2007年11月上

●2007年11月10日(土)ずっと雨

しとしと雨。
カーテンを開けると、空が白い。
昨日の葛西さんの展示会とトークショーは、とてもおもしろかった。
最後に映した「日産シーマ」のコマーシャルは、美しくなめらかなのにゴツゴツしていて、厳しくて、傷があって、優しくて、泣きたくなるような映像だった。
展示場には、葛西さんの今までの広告や装丁の仕事はもちろん、高校生のころに書いたレタリングや、バドミントンで1位になった時の新聞の切り抜きまで並んでいた。
新聞紙の片隅の小さな四角を、高校生の葛西さんがはさみで切って、丸印をポツンと打ったんだな…と思うと、にやにやしてしまう。
修学旅行があまりに楽しかったので、アルバムも作った。
写真を張り込み、レタリング満載でデザインし、ビロードの布を張ってアルバム自体も自分で作った。
ウーロン茶の部屋では、映像にならなかった分のアイデアスケッチまで、大量にスクラップされていた。
私が行った時、川原さんは座り込んで、片っ端から眺めている最中だったな。
そんな余韻をひきずったまま、今日は1日中、葛西さんのインタビュー記事の小冊子を布団の中で読む。
トークショーは、写真家の藤井保さんとアートディレクターの副田高行さんの3人でやった。
前に、チヨジが大阪から出てきて、うちに居候をし始めたころ、藤井さんのトークショーに川原さんと行ったのは、これと同じシリーズの企画展だったんだな。
あの時、藤井さんのインタビューが載った小冊子をチヨジが貸してくれて、私はとても励まされた。
目録を見ると、2003年の10月だ。
トークショーが終わってから、川原さんともうしばらく一緒にいたくて、「のらぼう」に寄った。
西荻までの電車の中、胸の中にはずっと葛西さんがいて温かく、川原さんと喋ると、川原さんもやっぱり同じなのが分かった。
川原さんが葛西さんのことを話す時、とても親密な大事な人のことを、今まさに思い出して、味わい直すようにしながら喋ってくれる。
まるで血のつながった娘のようであり、お姉さんでもあるような、情のこもった明るい顔になる。
葛西さんはサン・アド時代の川原さんの敬愛する上司で、川原さんに葛西さんのことを教わった。
ウーロン茶のCMの仕事のことも、川原さんに聞いていたから、きっと私は出会えた。
そんなことを思いながら、小冊子をすみずみまで読み終えた。
葛西さんは決してひとりでやってきたわけではなく、いろんな人に刺激を受け、いろんな局面で先輩や仲間たちに助けられた。
子供のころからずっと。
小冊子には、そういうことばかりが書いてあった。
ぶつかったり、気がついたり、自信をなくして悩んだり。
本当にこれでいいのか?と分からなくなっていたものが賞をとったり。
でも、いつだって葛西さんは、レタリングの通信教育の課題だって、家具屋のチラシだって、ウイスキーの広告と同じくらいに夢中だった。
おもしろくてたまらないから、妥協しない。
特別なことじゃなく、そんなのは当たり前。
私は、それからしばらく目をつぶっていたのだけど、腹の底の方で、フツフツと小さなあぶくが湧いてきた。
私もがんばろう。
夜ごはんは、オレキエッティ(ベーコン、海老、赤ピーマン、緑ピーマン、トマトソース)、南瓜の塩蒸し、大根マリネ、ポテトサラダ。
スイセイは、食べては寝、食べては寝ている。
きっと、たくさんの人に会った消耗を、取り戻そうとしているんだと思う。

●2007年11月9日(金)晴れのち曇り

9時に起きた。
スイセイは昨夜から咳が出ていたが、どうやら本格的に風邪をひいたらしい。
いろいろ終わって、ホッとしたのだろう。
あちこち掃除をして、11時から撮影。
いつものNHKテキストの撮影です。
簡単な野菜ものが2品だったので、あっという間に終わってしまった。
試食しながら、鷲尾さんが買ってきてくださったおにぎりでお昼ごはん。
1時くらいに解散となる。
今日は、葛西さんのトークショーがあるので、夕方から出掛ける。
川原さんとはさっきまで一緒だったけど、また現地で待ち合わせ。
それまで、『チクタク食卓』の作業を再開する。
ちょくちょくスイセイの部屋を覗いては、「薬は?」とか「お腹すいてない?」とか、「りんご食べる?」とかしつこいので、いやがられる。
思い出したが、スイセイは風邪をひくと動物になる。
自分の体に鼻をうずめて丸くなり、ひとりで治そうとする。

●2007年11月8日(木)晴れ

11時まで寝てしまった。
昨夜も12時には寝たから、11時間睡眠。
いくらでも寝ていられる。
私は今、自由だ〜〜〜〜。
午後から、DVDのデッキを買いに「ヨドバシカメラ」へ。
無印で枕と枕カバーを買い、明日の撮影の仕入れもして、てくてく歩いて帰ってきた。
今日の分の散歩は、これで完了とする。
扇風機をしまってガスストーブを出し、デッキもとりつけてもらった。
新しいデッキは、今までのが何だったんだろう?という丈夫な作り。
銀色でかっこいいパイオニアだ。
今までのは、聞いたこともないメーカーのデッキだった。
スイセイがどこかから安く買ってきて使っていたが、3ヶ月くらい経つと平気で壊れ、もう何度交換しただろう。
ミルクコーヒーをいれ、『セクロボ』の第1話をまた見る。
何度見ても涙が吹き出してくる。
やっぱり、すごい。
見れば見るほどすごくなる。
あんな幸せそうな音楽を流しといて、あんなにホッとさせておいてからに、あっけなく三日坊主を殺してしまう。
決して観客を許してくれない。
なんと残酷な脚本だろう。
おかげでこっちは、愛があふれ出してしまうではないか。
夜ごはんは、肉豆腐(牛こま、焼き豆腐、白滝、長ねぎ)、白菜の蒸し煮、しらすおろし、ふりかけ、玄米。

●2007年11月7日(水)晴れ

たっぷり洗濯。
ひさしぶりに、あちこち掃除した。
雑巾がけをしながら、今日もまた「スカンク兄弟」。
ベンチのマット、座布団、風呂場のマット、まな板も干す。
「リビングデザイン」の今回の木皿さんの原稿を読んで、「自分の中の闇の表面を、スーッと撫でられたような文じゃ」と、スイセイはわざわざ台所に言いにきた。
私はぞうきん掛けをしながら、どんな食卓のシーンを合わせるか、ひらめいた。
16日の撮影が、今から楽しみだ。
ゲラの校正を1本やって、美容院へ。
「紀ノ国屋」で買い物をして出てきたら、外はもう真っ暗だった。
それでもめげずに散歩に出る。
2/3をスイセイと歩いて、残りはひとりで走った。
夜ごはんは、鮎のムニエル、大根おろし、しらす、小松菜と油揚げの煮浸し、人参塩もみ、納豆、麩と葱の味噌汁、玄米。

●2007年11月6日(火)曇り

11時までぐっすりだった。
遅い朝ごはんを食べながら、離れていた間の報告をし合う。
スイセイは昨夜、ここ3日間の酔っ払い&お疲れでレロレロで帰ってきたのだが、よほど楽しかったのか、話が止まらなかった。
それでも1時には寝た。
今朝もまた、同じ話を繰り返している。
「それ、聞いたよ」といちいち教えると、昨夜話したことは、すっかり忘れているのだそう。
昨夜、スイセイが留守の間、壊れていたDVDのデッキをひさびさにつけてみたら、生き返っていた。
ひとしきり話して布団の部屋に戻り、また『セクロボ』を見る。
メイキングやインタビューが入ったのを2回見て、「プッチーニ」の後編と最終回を見終わったところで、またデッキが壊れる。
だらだらと涙が噴出し、両目は腫れている。
6時になって、やっと今日が始まった感じ。
風呂に浸かり、初めて顔を洗う。
おとといは、ナツコとリーダーに送られて、スイセイは泥酔状態で帰ってきたのだけど、そのことも記憶にないらしい。
でも昨日、「ルウム」に行ってみたら、部屋の中がすっかり片づいていたそうだ。
どうやらリーダーとナツコとサンちゃんが、洗い物もぜんぶやってきれいにし、眠っていたスイセイを起こして、家まで送り届けてくらたらしい。
よく出来た妹だちよ。
夜ごはんは、鮎の塩焼き(昨日、スイセイの28年来の友人の、栃木に住んでいるタカヨちゃんが、おじさんが朝釣ってきたのを持ってきてくれた。タカヨちゃんは、オープンする10分前からやって来て、「ルウム」の玄関のところで待っていたそう。柚子もたくさんいただいた)、大根おろし、大根の塩もみ、人参の塩もみ、きんぴら、おすまし(三つ葉、溶き卵)、白いご飯(もち米入り)。

●2007年11月5日(月)晴れのち曇り

昨夜は日記を書けなくて、アップすることができませんでした。
開いてくださった方、ごめんなさい。
今日は、10時半から「きょうの料理」の撮影。
このところのくたびれで、ヨロッとしてしまいそうなのを、エプロンの紐をキリッと絞め、気合いを入れてひとつひとつ作っていった。
ふー。
3時過ぎに終わった。
背中はガチガチ。
スイセイは、今日も「ルウム」。
しおりちゃんや中野さんが、子供たちを連れて来ているみたいだけど、私は今日は留守番。
行ってしまったら、また調子にのってワインなんか飲み始めそうなので。
スイセイがまだ帰らないので、ひとりで夜ごはん。
蓮根のはさみ揚げ、小松菜と水菜のおひたし、きんぴら、酒盗、しば漬け、玄米。

●2007年11月4日(日)晴れ

昨夜は、ものすごーく楽しかった。
楽しすぎて、ホテルのお風呂に浸かりながら、嬉し涙がだらだら出た。
酔っぱらって、「ウオ〜〜〜〜〜!」と泣き叫んだような気がする。
隣の部屋の人は、もしかすると怖かったかもしれないな。
起き抜けの二日酔いの頭で思った。
神戸には、木皿さんにお会いしに行ったのです。
木皿さんは、思った通りカッコよく、ふところの深い、はかり知れない大きい方だった。
私は、尊敬とドキドキで胸がいっぱいなのに、話たいことが次々湧いて出てきて、洗濯機の渦の中にいるような感じになった。
ああ本当に、もったいないくらい楽しかった。
11時前にホテルを出て、三の宮の街をフラフラ歩き、蒸したての豚まんを買い込んで、12時の新幹線で帰ってきた。
3時に東京へ着き、そのままスイセイの「ルウム」へ。
今日は、「ルウム」のお披露目なのだ。
ポツポツと人が集まり、けっきょくいつものご近所さんメンバーで、夕方からまた酒盛りとなる。
近代的火鉢のような、新モバイル焚き火を囲んで、豚まんを焼いたり、干し芋を焼いたり、熱かんを沸かしたり。
町内会の気のおけない皆で、温泉に浸かっているような飲み会。
放っておいたら朝になってしまいそうなのを、10時くらいに帰ってきた。
明日があるので。

●2007年11月3日(土)曇りのち晴れ

午前中はどんより曇って、底冷えがしていたけれど、お昼を過ぎたらぐんぐん明るくなってきた。
部屋干ししていた洗濯物を出す。
追加の洗濯もやる。
向こうの通りを歩いているおばさんの、ケイタイ電話の声が聞こえてくるくらい、穏やかで静かな日。
午後から神戸に出掛けるので、ゲラの校正をやったり、ファックスを送ったりしてひと仕事。
スイセイは、朝早くリーダーとアノニマに出掛けた。
今日は、「冬じたく展」だそう。
天気がいいから、散歩がてらにお客さんがたくさん来るといいけど。
昨日は、凸版印刷で『おかずとご飯の本』の印刷の打ち合わせをやった。
日置さんの写真と、今までの色校を見比べながら、1枚1枚細かく希望を伝えていった。
おととい、撮影が終わってから、みどりちゃんと赤澤さん、日置さん(電話で聞いた)に色校の感想を聞いていたので、それも伝えながら。
私は、印刷の専門的なことは分からないけれど、料理がおいしそうに見えるかどうか、というのなら分かる。
あの夏の撮影の日々、日置さんの写真を初めて見た時の感動を、本を買ってくれた人にも届けたい。
ただそれだけの気持ちだから、私は自分の感性でしか言葉を伝えられないのだけど、千草ちゃんと丹治君が客観的な意見を言ってくださった。
印刷所の職人さんたちはとても親身で、最初から最後まで、同じペースで進んでいった。意見を聞いてくださり、それを確実に把握しながら、校正紙に赤マジックで書き込んでゆく。
会議室の空気は安定していて、途中ではしょったり、集中が切れたりなどしない。
誰ひとりとして偉そうにしている人はいなくて、とても大事なことをやっているのに、テキパキなどしてなくて。
ひとりもピリピリしてなくて。
職人魂というようなものが、表には出ていないんだけど、確実にそれが空気の中にある。
ものを作ることのしつこさは、この人たちがいちばんだろう。
かっこよかったなー。
自分なんかの作った料理が、こんな風にりっぱな大人の人たちに囲まれて、いろいろ意見を言ってもらえて。
父が生きていたら、きっと喜んでくれただろうな… なんて思った。
3時から始まり、途中トイレ休憩を10分ほどはさんで、6時半まで。
私は合間をみて座りながらやったけど、他の皆は、ずっと立ちっぱなしだった。

●2007年11月2日(金)曇り

昨夜は、眠れなかった。
胃の上の方がピリピリして、頭の中では、同じことをくり返し考えている。
もう、考えないようにしようと思っても、気がつくとまた考えている。
夜中にもういちどお風呂に入ったり、マッサージしたり。
それでも、なかなか寝つけなかった。
寝起きは最悪。
まったくお酒を飲んでないのに、二日酔いの朝にそっくり。
体が重く、胸のなかはむさ苦しい。
まるで、自分の体の中から、悪いものを生産しているみたい。
朝ごはんをモソモソと食べながら、「スカンク兄弟」を聞いていたら、だんだんに、バカバカしくなってきた。
私は昨夜、怒っていたのだ。
でも、怒りや不安というのは、誰かから与えられるものではない。
自分で生み出し、増やしていってしまうものなんだ。
と、はっきり気がついた。
自分の都合でピリピリし、調子が悪くなっている自分が、バカバカしくなった。
「スカンク兄弟」は、いい大人たちが、皆、馬鹿のように真面目に楽しんでいる。
楽しくってたまらないことを楽しんで、何が悪いんじゃい!。
なんだか、胸がスカッとした。
これから私は、「スカット兄弟」って呼ぼう。
では、印刷所へと打ち合わせに行ってきます。
9時に帰り着き、夜ごはん。
餃子(駅ビルの)、味噌ラーメン(にら入り)、明太子、しらす、もちきびご飯。

●2007年11月1日(木)晴れのち曇りのち雨

11時から「天然生活」の撮影で、ひさびさに斉藤君に写してもらった。
ポラ(ロイド)を見たら、ガツーンと入ってきた。
斉藤君の写真はやっぱりすごい。
根性を入れて、ひとつひとつ作っていった。
くー、くたびれた。
背中がガチガチだ。
まだ9時半だけど、今日は早めに布団に入ろう。
赤澤さんは、ばななさんの新刊『まぼろしハワイ』が、ものすごく良かったそうだ。
「寝ながら読んでいたんですけど、涙が出てしょうがなくて、耳の中まで入ってくるくらいでした」。「もう、すごくいいんです。やさしいんですよー」。
「やさしいんですよー」のところ、抑揚がついた、気持ちをこめた言い方で。
そうかー。
私は、まだ読まずにとってある。
本のことがぜんぶ終わったら、じっくり読もうと思って、楽しみにとってあるのです。
撮影の後、赤澤さんと最後の校正作業。
夜ごはんは、撮影の残りいろいろと、おにぎり。



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