2008年2月上

●2008年2月10日(日)晴れ

昼までしっかり寝て、風呂に入り、髪も洗う。
風呂上がりに、窓を開けてアイスクリーム。
二日酔いの腹減り状態で食べたアイスは、ものすごくおいしかった。
のどを通る時のなめらかさ、のどに触る冷たさ。
卵と牛乳の、濃厚な甘味。
ほんのり香るバニラ。
生まれて初めてアイスクリームを食べた人のような感動だった。
しかもこのアイス、上等でもなんでもない明治の青いカップのだ。
世の中に、こんなにおいしいものがあるだなんて。
と思いながら、1つ食べてしまった。
おかげで、お腹がピーピーとなる。
生理だし。
昨夜、帰り際に、「高山さん。眠りたい時には、思うぞんぶん眠ってもいいんですよ」と川原さんが言った。
それがけっこう嬉しかった。
そうかあ。
さて、今日は、何もかも放り出して、休業にしよう。
本を読んだり、毛布をかぶってそのまま寝てしまったり。
夜ごはんは、月見そば、ほうれん草のおひたし。

●2008年2月9日(土)曇りのち雪

11時から撮影。
NHKテキストのいつものメンバーです。
川原さんのニュージーランド土産の白ワインを、試食の時にあけた。
そこから飲み会が始まってしまった。
打ち合わせもしながら。
川原さんは絶好調で、口を開けばおもしろいことがポンポン出てくるし、鷲尾さんも話が尽きないし。
ふだんあまりお喋りをしない大畑さんやヒロセが楽しそうに喋っているのも嬉しくて、私は簡単に気持ちよくなってしまう。
それほど飲んでないのに、ベンチにパタンと寝てしまう。
皆の楽しそうな声に遠くから守られて、郁子ちゃんの歌が聞こえていて。
目が覚めたら、雪が積もっていて驚く。
音もなく、誰にも知らせずに、ひっそりと降っていた。
それから私は、もういちど寝た。
9時にお開きとなり、雪の中を皆が帰っていった。
私が寝ている間に、テーブルの上はすっかり片づき、洗い物も全部やってくれてあった。
スイセイに布団を敷いてもらって、倒れ込むように寝る。
12時に目が覚め、風呂に入って、また寝る。
夜ごはんはなし。
スイセイは、夜中にラーメンを作って食べたそう。

●2008年2月8日(金)快晴

日向ぼっこをしていたいような日。
ベランダに顔だけ出してちらしを読んでいたら、頭が暑いくらいになった。
陽射しが強いのだ。
昨日の「きょうの料理」の私は、思ったよりあんがい落ち着いていた。
ちゃんと説明ができていたか、見るまでけっこう不安だったけど、これならまずまずだ。
スイセイには、「今まででいちばんえかったで」と褒められた。
うーん。
朝ごはんを食べ終わり、スイセイとミーティング。
『チクタク食卓』の作業をスムーズにやれるように、新しいフォーマットを作ってもらうので。
スイセイがパソコンが得意なことが、仕事のパートナーとしても、たいへんありがたい。
さて、あちこち掃除をし、暖かいうちに明日の撮影の仕入れにいってこよう。
夜ごはんは、お刺し身2種(サーモン、平目)、がんもどきと白菜の含め煮、春雨サラダ、トマト、小松菜煮浸し(昨夜の)、玉葱の味噌汁、玄米。

●2008年2月7日(木)晴れ

台所の掃除をしたり、塩を炒ったり。
あさっての撮影の準備。
撮影といったって、NHKテキストのいつものメンバーで、1品作るだけだ。
今は、とにかく仕事をお断りさせてもらっているので、とても気持ちが軽い。
本作りのためだけに、自分のペースで動いている。
スイセイが換気扇の掃除をして、ピッカピカにしてくれた。
最近、高知の友だちにもらった灰汁の洗剤が気に入って、暇さえあれば磨いている。
スプレーでシュッとやってから拭きするだけで、ステンレスなどピカピカになる。
台所の床もスッキリした。
電気のスイッチなど、ふだん目にもとめないところの汚れが気になると、すぐにやる。
いいものをいただいた。
原料は薪ストーブなどで出た灰と熱湯だけらしい。
詳しくは、「エゾアムプリン」のホームページの「友達」の10に載っています。
なんと、この手紙をアムたちにくれた人が、高知で友だちになったシバちゃんのまた友だちで、この間(中国に行っている間)、うちにも遊びに来てくれたそう。
いつまでも腐らないというところも、すごくいいなあ。
3時半くらいに、スイセイと走りにいく。
北風が吹くと寒いけど、そのうちにポカポカと温まってきた。
中央公園のグランドには、ところどころに雪の小山ができていた。
数えてみると30個くらいある。
日曜日の雪の日に、雪だるまやかまくらを作った残がいだと思われる。
農家で大根、人参、小松菜を買って帰ってくる。
まだ明るい夕方のうちに、風呂に入って髪も洗う。
今夜は、自分の出るテレビがあるので、ちょっとドキドキしています。
夜ごはんは、ざる蕎麦(大根おろし、葱、貝割れ、わさび、焼き海苔)、小松菜とじゃこのサッと煮浸し、だし巻き卵。

●2008年2月6日(水)曇り

今日は、今年一番の寒さだそうだ。
窓を開けてよく見ると、ほんのかすかに小雪が舞っている。
スイセイは、午前中から銀行へ。
雪が本格的になってきました。
1時から、リトルモアの打ち合わせ。
打ち合わせの最中、気になって見ると、窓枠いっぱいに白く、はらはらと舞っている。
あとからあとから舞い落ちてくる。
リトルモアの熊谷さん(編集者)は、とても元気だった。
お腹の底から声が出て、目がクルクルと光って。
小学生とか中学生みたいな元気さ。
秋田出身の熊谷さんは、雪の中を駅から歩いてきたそうだ。
帰りに傘をお貸ししようとしたら、「大丈夫です。秋田の人ってなぜかあんまり傘をささないんですよ。雨の日はさしますけどね」と笑いながら、バスケットシューズの紐をしめ、跳ねるように帰っていった。
中国から帰って、ひさしぶりに人に会ったことを思い出しました。
このところ誰にも会わず、スイセイとふたりだけで毎日を過ごしていた。
今日は昨日とほとんど同じようだけど、少しだけ違う、というくらいの毎日。
若いころには考えられないことだったけど、自分は今、とても自由だと感じる。
1冊でも本があれば、それを飽きるまで読んで、知らず知らずのうちに自分の内側に入ってゆける。
外に出掛けていって探すのではなく、内側にもぐって探す。
子供のころのことや、若いころのことなど、ふわーっと思い出したりもする。
こういう寒い日に、家の中にいられる喜びを感じながら。
次回の撮影のレシピをひとつ仕上げたら、あとは読書。
ゆるゆると過ごす。
夜ごはんは、ハンバーグ(デミグラスソース、パスタ添え)、サラダ(サニーレタス、貝割れ、トマト)、キャベツのスープ(塩豚、ドライトマト)。

●2008年2月5日(火)快晴

ポッカポカ。
洗濯物を干す時見上げたら、雲ひとつない青空だった。
あちこちの屋根に、雪がまだ残っていて眩しい。
しかし、鼻水がとめどもなく出る。
たぶん花粉症が始まった。
あちこち掃除機をかけ、踏みつぶした豆などきれいにする。
さて、今日もまた「スイセイ本」だ。
夜ごはんは、自家製鰯の干物、牛蒡と糸こんにゃくの炒り煮、ほうれん草のおひたし(高知のじゃこのっけ)、大根おろし、じゃが芋と青じその味噌汁、玄米。

●2008年2月4日(月)快晴

カーテンを開けると、まぶしい白さ!。
晴天だけど、雪はまだ残っている。
大家さんの庭をのぞくと、雪の上をハルがあっちに行ったりこっちに行ったりした足跡が、模様のように残っている。
ハル、うれしかったんだろうか。
ポタポタと、あちこちで雪解けの滴が落ちている。
まるでほんとうの春がそこまで来ているような、まさしく今日が「立春」だそうなので、ついでにひとつお知らせをします。
長年続けてきたこの「日々ごはん」ですが、この2月をもって終わろうと思っています。
去年くらいからぽつりぽつりと考えていたのですが、ちょっとここらで、まとまった文章を書きたくなったような気がするのです。
それが、まだ何なのかは分からないのですが、とりあえず、日記は書くことをやめるというのをやってみようと思うのです。
毎日を感じながら進んでゆくと、日々は少しずつ少しずつ、変わってゆきます。
自然界も、人の体も、人の気持ちも、変わらないものはこの世にありません。
私もそろそろ、次の広場へ出かけてゆこうかと思っています。
何年かたって、もしかするとまた、「日々ごはん」が何かのきっかけに始まることがあるかもしれないけれど、先のことは私にも分かりません。
またいつか、どうしても書きたくなってうずうずしてきたら、書くのだと思います。
「ふくう食堂」は、今までのように続いてゆくので、時々のぞいてみてください。
長いこと読んでくださった皆さんには、ほんとうに感謝です。
どんな天気の、どんなことがあった日に、自分の気持ちが浮き立つのか。
どんな日に、何を作って食べたくなるのか。
自分の実感をまっすぐに確かめながら、毎日の「日々ごはん」を、こんどは皆さんが綴ってみたらどうでしょうか。
というわけで、これから陽の当たる畳の部屋で、『雪沼とその周辺』の続きを読もう。
3時半くらいに、スイセイと街へ。
ひさしぶりに外に出たら、自分の背が高くなったような気がした。
周りの景色を、いつもより2cmくらい高いところから見ているような。
というか、歩いている人たちもまた、細長く見えるような。
どういうわけなんだろう。
夜ごはんは、キングサーモンの和風ムニエル(じゃが芋ソテー添え)、小松菜とじゃこの煮びたし、明太子、葱だけの味噌汁、玄米。

●2008年2月3日(日)雪

朝方トイレに起きたら、やけにシーンとしている。
カーテンをめくると、しんしんと雪が降り積もっていた。
寒い。
家の中の全部が、寒さに沈んでいる。
電気ストーブをつけて、もういちど寝る。
(太郎の上にも、次郎の上にも、私の上にも、スイセイの上にも、リーダーの上にも、ナツコの上にも雪は降り積む… )と思いながら寝る。
いくらでもいくらでも眠れる。
体の奥にたまった眠気が、毛穴からにじみ出てくるみたいに。
涎をたらして寝ていた。
1時半に起きるが、今日はもう、仕事は何もしない日にしよう。
雪はフラフラと舞いながら、あとからあとから降りてくる。
今読んでいる本が、とてもおもしろい。
堀江敏幸さんの、『雪沼とその周辺』。
空港の本屋さんでたまたまみつけて、飛行機の中で少しずつ読んでいた。
雪沼という小さな田舎町で起こった、ささやかな出来事を集めた短編集。
同じ町の出来事なので、登場人物が密かにだぶったりもする。
本の中で人々は歳を重ねる。
中でも「イラクサの庭」という短編がとても良くて、行きの飛行機で泣き、帰りでもまた同じところで泣いた。
堀江さんという人の書く本の中は、いつもシーンとしている。
その中に、ほんのり白く、見えないくらいにやさしいが混じっている。
私はそこが好きなのかもしれない。
今年も、あとで豆まきをしよう。
高知から荷物が届いた。
レモン色のでっかい電球みたいなブンタンと、のし餅(高きび、黒豆、よもぎ、もうひとつ人参みたいな色の)、掃除用の灰汁、CD。
こんな雪の中を、宅急便のお兄さんは息を弾ませやって来て、「重いですから気をつけてくださいね!」と、明るい笑顔で手渡してくれた。
さっそく、おやつにのし餅を焼いて食べる。
スイセイは、「おいしいのー。おいしいのー」と目をつぶりながら味わっていた。
上品な味がするんだそう。
人参みたいな黄色い色のは、南瓜だった。
どれもなめらかでやわらかく、ほんのり甘くて、本当においしかった。
夜ごはんは、牛こまのビーフストロガノフ風(玉葱、生クリーム、粒マスタード、青じそ、玄米)、ほうれん草のバター炒め、サラダ(大根、胡瓜、バルサミコ・ドレッシング)。
豆まきのついでに、ベランダに積もった雪の上を裸足で歩き、薬湯に浸かって温まる。

●2008年2月2日(土)曇り

鼻がムズムズして顔がかゆい。
花粉症かもしれないけれど、とりあえずあちこち掃除した。
私が帰る前の日に、スイセイが掃除機をかけてくれたそうだけど。
やっているうちに本格的になり、トイレや風呂場やら、すみずみまでぞうきん掛け。
郁子ちゃんのCDをエンドレスでかけながらやる。
聞けば聞くほど、大好きになる。
郁子ちゃんの濃い部分が、たくさん出ていると思う。
裏表紙のショッキングピンクの木が、私には郁子ちゃんの心臓に見える。
中国からの荷物や書類も片づけ、どうやらいつもの部屋の空気になった。
というわけで、「スイセイ本」の原稿を書き始めよう。
夜ごはんは、醤油ラーメン(煮卵、コーン、葱)、干し白菜の炒め物、白いご飯。
明日、東京は雪が降るそう。

●2008年2月1日(金)薄い晴れ

今日はとことん寝てやろうと思って、布団の中で寝たり覚めたり。
でも、あんがい眠れない。
12時に起きた。
リトルモアから出る絵本の、束見本や原稿が送られてきた。
陽の当たる畳の部屋でページをめくっているうちに、イメージがひろがる。
うーん。すごいことになってきたなあ。
調子が出てきたので、「スイセイ本」のための資料をひろげ、没頭する。
7時までやって、夜ごはんの支度。
その間ずっと、郁子ちゃんのCDを繰り返しかけていた。
すごくいい。
泣きたくなる。
夜ごはんは、鰯の自家製干物2種(塩、みりん醤油)、大根おろし、切り干し大根煮、ほうれん草のおひたし(高知のじゃこのっけ)、納豆、大根と大根葉の味噌汁(昨夜の)、玄米。



日々ごはんへ めにうへ