気がいいので、午後の早いうちに散歩がてらスイセイと郵便局へ。
桜は、ずいぶん蕾が割れ始めていた。
木の根元のところで、今にも咲きそうになっているのもある。
この調子だと、あさってくらいには花が見られるのではないだろうか。
スーパーでたっぷり買い物し、カラーコピーをしにコンビニへ。
スーパーのこの時間は、おばあちゃんしかいない。
線香とトクホンの混ざった匂いのするおばあちゃんが、「あんた、これは国産のじゃないわよ」と、帽子のおばあちゃんと南瓜をめぐって立ち話していたりして。
ガラガラに空いていて、気持ちがよかった。
そろそろ春めいた献立にしたくて、グリンピース、新玉葱、浅蜊、鰆など買う。
今夜は豆ご飯にしよう。
帰ってからは、『日々ごはんH』校正の続き。
夜ごはんは、鰆のムニエル、煮しめ(たずな蒟蒻、人参、厚揚げ)、ほうれん草とクレソンのおひたし、浅蜊の潮汁、豆ご飯。
『拝啓、父上様』の最終回は、あっさりとしたいい終わり方だった。
辛く淋しいことが、最後には日々の明るいずうずうしさの方に吸い込まれた。
4対6で、明るい未来の勝ち。
そんな、爽やかな余韻を残して終わった。
私も明日からまた頑張ろう。

●2007年3月21日(水)晴れ

春分の日だ。
おとといくらいから、うちのガスファンヒーターが壊れている。
スイッチを入れると、グルグルガーッという変な物音がする。
スイセイが分解して、その理由をつきとめていて、今朝、やっと分かってきたらしい。
長年の埃がたまって、その埃がどこかに絡まっていたらしい。
このストーブは、私たちが一緒になって初めての大きな買い物で、当時、大好きなデザインのものを、ちょっとだけ奮発して買った。
もう17年くらい使っているけど、そのスッキリした黒とグレーの大胆なデザインも、ちょっと旧式な感じが今でも大好き。
うちのファックスもそうだけど、昔の機械は単純な仕組みでデザインもいい。
どこかの機能が壊れたからって、とても新しい物を買い替える気になれない。
だいたいのものはスイセイが修理してくれて、とてもありがたく思う。
スイセイが機械を触る手つきは、柔らかく優しくて、とてもかっこいい。
「道具いうもんは、どうしてもいつかは壊れるのんが切ないよのう。愛着が出てきたころに壊れるけんのう」。
昨日、これまた長年使っていたティーポット(ベトナムの)を、リーダーがアシスタントをしていて割ってしまった。
本人は、ものすごく恐縮して、「今日の給料はいりませ〜ん…」なんて言っていたが、私はそういうことをあまり気にしない。
物が壊れる時っていうのは、何かの理由があってそうなるような気がするから。
たまたまリーダーが割ることになったけど、私が割っていてもぜんぜんおかしくない。
最近、中国でティーポットをみつけ、とても気に入って買って帰った。
このところ、そっちばかりを私が毎日可愛がり、使っていたから、ベトナムのティーポットはそのことに気がついていたんだと思う。
という話を朝ごはんの時にしていたら、「じつは、もうそいつにはすでにヒビが入っとったかもしれんで」とスイセイが言う。
「私がやらんにゃあと思ってそれでもずっと頑張っておったんじゃけど、新しいポットがきたから、やっと自分の役目は終わったんじゃー、って。ほんで割れたかもしれんで」。
さて、今日もまた『日々ごはんH』の校正をやろう。
スイセイは、夕方まで延々ストーブの修理。
あちこち分解してみても分からずに、ひとつひとつ掃除をして解消していったら、けっきょくモーターの中に埃がつまってひっかかっていたらしい。
分解したモーターの中を見せてもらうと、赤や朱色や緑色のコイルが順番につまっていて、とてもきれい。
思わず写真を撮る。
けっきょく、革靴用のクリームをグリスのかわりに塗って、すべてを組み立て直し、無事に直ってストーブが動き出したのは、7時を過ぎていた。
夜ごはんは、春巻き、ゴーヤと赤ピーマンと茄子と豚肉のナンプラー炒め、カレー汁(白菜、人参)、玄米。



日々ごはんへ めにうへ