2014年     めにうへ

●2014年12月27日(土)晴れ

朝ごはんを食べ、早めに散歩。
スイセイは歩きながら、ずっと『リトル・フォレスト』の話ばかり。
ゆうべ、DVDをいっしょに見たばかりなので(コメントを書く仕事でお借りしている)。
農家でルッコラ、自動販売機の農家でりっぱな大根を買う。ゆっさゆさの葉っぱつきが100円だった。
ひさしぶりの中央公園は、短く刈り上げた黄土色の坊主頭だ。
人が少ない。ボールを蹴っている親子。歩きはじめたばかりの子ども。
凧上げをしていないだけで、みんな正月みたいにのどかな顔をしていた。
解散し、私はスーパーで買い物。
暮れになると高くなるので、ほうれん草や白菜なども買う。ハムのかたまり、数の子なども。
昆布とスルメを細く切って袋詰めにしたのも買う。今年はこれで松前漬を作ってみよう。ズワイガニの冷凍も買う。
帰ってからは、プレ大掃除。
あんまり早くからやりはじめると、また埃をかぶるので、隠れているところだけやる。
たんすの引き出しや、押し入れの中、本棚など、細々としたところなどだ。
明日から本格的にはじめようと思って。
今年の大掃除ソングは、リーダーが誕生日に作ってくれた『昨夜のうた、明日のうた』というCD。
夜ごはんは、ブリの照焼き、ねぎトロ、自家製いくらの醤油漬け(撮影のを冷凍しておいた)、大根葉のしょうゆ炒め、焼き海苔(マキちゃんにいただいたのを炙った)、白菜漬け&たくあん、大根と青じそのみそ汁、白いご飯。
海苔があまりにおいしく、スイセイはご飯をおかわりしていた。

●2014年12月21日(日)ぼんやりした晴れ

朝ごはんを食べ終って、洗濯物を干し、きのうの続きの作業。
何をやっているかというと、『Zの本』の校正をしているのです。
大テーブルにスイセイと向かい合い、声を出して読み合わせ、「ここは省こうか?」「うんにゃ、その言い方のまま残しといた方がええ」などとやっている。
それが楽しくてたまらない。
けっこう集中力がいるので、スイセイは1時間ごとに休憩をはさみたがるが、私はいくらでもやっていられる。
たぶん、スイセイの集中の仕方と私のは違うんだろう。
私の方が大掴みでちゃっちゃか前に進もうとするのだけど、「うーん」とねばって、必ずやいい答えを出してくる。
この本は、もう4年越しになるだろうか。
対談は去年とか、おととしに収録したものが多いので、「ああ、こんなおもしろいことを喋ってたんだ」と振り返ることができるところも、とてもおもしろい。
やりながら、ところどころでゲラゲラ笑ってしまう。
3時半までがんばって、ふたりで中央公園まで散歩してから、今夜はマキちゃん(ドラマを手伝ってくれたアシスタント)と、近所のもんじゃ焼き屋さんに行こうという計画だ。
すごい楽しみ。

●2014年12月19日(金)快晴

風もなくぽかぽかと暖かい。
空き地の向こうを、自転車のおじさんがのんびり走りぬけているくらいで、
どこか遠くの方から子どもたちの遊んでいる声がする。
世の中は師走で大忙しだろうけれど、車の音もしない。
このごろ私はずっと、星野源のCDばかりを聞いているのだけど、『昨夜のカレー、明日のパン』の一樹の声にしか聞こえない。
一樹のことを重ねながら、つい聞いてしまうのだ。
きのうの撮影で、今年の外向きの仕事はぜんぶ終った。
ぽっかり空いた時間、何をしようかな。
あとで、洋服ダンスの整理でもしよう。
衣替えなんてしないのだけど、ドラマの仕事からこっちのドタバタで、いかんせんぐちゃぐちゃになっていたので。
今、スイセイが街から帰ってきた。
吉祥寺はすごい人混みだったそう。うちのまわりはこんなにのどかなのに。
今日の映画の試写会へは、川原さんとふたりで行くことになった。
いざ銀座へ、デート気分だ。
夜ごはんは、西荻窪の『見晴料理店(「のらぼう」のケンちゃんが独立して開いたお店』にて。
聖護院大根と油揚げの炊いたん、里いもと白菜とタラの豆乳みそグラタン、車麩のフライ、れんこんの挟み揚げと揚げえびいものきのこあん、新潟の地ビール、新潟の赤ワイン。
クマちゃんたちがたまたま忘年会で集っていて、懐かしい皆の顔にも会えた。クマちゃんが頼んだ料理をちょこちょことお裾分けしてくれたりして。
『見晴料理店』はとても居心地のいいお店だった。
広々として、何を食べてもおいしかった。
お客さんも、働いてる人も、風通しがいいのに暖かいというか。
距離感が気持ちがいいんだと思う。
また行きたい。
そうそう、試写会で見た『リトルフオレスト』は、ものすごくよかった。
このことについては、こんどゆっくり書こうと思います。

●2014年12月14日(日)晴れ

朝ごはんを食べて、スイセイと散歩がてら近所の小学校へ選挙の投票をしにいった。
ひさしぶりにいつもの散歩道をふたりで歩いた。
夏みかんの木が枝を払われ、黄色い実がこぢんまりとぶら下がっていた。紅葉していた木々もずいぶんと葉が落ちた。
風もなく、穏やかな通りを腕をまわしたりしながら歩いた。
ドラマからこっち、私はめっきり散歩に出なくなってしまったけれど、陽射しや空気の感じが新しく、いきいきと感じ、もっと歩きたくなった。
スイセイと別れ、ぐるっとまわってスーパーへ。
今夜はカキのグラタンと、きしめんパスタ(タリアテッレのこと)にする予定。
帰ってからは新聞のコラムの続きをやる。もう3日も前からとりかかっているのに、なかなかできない。とても短い文なのだけど。
仕上がったところでスイセイに見てもらい、またダメ出し。
「クウネル」のときにはイラッとしてしまい、喧嘩になったけど、今日は落ち着いた素直な気持ちで聞くことができた。
スイセイにはいつも、どんな文でも青森のおばあちゃんにも分かるように書けと言われる。
直したおかげで本当に風通しのいいものができた。明日が締めきりだから、ぎりぎりだ。
『まる子』に間に合ったー!
と思ったら、今日は特別番組で『まる子』も『サザエさん』もやらないのだった。がっくり。
夜ごはんは、カキとかぶのグラタン、素スパゲティー(マヨネーズちょっとで和えた)、白菜のサラダ(塩少しで軽くもみ、しょうゆ、黒酢、ごま油をかけた)。

●2014年12月5日(金)晴れ

このごろは洗濯物を干すときに、空の青さにいちいちびっくりする。
そして空は、ずいぶん高いところにある。
明日は神戸の木皿さんのところに出掛けるので、いそいそと支度をしたり、仕事をしたり。
『きえもの日記(仮)』のレシピ書きやら、「天然生活」の記事の校正やら、のんびりとやった。
留守の間にスイセイが食べられるよう、カレーを多めに作っておく。
夜ごはんを食べ終ったころ、しおりちゃんが木皿さんへのお土産を持ってきてくれた。
ひとりで来るのだとばかり思っていたら、なんと、和楽とちよじも一緒だった。
和楽は小学5年生。この間会ったときよりまた少し背が伸び、声も低くなったような気がする。足がスーッと長くなった。
ちよじは今妊娠7ヶ月。
お腹の大きいちよじにひと目会いたいと思っていたのだけど、私は忙しさにかまけ、メールさえしていなかった。
とくにスイセイは、ずいぶん前からちよじのことを気にかけていた。
「今はね、すぐにお腹が空いて、何を食べてもすごいおいしいの」と嬉しそうに笑うちよじの顔は、お母さんというよりなんだかずいぶん子どもじみて、かわいらしくなっていた。
ちよじって、もともと無邪気な娘だけど、それが全面に溢れ出ているような。
これからヤーノや永谷と「くうふく」でごはんを食べるそうで、あんまりゆっくりできなかったけど、しおりちゃんがお腹が大きかったころの写真や、和楽の生まれたての写真やら、ごそごそ出してみんなで見た。
りうがそよを生んだときの写真や、りうが送ってくれた3人の孫たちのミニアルバムを、スイセイが部屋から出してきたりして。
短いひとときだったけど、なんだか年末のプレゼントみたいな時間だったな。
そのあとリーダーが、蟻のイラスト(『昨夜のカレー、明日のパン』で、タカラが大切にしていた紙ナフキンに絵を描いたのはリーダーです)を描いたCDを持ってきてくれた。これも木皿さんへのお土産。
みんなが帰ってから、「ちょっとええことをゆうてもええ?」と、スイセイがわざわざ言いにきた。
「和楽はしおりちゃんにもたれかかったりして、ずっとベタベタしとったじゃろ。あれはすんごいええことで。しおりちゃんとも永谷とも、ええ関係じゃってゆうことなんよ。オレがあのくらいのころには、そんなこと母ちゃんにできんかったもん。ちよじとヤーノが結婚して赤ん坊ができたり、しおりちゃんの家族が仲良しだったり、もうそれだけで、相吉さん(マスター)が『クウクウ』を作ったことの意味があるんじゃとオレは思う」。
夜ごはんは、カレーライス(鶏ムネ肉、にんじん、玉ねぎ、アムたちが送ってくれたじゃがいも)、白菜とキャベツのコールスロー(水菜を加えて、ドレッシングとマヨネーズで和え、しょうゆをちょと落とした)。

●2014年11月29日(土)雨のち曇り

3時まで布団の中にいて、起きたらちょうどスイセイがリビングに入ってくるところだった。
「おっ、ひさしぶり。まーたみいは遠くの方に行っとったんじゃろう」と言われる。
その通り。
今朝はスイセイの朝ごはんだけ支度して布団にもぐり、ばななさんの『鳥たち』をずっと読んでいた。
読みたかった言葉、誰かに言ってほしかった言葉が本の中にたくさんあって、ひき返して読みながら、少しずつ進んだ。
もう最後まで読んでしまったのが、惜しい。
顔を洗って、「ロシア日記」の校正の仕上げをし、コンビニへ出しにゆく。
大通りを歩いているとき、行き交う車の音がずいぶん大きく迫ってきて、ああやっぱり、裏道を通って向こう側のコンビニへ行けばよかったと後悔した。
なんだか私は布団の中で、『鳥たち』の夢をみていたみたい。
そして、ねぼけたまま道路を歩いていたような。
夜ごはんは、マッシュルーム入りのミートソース・スパゲティ、骨つきフライドチキン(カリッとおいしそうに揚がっていたので、コンビニで思わず買った)、サラダ(ロメインレタス、セロリ)。

●2014年11月27日(木)快晴

朝起きて窓を開けたら、雪解けの景色にそっくりだった。
空き地にできた四角く大きな水たまりに、太陽が当たっているのだった。
まだ7時なのに、濃厚な冬の光。
前の晩まで降っていた雪が、明け方の太陽で溶かされ、一気に溶けて、滴がポタポタいう感じ。
きのうもおとといも雨だったし、ゆうべもよく降ったんだろう。物干竿にまだ水滴が残っている。
今日はインタビューが2本あるので、めずらしく美容院にセットをしにいった。
この間髪を短く切ったのだけど、自分ではどうもうまくできないので。
井の頭公園はまだ人が少なくて、空気もまだ新しくて、紅や黄色の濡れた落ち葉が道にはりついていた。
ここにも、明るい冬の太陽があった。
1時から、1本目のインタビュー。
1時間ほどで終り、スイセイの夕飯の支度をする。
『料理=高山なおみ』を見ながら、ミートソースをまじめに作った。
今はじゃがいもを蒸かしているところ。マッシュポテトの天火焼きをしようと思って。
このじゃがいもは、アムプリンのふたりが送ってくれた。
蒸かし立てのキタアカリの皮をつるんと剥いて、スイセイとひとつづつ頬張った。
うんまーーーい!
塩もしょうゆも何もつけなくても、みっちりとしたおいしさ。
マッシュポテトもとてもうまくできた。
炒めたマッシュルームをいちばん下に、その上に小松菜を炒めたの、ミートソース、マッシュポテト、チーズの順に重ねてオーブンへ。
6時からは「キチム」にて、立花くんとインタビューを受ける予定。

●2014年11月23日(日)快晴

今日もめちゃくちゃいい天気。
今私は、とても楽しいことをしている。
何をやっているかというと、おこんじきさんだ。
畳の部屋に『きえもの日記(仮)』の原稿を広げ、読み直しつつ、どのあたりに写真やスケッチを入れるのがいいかなど、ひらめくままに切り貼りしている。
こういうの、アーティストブックというんだったな。『料理=高山なおみ』のときに、立花くんに教わった。
朝9時前から夢中でやっていて、気づいたら12時半だった。
今日も下の空き地に男たちがいる(2人だけ)。お弁当はもう食べ終ってしまったんだろうか。見逃した!
じつは、ずっと書くのをどうしようかと迷っていたのだけど、さっきスイセイがとてもいいニュースを持ってきたので、思い切って書きます。
ロケの最終日(10/28)の帰りに、見るかげもなく痩せ細り、ヨロヨロしているハルに会った。
大家の奥さんによると、その何週間か前に突然倒れ、意識がなくなくなって病院に連れていかれたのだそう。「脳卒中だったと思う」とおっしゃっていた。
それから意識が戻り、少しずつ恢復して歩けるくらいにはなったのだけど、先週くらいに大家さん(旦那さんの方)に会ったときには、「ハルは生きてるのか死んでるのか分からんような状態です。下の方がめっきり弱くなって、家の中が今たいへんなことになっております」と。
ベランダにはもう出てこられなくなったから、上から眺めることも、鳴き声を聞くこともできない。さびしいけど、でももうおじいちゃんだから仕方がないのかなあと、半分はあきらめていた。
そしたら今朝、スイセイがパン屋さん散歩から帰りしなに、元気そうなハルに会ったのだそう。
これから散歩に行くところだったらしく、「後ろから見たら、馬がスキップしとるみたいに得意そうに歩いとったで。ようなったんと。体も痩せとらんかった。ほいじゃがもう15才だから、いつどうなってもおかしくないって大家さんがとゆうとった」。 よかった。私は、とてもうれしい。
さて、お昼を食べたら、続きにいそしもう。
4時には終わり、桜並木を通って散歩がてら買い物へ。
桜の葉っぱがずいぶん落ちて、紅い絨毯になっていた。
さて今日も、『まる子』に『サザエさん』だ。
夜ごはんは、豆乳鍋(シャブシャブ用豚肉、絹ごし豆腐、舞たけ、白菜。しめには溶き卵を加えて雑炊にした)、にんじんときゅうりの黒酢しょうゆ漬け、野沢菜漬け。

●2014年11月22日(土)快晴

あちこち紅葉して、香ばしいようないい天気。
きのうから、うちの前の空き地では材木やら鉄の棒、足場の金具なんかが運び込まれ、男たちが5、6人で作業している。
恒例の、選挙ポスターを張るつい立ての準備をしているのだ。
今朝私は7時半に起きたのだけど、もうすでにカチャカチャと何かやっていた。
窓は開けずに上から覗いていたら、社会の窓を開けながら木の陰に向かう若者がいて、私はすぐに後ろを向いた。立ちションだ。
今は、お昼ごはんの休憩中。
日の当たった材木の上や、地面のコンクリートのところに、なんとなく間隔を開けながら足を投げ出したりあぐらを組んだりして、みなお弁当を広げている。
楽しみにしていた時間がこれからはじまる、いかにもいそいそとした感じで、今、黒い服の男が、しょうゆかソースの袋をちぎって、フライか卵焼きにかけた。
コンビニ弁当かな? とてもおいしそうだ。
うちのお昼は、お雑煮(白菜、大根、里いも)。
おとついの撮影の残りだけど、スイセイが朝から楽しみにしている。
さて、もうひとがんばり、原稿の続きをやろう。
今書いているのは、子育て中のお母さんのための、小さなコラムだ。
夜ごはんは、ざる蕎麦(大根おろし、山いも、水菜、ねぎ、ワサビ)、きゅうりとにんじんの黒酢しょうゆ漬け、筑前煮(いつぞやの残り)、数の子。

●2014年11月16日(日)曇りのち晴れ

朝方は曇っていたけれど、ずんずん晴れてきた。
公園の桐の木が紅葉している。
この1週間は、『きえもの日記(仮)』をずっと書いていた。
どうにか形になり、きのう編集さんにお送りしたところ。
これは、『昨夜のカレー、明日のパン』ドラマのロケまわりの日記です。
フード係の目から見た、個人的なメイキング本になるのかな?
とにかく、走りまわっていたあの日々に見えたもの、感じたことを必死で記録しておいたので、「ロシア日記」と同じやり方で解凍し、まとめた。
もしかすると『日々ごはん』や『ぶじ日記』シリーズの番外編に当たるのかも。『フランス日記』みたいな。
確かにこれは、ドラマという世界への旅本かもしれない。
どうかみなさん、楽しみにしていてください。
というわけで、今日は「ロシア日記」の校正。終ったら「気ぬけごはん」を書きはじめよう。
きのう台所の蛍光灯がパカパカして、気持ちが悪いのではずしてもらった。寿命らしい。
それで今日は、朝も昼も1本だけの灯りの中でごはんを作った。
私は目が悪い(老眼)せいかもしれないけど、気持ちもぼんやりしょんぼりとしてしまう。薄暗い台所って、おいしい料理ができないような気がするな。
スイセイがネットでいろいろ調べ、これからはLEDになるそうだ。よく分からないけど、10年ぐらい長持ちするらしい。
「気ぬけごはん」を4時までやってあちこち掃除し、買い物へ。
今夜は、おとついの牛スジカレー(試作)にチーズをのせて、焼きカレーにする予定。きのう見たテレビのがおいしそうだったので。
ご飯にのせてオーブンで焼くだけなので、『まる子』と『サザエさん』を見ながら洗濯でもたたもう。
そして、今夜は『昨夜のカレー、明日のパン』の最終回だ。
私は見られないけど。
ああ、いつもの日常が戻ってきた。
薄暗い台所、夜ごはんの支度をしているときには、ひっそりしてなんだかいい感じだった。
食材も調味料も乏しいけれど、工夫しておいしいごはんを作っている、みたいな。
夜ごはんは、牛スジ焼きカレー(牛スジ肉、牛スネ肉、大根、じゃがいも、にんじん、溶けるチーズ、白いご飯)、レタスとピーマンのサラダ(高知のナオちゃんが送ってくれた柑橘を絞ったドレッシングで)。

●2014年11月9日(日)雨のち曇り

肌寒く、薄暗い天気。それでも洗濯をして部屋干しする。
朝ごはんを食べてすぐ、「ロシア日記」の続きにとりかかった。
すでにずいぶん形になっているし、プリントアウトもきのうのうちにしておいたので、余裕のよっちゃんでやる。
このところずっと、電気ストーブをつけてサマルカンドでのことを書いていた。
ウズベキスタンに行ったのは去年の6月だから、あれから『料理=高山なおみ』の本作りや、ドラマの料理の怒濤の日々もあり、もうずいぶん昔のことのような感じがするのだけど、現地に持っていった日記の走り書きと、写真を見比べているうちに、細々とした記憶が蘇る。
なんだかそれは、冷凍保存しておいた記憶を解凍する感じ。
あるいはふえるワカメみたいに、カラカラに乾燥&小さくしておいたものを、水に浸けてもどしてゆくような。
自分でも驚くほどささいなことまで思い出し、空気の感じや匂いなど、立ち上がってくる。
人の表情や声も。
そんなわけで3時には仕上がり、あぜつさんにお送りした。
ほっとひと息ついて、てくてく歩いて買い物へ。
私がドラマでバタバタしている間、撮休みのときでもどうも落ち着いた気持ちでごはんを作れず、鍋ものとかうどんとかパスタとか、あんまり考えなくてもできるものばかり続いていた。
なんか、上っ面だけで作っていた。
それでもスイセイは文句を言わず、当たり前のようにしていてくれた。
なので今日は、真面目に餃子を作る。
お肉もいつもより増やし(豚コマを刻んで加えた)、しいたけも加えた。キャベツだけでなく、白菜と半々にした。ちゃんと新米でご飯も炊く予定。
あとで『まる子』を見ながら包もう。
いつもホームページを開いてくださっているみなさま、長らく日記が書けなくてごめんなさい。
10月28日にドラマのロケもぶじアップしたので、いつもの暮らしに戻そうと思っています。
今夜は『昨夜のカレー、明日のパン』の第6話だ。
DVDを送っていただいたので、3日前から私は毎晩2回ずつくらい見ていました。
夜ごはんは、焼き餃子、野菜スープ(白菜、にんじん、しいたけ、ニラ)、キムチ、野沢菜漬け、白いご飯。

●2014年10月19日(日)秋晴れ

きのうは貧血気味だったので、スイセイの朝ごはんだけ支度をして布団にもぐり、ばななさんの『花のベッドでひるねして』を延々と読んでいた。
それが、とってもいい充電になった。
読みながらきれいな水が体に流れてくるような感じ。
そして読み終わったら、目の前がスーッと明るくなり、体が軽くなった。
今朝は、秋晴れの日曜日。
おとつい「クウネル」の原稿もぶじお送りできたので、今日はのんびり。
洗濯物をベランダいっぱいに干し、布団も干し、次のロケの献立を最終チェック。
タイムテーブルをまとめ、仕入れもまとめてしおりちゃんとマキちゃんにメールした。
ずいぶん余裕をもってやれた。
ロケはあさってからだから、仕入れや仕込みは明日やれば充分間に合う。
ついに、あと2日でクランクアップだ。
終わってしまうのは淋しいけれど、終わらないと前へは進めないのだ。
3時ごろ、てくてく歩いて図書館へ行った。
整理の日だそうで、閉館していたけど。
返却ボックスに借りていた本を1冊1冊入れるとき、隙間から図書館の匂いがぷーんとした。
ものすごくほっとする匂いだった。
夜ごはんの支度をしながら、ゆっくりした気持ちでひじきを煮る。
さあ、『まる子』に『サザエさん』がはじまる。
今夜もまた、10時になったら『昨夜のカレー、明日のパン』第3話のDVDを見ようと思う。うちはBSが写らないので。
夜ごはんは、しゃぶしゃぶ(豚肉、絹ごし豆腐、白菜、水菜、えのき茸、くず切り、うどん)、大根おろし、ポン酢、赤ゆずこしょう、おろしにんにく。

●2014年9月28日(日)快晴

秋晴れの日曜日。
空き地の彼岸花はいつの間にやらすっかり散って、金木犀の匂いがする。
朝からドラマの料理メニューをリストアップ。
本を作るときみたいに、封筒を開いた紙にどんどん書き出していった。
「日々ごはん』を何度も開いてくださった方、長いこと日記が書けなくてごめんなさい。
7月からはじまったロケですが、無我夢中で走ってきました。
きのうの打ち合わせで集まったスタッフも、それぞれにみな陽焼けし、秋の装いをしていてちょっとじーんとした。
これまでの日々を記録しようと、じつは少しずつ日記を書きためていました。つっ走りながらの走り書きですが、何かの形にまとめられたらと思って。
どうか皆さん、楽しみに待っていてください。
『はなべろ読書記』の方はぶじ入稿も終わり、カバーや帯のデザインも上がった。
川原真由美さんのデザイン、本屋さんに並ぶのが私もとても楽しみです。11月の1週目の発売だそうです。
さてそして、ついに来週の日曜日、夜10時から『昨夜のカレー、明日のパン』の第1話がはじまります。
木皿泉さんの世界、どうかお楽しみに!
明日のロケは3時からなので、今日はのんびりムード。
あとで『まる子』と『サザエさん』を見よう。
夜ごはんは、栗ごはん(トークショーでお世話になった、武雄市図書館の北村さんが送ってくださった大きな栗で。庭の栗の木が豊作だったそう)、ピーマンの肉詰め、水菜のおひたし、大根と青じそのみそ汁。

●2014年8月30日(土)曇り時々晴れ

ぐっすり眠って9時近くに起きた。
次のロケまでのひととき、私の体は大急ぎで疲れをとろうとしているみたい。
ほんとうは、ドラマのことだけに身も心も浸っていたいのだけど、そうもいってはいられない。
おとついは『シャキーン!』の自宅ロケ、きのうは、布団の中で『はなべろ読書記』の校正を仕上げ、お送りした。
ところで、何のドラマかようやくお知らせができるようになりました。
木皿泉さんの『昨夜のカレー、明日のパン』です。NHKのBSで、毎週日曜日の夜10時から、10月5日よりスタートです。

いつ雨が降ってもおかしくない天気だったけど、朝ごはんを食べていたら晴れ間が出てきた。
ひさしぶりの青空だ。
洗濯物をめいっぱいベランダに出し、布団も干した。シーツも洗って干した。
大家さんのどんぐりは、青い実だけでなく、ところどころ茶色がかっている実もある。
夢中で走りまわっている間に、夏休みももう終わってしまうのだな。
スイセイは、山の家で柿渋を作る会をするそうで、このところいそいそと毎日準備をしている。
とても楽しみにしているみたい。
明日の昼ごろ出掛けるのだそう。
天気予報がはずれて、晴れるといいな。
私の方は、またしばらく独身生活だ。ロケや打ち合わせも続くから、ちょうどよかった。
今日は、『はなべろ読書記』のまえがきを書いている。
息継ぎのようにのんびりとした静かな日だけど、いつなんどき次のシナリオが届き、打ち合わせで急に呼び出されるかもしれない… とも思いながら。
夜ごはんは、鯵の干物、とろろ芋、れんこんのじりじり焼き、小松菜おひたし、食欲みそ(ロケ先の無人野菜売り場で買った新しょうが、新にんにく)、油揚げとねぎのみそ汁、白いご飯。

●2014年8月10日(日) 台風

長いこと日記が書けず、開いてくださった方ごめんなさい。ドラマのロケは、おかげさまで順調に進んでいます。

今日は雨と風。窓いっぱいに緑が濡れている。
ゆうべはずいぶんとくたびれが出て、横になったとたんバタンキューだったけれど、ぐっすり眠ったおかげでわりかし元気。
きのうは、タイトルバックの撮影だった。
とてもとても楽しく、もったいないくらいの時間だった。
ぜんぶが終わってホッとする気持ちと、終わるのが少しさびしくもあるような気持ち。
とちゅうで豆腐を買い忘れたことに気づき、その場にいた監督さんがスーパーに走ってくださったり、助監督が洗い物&調味料を計ってくださったりもした。
あと片づけのときにも、誰とはなしに台所にやってきて、つまみ食いをしては持ち場に戻っていったり、手があくとまた台所に来て、気づけばずいぶんたくさんの人たちが台所に集まっていた。
そして、何やかやと手伝ってくださる。
次回の撮影でも揚げ油がまた使えるから、ざるでこして寸胴鍋に移しておいたのだけど、そのまま出しておくのは不安だからと、冷蔵庫にしまっておこうということになった。
まずは冷まさないとということになり、その場にいたスタッフのひとりにお任せしたら、まわりの人たちがよってたかって、やれボウルが小さすぎるだの、保冷剤で冷やしたらいいだの、氷の方が早いだの、それじゃあ水が入りそうだのとやんやん言っている。
私としおりちゃんは、いつものように洗い物をしながら慌ただしく冷蔵庫整理などしていたのだけど、ふとテーブルの方を見たら7、8人の大人の背中が重なるように油が入ったボウルひとつをとり囲んでいるのだった。
ドラマのスタッフたちはみな、ひとつの目標に向かって総出で立ち向かうようなクセが体に染み込んでいるんだろうか。
でも、みんなにやにやして、小学生がグループ活動をしているみたい。
きっとプロのフードコーディネーターさんは、こういうとき「テンプル」で固めて捨ててしまうのだろうとも思ったけれど、いっぺんしか揚げ物をしていない、まだまだ使える油だったから。私も変だけど、みんなの様子もおかしくて、それはけっこう幸せな時間だった。
網戸越しの窓から入ってくる涼しい風と、緑濃い裏山で鳴いている蝉の声。

というわけで、次のロケは12日。
今日と明日は体を休めつつ、「ロシア日記」の方に没頭しよう。
そうして今夜は、がんばっているご褒美のように9時から楽しみなドラマがある!
いつものように、『まる子』と『サザエさん』も見よう。
夜ごはんは、枝豆、なすとピーマンのしょうゆ煮、豚トマ丼(スイセイが作ってくれた)。

●2014年7月19日(土)降ったりやんだりの雨

きのうは、とても楽しかった。
緊張したけれど、初日にしてはずいぶん落ち着いて動くことができた。
何よりも、モニターに映っていた料理がものすごくおいしそうで、本当にほっとした。
しおりちゃんもマキちゃんも大活躍だった。
ふたりが助けてくれたおかげで、まさに今できたばかり! という料理が画面の中でいきいきと光っていた。
私は頭がバカになっていて、感覚だけで動いていたような感じだったから、よくぞこんなにタイミングよくできたものだなあと、奇跡的にさえ思う。
助監督の男の子の、的確な指示のおかげもある。
頼りにしているスタッフは、ほとんどが私の息子や娘の世代だ。
雨天のせいで、今日のロケは延期になった。
それが私はとてもありがたい。2日続きでは体力が持たなかったかもしれないから。
てなわけで、今日は「気ぬけごはん」の原稿書き。
それにしても筋肉痛で、足のつけ根から太股、スネにかけてパンパンに張っている。足の裏にはマメもできている。
自分の足ではないみたい。
モニターがあるテントまでの距離がけっこうあり、そこをいったりきたり、ときには走ったりして、かなりの運動をしたんだと思う。
本番直前にサッと身をひるがえして小さく屈んだり、変な格好をしたまま固まって、音をたてないようじっとしたりして。
ふだん運動してない証拠だな。
あとでほぐしの運動もかね、散歩に行ってこよう。
行ってきました。
中央公園の原っぱは芝生がまだ短くて、一面の草色に白いクローバーの花がちらちらしていた。
人もほとんどいなくて、お父さんと小さな男の子が追いかけっこをしていた。なんか、童話の世界。
夜ごはんは、カレーライス(キムタクが宣伝してるジャワカレーがめちゃ辛いので、ハウスバーモントカレーを加えた)、白菜とにんにんのコールスロー、ルッコラ。
遠くから盆踊りの太鼓の音が風にのって聞こえてくる。
そうか。もう、そういう季節なのだな。

●2014年7月18日(金)曇り

ゆうべはわりによく眠れた。
5時半に起きる。
私たちフードチームは今日が初日だ。
何度も試作をして新しい鍋やフライパンに体を慣らしたり、現場の流れや雰囲気をシミュレーションしたり。
これ以上準備することはもう何もないのだから、あとは心を落ち着けて、たんたんと臨めたらヨシ。
先おとついは、現場となるロケ地の家の仕込みだった。
大道具さんたちに混じって、しおりちゃんとふたり消えもの用のキッチンを設営した。
母屋の台所の勝手口から、3歩ほどのところにある離れのお風呂場を利用して。
まずはスス払いの掃除から。
風呂桶を床下収納のようにして、ベニア板でふたをし、その上に電子レンジやら台所用具、調味料なんかを並べた。
ガス屋さんがきてコンロも設置してくれた。
足りない分はカセットコンロがいくらでもある。クーラーボックスも制作部の男の子が用意してくださった。
窓を開ければ緑が見え、風通しもいい。
なんだか『ホノカアボーイ』のハワイ島での日々を思い出すなあ。
あのときのさまざまな反省(あまりに楽しくて気持ちが盛り上がり、まわりが見えなくなった)を胸に、私はがんばるべ。
心を下に置いて、見えない人になること。
よけいなことはできるだけ言わないこと。
何か気づいていいアイデアが頭をよぎっても、言うタイミングをじっと計り、あとで伝えること。
現場でいちばんドキドキしているのは、役者さんなのだから。
そして監督、助監督、プロデューサー、そのほか大勢のスタッフたちなのだから。
料理などドラマ全体からしたら、ほんの小さな一部なのだから。
さーて、どうなることやら。
あとは野となれ山となれだ。
お手伝いのマキちゃんが8時15分に来たら、荷物を分担してバスと電車を乗り継ぎ、出掛けます。
では、がんばってきまーす。

●2014年7月13日(日)薄曇り

今朝は7時に起きた。きのうは5時半に起き(地震の警戒警報で目が覚めてしまったのです)たし、その前は6時だったかな。
このところ6時半には起きるようになってしまった私。
何もかも、ドラマのためです(ロケ本番は朝早くに集るので、体を慣らしておこうと思って)。
この1週間は試作をしながら写真を撮ったり、パソコンでそれを送ったりと、やりなれないことばかりしていた。
きのうは息をつめて動画まで撮り、クラクラしてきた。
慣れないことに集中すると頭が痛くなってくるので、ベランダに立って木を眺めたり、ハルの背中を眺めたり。
そうそう、おとついだったか、夕飯の支度をしながらベランダに出たら、虹の柱がおっ立っていた。
くっきりと、ずいぶん長いこと消えなかった。
川原さんも見てるだろうな… と思いながら、でもずいぶんたってから念のため知らせようとメールをしたのだけど、その10秒後くらいに消えてしまった。
残念!見られなかったみたい。(川原さんは4階の屋上にまで上ってみたんだそう)。
ロケ現場には消えもの(食べものことをそう呼ぶ。お腹に入って消えてしまうものだからかな)用の小さな台所を作ることになり、設備を整えるために100円ショップにも行った。
何でも揃っていて、すごく便利で驚いた。
3才くらいの女の子とお母さんが買い物にきていて、女の子はレジの机にひじをつき、カゴから袋に移動する食べものを夢みるように見ていた。
小さな女の子にとっては、安ものとか高級品とか関係がないから、色とりどりのお菓子やプラスチックの料理道具がずらりと並んでいる100円ショップは、遊園地みたいにカラフルで楽しい場所なんだろうな。
私もきっとこの子みたいにしただろうな… と思いながら眺めていた。
さて、おとついくらいからようやく心が落ち着いてきたので、「気ぬけごはん」を書きはじめたところ。
しめ切りはまだ先だけど、早めにとりかかっておこうと思って。
今日はリハーサルで、これからスタジオに出掛ける予定。
テレビの人たちは、日曜日も関係なく働いているのだな。すごいなあ。
さーて、どうなることやら。
夜ごはんは、スイセイと近所の焼き鳥屋さんで。冷やしトマト、牛すじ煮、焼き鳥(砂肝、もも、つくね、豚トロ)、焼きおにぎり、ビールア(スイ)、グレープフルーツ割り(私)。

●2014年7月2日(水)晴れ

このところ、夏のような天気が続いている。
洗濯物もパリッパリに乾いて気持ちがいい。
きのうは、川原さんがムーミンのDVD(ためておいたものを録画してくれた)を届けにきてくれた。
ハワイの地ビールがあったので1杯ずつ飲み、洗濯物をたたんでから、散歩がてら3人で近所の焼肉屋さんへ行った。
スイセイは今日がほんとの誕生日だけど、ひと足早い還暦のお祝いだ。
焼肉屋さんなんてひさしぶりだったけど、この店のことはもう何年も前から散歩のときに気にかけていて、いつかスイセイと食べに入りたいと思っていた。
ビールやマッコリを飲みのみ、肉を焼いては頬張った。
いちどに焼かず、食べたい分だけそれぞれがゆっくり焼くのもよかった。
肉を食べると溌溂とした感じになるのか、スイセイと川原さんの張り切った声がトイレの方まで聞こえていた。
たぶん、いちばん肉を食べたのは私だ。
なんだかやたらに楽しくて。
川原さんは、また静岡に行ってきた(こんどはお母さんの運転で)そうで、自然と子どものころの話となり、スイセイの子ども時代の話にもなった。
ふたりが育った境遇は違えど、じつは似ているところもあることが発覚したりして、盛り上がった。
それはふたりともが、自分ひとりでもたいして淋しくなく生きていけるというところ。
私は双子だからか、いつも誰かがそばにいないと心もとないし、肉体的にも足りないような感じだ。
こんなに長いつき合いなのに、知らないところがたくさんあって、なんだかとてもおもしろかった。
真っ暗な中央公園の原っぱを突っ切って帰ってきたのも、楽しかったな。
私は夜空に向かって、「ほんとうは、ドラマの料理をやりたいんだよー!」と叫んだ。
じつは今、その仕事がやれるかどうか瀬戸際なのです。
自分の体力にも自身がないし、私はフードコーディネータではないので、スタッフのみなさんに迷惑をかけないだろうかと自主規制の気持ちが揺れている。
でも、ほんとうはやりたいんだと、小学生みたいに願っている自分。
そんなわけで、今朝は8時半に起きた。
布団を干すときに、大家さんのどんぐりの木の中からくぐもった鳥の声が聞こえた。
鳥の巣の跡があったとこらへんを、体を斜めにしたりしながら覗いていたら、茂みの中に鳩が2羽見えた。
お互いの嘴のあたりをつついたりしてじゃれ合っている。
はじめは夫婦なのかと思ってじっと観察していたのだけど、卵らしいものは見えない。
そのうち、少しずつ枝の方に移動して現われた体は、川原さんちで見た若い鳩ぐらいの大きさだった。
そして2羽は、飛んでいった。
えー、ここで生まれた鳩だったの? 
今日が巣立ちだったのか?
何で私は今まで気づかなかったんだろう。
今朝、ハルが歌うような声で盛んに鳴いていたのも、この鳩たちのせいだったのかも。
夜ごはんは、きのこのクリームスパゲティー(しめじ、マッシュルーム)、サラダ(白菜、にんじん、レタス)。
翌日の3日にロケ現場に行き、家を見て、スタッフのみなさんにもはじめてお会いし(監督にはすでにお会いしていた)、心が決まった。
ドラマの料理をやることになりました。
きっと、ものすごくたいへんだろうし、興奮してあまり眠れない日が続いているけれど、私はがんばろうと思う。
しおりちゃんも手伝ってくれる。
想いをお腹の底に下げ、低空飛行でがんばろう。
捧げるような気持ちで。
これは、本作りのときも同じだから、やったことのある心の持ち方だから、きっとだいじょうぶ。
(時期がきたら、どなたの脚本の何のドラマなのか「日々ごはん」でお知らせします)

●2014年6月22日(日)雨のち曇り

きのうは日記を書いてすぐ、撮影のための買い物に出かけ、帰りにまた川原さんの家へ寄って、それからずっと一緒に過ごした。
おとつい川原さんは、ふと思いついて静岡へ行ってきたそうだ。
40年前の記憶を頼りに、通っていた小学校の辺りを歩いたり、住んでいた家の跡地や(塀が残っていたそう)、習字を習っていたお寺へ行ってみたり。
歩いているうちにどんどん細かな記憶が蘇ってきて、不思議な気持ちになったそう。
そのころの記憶の中を旅しているような……そんな話を聞きながら、お茶を飲んだり、5年くらい前に漬けたグレープフルーツのお酒を飲んだり。
巣立ったばかりの鳩のヒナが、向かいの屋根にいるのも見た。
5時近くまでいて、ふたりして自転車でうちに戻って、中央公園へ散歩にゆき、原っぱでお喋りして、いつも通っている整体院の近くにあるベトナム料理屋さんまで自転車をかっ飛ばした。
その間、なんだかずっとふたりで旅をしているみたいだった。
私たちは、ロシアでもウズベキスタンでもそんなふうに気ままにあちこち歩いたり、夕方になるとごはんを食べにいったりしていたから。
その店はベトナム人のお兄さんふたりがやっていて、お客さんは私たちのほかに一組しかいなかった。
お兄さんたちは日本があまり分からないようだったけど、ふたりとも笑顔が初々しくて、店の雰囲気も、味も、本場のベトナムにいるみたいだった。
私は333ビール、川原さんはちぎったミントがたっぷり入ったモヒート。鶏手羽を焼いたの(下にサニーレタス、にんじん、玉ねぎがしかれ、甘酸っぱタレがちょっとかかっていた)、生のもやしとにんじんとニラのサラダ、香ばしく炒めたひき肉がのったご飯(にんにくの茎、玉ねぎ、ピーマン、ミニトマト、ミント)。
どれも本当においしく、大満足で帰ってきた。
楽しかったなー。
さて今日は、きのうできなかった台所の掃除と包丁研ぎをして、仕入れもしたら、ゆっくり過ごそう。
ずっととりかかれなかった『Zの本』の原稿も、はじめから読み返そう。
『まる子』と『サザエさん』も見よう。
夜ごはんは、ベトナム風の炒めご飯にする予定。

●2014年6月21日(土)ぼんやりした晴れ

朝ごはんのとき、部屋の温度計が28度を超えていた。
ここ最近の朝の気温では、いちばん高い。
明け方はとても涼しくて、肌寒いくらいなのだけど、太陽が昇ると同時にうわーんと暑くなるのが、今朝はとくによく分かった。
なぜかというと、6時前に起きてしまったから。
なんだか寝ていられない気持ちで目覚め、青汁を飲みながら窓辺に新聞を広げ、すみずみまで読んでいた。
先週もまた、日記が書けずにごめんなさい。
仙台から帰ってからは、「はなべろ読書記」の本のための校正に集中したり、来週の撮影の仕入れをそろそろとやったり。
夕方になると、郵便局やちょっと遠くにある宅配便センターまで散歩して、りうと、山梨でお世話になったセルフビルドの彼のところに荷物を送り出した。
♪月曜日に市場へ出かけーー というロシア民謡みたいに、一日にひとつずつ用事をしては、ごはんを作って、こつこつと静かに暮らしていた。
買い物帰りに川原さんちに寄って、鳩のヒナ(ベランダのすのこの下に巣があった)をこっそり見せてもらい、おいしい梅ジュースをごちそうになったりもした。
スイセイは事務仕事でまだ忙しくしているので、あまり相手にしてもらえない。
仙台のトークイベントは、とても楽しかった。
丹治くんの顔を見ながら話していたら、出会ったころのことや、アノニマスタジオがまだ青山にあったころのこと、『日々ごはん』を一緒に作っていたころのことなど、ふわーっと思い出した。
お喋りしている内容とは違うのだけど、始終体のまわりに懐かしい景色が漂っているのを感じていた。
立花くんのショートムービーは、今まででいちばん大きく(12畳分くらい)映し出され、目にも耳にも大迫力のものだった。
でっかい肉の塊がジュージューと炙られ、バターがあぶくを出して溶け出し、夏みかんの皮が透明な池で花びらのように踊る。
鍋の中で、脂が浮いた茶色い煮汁が煮え立っている(たぶんとりそぼろを作っている)様子を見ていたら、一瞬だけ津波の映像と重なった。
トークの前に、私は熊谷さんとふたりで名取に行った。
震災があった年の夏、スイセイとジープでまわったとき、降り立ったのと同じ地面。
前には、新グロモントの瓶と花束が供えてあった、土台だけ残っている家の跡の角で目をつぶり、手を合わせた。
とても静かで、鳥の声だけがやけに透き通って聞こえていた。
タクシーの運転手さんは、何も言わずに車を停めて待っていてくださった。
東京に帰ったその日の夜は、よく眠れなかった。
自分がここにいるかどうか確かめるために、隣で寝ているスイセイの寝息にすがりつくようにして、朝になった。
ぶじトークを終え、サイン会をし、仙台駅でおいしいお寿司を食べて、夜の新幹線で帰ってきたのだけれど、私はやっぱりたいへんな場所に立ってしまったのだと、布団の中でようやく気がついた。
道路っ端にひっくり返っていた船も、ガランゴロンと転がっていた根こそぎの大木も、恐竜の屍骸を集めたようなガレキの山も、ごっそりとえぐられた家々も、おびただしい数のひしゃげた車も、すっかり片づいていたけれど、私の目の中では夏に見た景色が二重になっていた。
実際に橋の欄干はまだひん曲がったままだったし、潮をかぶった松の木もてっぺんを切られ、弱々しく斜めになって立っていた。
名取のその場所は、自分にとって聖地のようなものかもしれないと布団の中で気がついた。
私はそこへ、お参りにゆきたかったんだ。
トークが終ってからのサイン会もまた、とてもありがたかった。
並んでくださった仙台のファンの方々は、みな熱烈だった。
「ずっと、会いたかったんです」と、言葉ではそれだけなのに、ほんとうの気持ちが体からはみ出して、みるみる顔が赤らみ、SF映画みたいに顔つきが変っていった。
サインをしながら、思わず涙がぽとりと落ちてしまい、私はとてもはずかしかった。
なんだか、仙台であったすべてのことに感謝をしたい気持ちで、吉祥寺に帰ってきた。
ああやっと、あの日のことが書けました。
長々と読んでくださり、ありがとうございます。
さて、今日は何をしよう。
来週の月曜はひさしぶりの撮影なので、台所を掃除して、包丁も研いでおこう。

●2014年6月8日(日)雨

山での盛大な洗濯物が乾いたころ、東京が梅雨入りした。
このごろは毎日、ちょこまかと部屋干しだ。
桑の若葉も部屋干し中。
帰ったばかりはカンカン照りの真夏日だったのに、きのうは寒くて電気ストーブを出した。
収穫した梅の実は、梅酒、梅シロップ、しょうゆ漬け。
残りの1キロは黄色くなりかかるまで待って、きのう塩漬けにした。
鳥や虫がつついたあとのあるキズ梅だけど、何ごとも実験。梅酢が早く上がりやすいよう、「きょうの料理」に出ていたおばちゃんの梅漬けを参考にビニール袋でやっている。
今朝見たら、塩はもうほとんど溶け、うっすらと梅酢におおわれていた。どうだろう。うまくいくといいな。
廊下に出てきたスイセイに見せると、「ほうよ、うちの状況に合わせた実験をすればええんよ」。ちょっとほめられたような気がする。
そうそう、帰ったら大家さんの杏の実がすっかり色づいていた。
食べられずに落ちるのが不憫なので、階段近くのものはできるだけ収穫し、打ち合わせでいらした編集者にあげたり、リーダーにあげたり、杏シロップも大鍋で作った。
さて、今日から「はなべろ読書記」を書きはじめよう。
夜ごはんは、トマトソースの残りがあるので、ホワイトソースを作ってペンネとほうれん草を合わせ、グラタンにする予定。あとはサラダ(にんじん、きゅうり)。
ここでお知らせです。
来週の日曜日(15日)は、「せんだいメディアテーク」というところでトークをします。お相手は『日々ごはん』や『高山なおみの料理』など、たくさんの本を一緒に作ってきた丹治史彦さん。
主に『料理=高山なおみ』についての話をします。立花くんが作ったショートムービーも上映します。よろしかったらおいでください。

●2014年6月2日(月)ぼんやり晴れ

きのうは、午後2時半くらいに帰ってきた。
「あーー、おもしろかった」という気持ちで。
セルフビルドの彼のことを、会うまではヒゲモジャの熊のようなおじさんだと想像していたのだけど……、そんなことはまったくなく、身体能力が卓越した少年のような人だった。
もう30年近く前になるが、ペルーのマチュピチュの遺跡からバスでくねくねと下りていたとき、雄叫びを上げながら山の斜面(道がないところ)を掛け下りていった物売りの少年がいた。
浅黒い肌にはにかんだ目つきの、その目玉が、野生動物みたいにぎらぎらと光っていた少年。笑うと口元から小さな歯がこぼれていた。
そんな人だったので、スイセイも私もいっぺんで大好きになり、泊めてもらった。
家も、工房も、ベランダから望む景観も、ひとつの何かの夢が目の前にバーンと表れたみたいな素晴らしさだった。
何よりも感動したのは、こんなにすごいことをしているのに、本人がちっともいばっていないこと。
ああ、今は言葉にするのがもどかしい。
そんなわけで、きのうは帰ってからスイセイとまず昼寝した。
すっかり元気になった私たちは、夕暮れの時分からまたちびちびと気の抜けたビールとウイスキーの紅茶割りなど飲みながら、思い出をつまみにいつまでも語り合った。
胸もお腹もいっぱいだったので、つまみはぼちぼち作ってはつまむくらいでちょうどよかった。
何を作ったのだっけ。フキの煮たの、きゅうり&塩、きのこ(毎茸&しめじ)のバター炒め、茄子ステーキ(フキの煮汁を仕上げにまわした)。
気づけば11時過ぎで、着替えもせずにそのまま寝た。
そうそう、道路のこともおもしろかった。
その時のメモがあるので、ここに書いておこう。
行きの中部横断自動車道でのこと。
「ジープの窓は腰の高さぐらいまで開いているので(シートが高い位置にある)、窓から落っこちそうになる。今は田植えの時期なのかな。スイセイはここを通るのが2度目なので、ちょっとスピードを出している。私もきのうよりは落ち着いて下の景色が見られる。ぶどう畑、何かの果樹園(あとでさくらんぼの果樹園だと分かった)。山の隙間から雪山のてっぺんが覗いている。あれはアルプス? 少し走ると、雪山はふたつになった。「みいよう右を見て」とスイセイに言われて見ると、富士山がぬっと頭を出していた。富士山って顔が大きい人みたい」
今朝は6時半に起きた。
みの虫ミルクティーで、山の見納め。ラジオからはバッハの『フランス組曲』が流れている。
太陽がずいぶん上った7時少し前に、スイセイも起き出してきた。
ラジオの天気予報によると、きのうは勝沼が35度の真夏日だったそう。
今日は晴れるけど湿気があるそう。夕方から雲が出てくるらしい。明日はきっと雨だ。
私たちは今日東京に帰るのだけど、梅雨前の夏休みみたいな4日間を過ごすことができて、本当にラッキーだった。
かけがえのない友だちもできた。
彼の家まではここから車で1時間ほどだから、これから何度も会えるだろう。この家を壊したり、建て直したりするときには、いろいろなことを教わるだろう。
朝ごはんは、きのこバター炒め、じゃがいもポタージュ(途中から私はきのこ炒めを加えてみた。うまい!)、トースト。
これで食材もすべて食べ切った(茄子2本は持って帰る)。
さて、そろそろツナギに着替えて青梅を収穫してこよう(梅酒にするつもり)
それが終ったら部屋を片づけて、山の家じまいの掃除。たくさんの実りある出会いに感謝しながらやろうと思う。
これで山日記はお終い。パソコンもしまいます。
そうそう、最後に忘れないようここに書いておこう。
野良作業のことを、今朝スイセイは「野のしごと」と言った。

山の家日記、ここまで長々と読んでくださって、ありがとうございました。

●2014年6月1日(日)快晴

6時半に起きた。スイセイはまだ寝ている。
太陽が眩しいので、サングラスをして窓辺でシュラフみの虫ミルクティーをした。
逆光のせいで、電線にとまっている鳥が真っ黒く見える。
さえずりの合間に嘴がパカッと開いて、タカタカタカと何かを叩くような声を出す。
スズメよりもスマートで、羽は体と同じくらいの長さ(ツバメみたいなシルエット)がある。何の鳥だろう。
きのうよりうんと晴れている。今日もまた、暑くなりそうだなあ。
きのうはとても楽しかった。
まず、いちご牛乳は思っていた通りヨーグルトのようになっていた。小さな種がプチプチしてとてもおいしかった。
津金学校も、集落も、ものすごくいいところだった。
すみれちゃんも、すみれちゃんの展示も、津金学校のカフェも、カフェで働いている人たちも、校長先生みたいな館長さんも、ひとり残らずよかった。
すべてがきよらかだった。
集落をしばらく散歩した。川原さんが言っていたように、田んぼに緑の山が映っていた。その脇の用水路を、きれいな水が勢いよく流れていた。
風通しのいい廊下に座って、すみれちゃんとふたりで話したのもよかった。
すみれちゃんは、いきなり本題に入る話し方だから、私も挨拶みたいな、フリルみたいな話をしなくてもよくて、本当にすみれちゃんと話したいことだけを喋れるのがよかった。
話が途切ると、開け放した玄関からすーーっと風が通って、緑がそよいでいるのが見えた。
津金学校は古くて頑丈な建物。人の手で毎日掃除され磨かれているから、トイレも、廊下も、窓の近くの角までいきいきとしていた。おばあちゃんの肌みたいにツヤツヤしていた。
カフェもそう。そこにいると時間を忘れる。窓辺で本を読んだり、ぼーっとしながらいつまででもいられる。
雨の日も、きっとここはいいだろうな。
カフェのお昼ごはんも、いい匂いがして、とってもおいしかった。
私はじゃがいもと豆のコロッケ、スイセイは豚肉と梅のロールフライを食べた。
真ん丸なコロッケは、まわりがかたくパンッと張っているのに、箸で割るとパカッ、ホワッと、湯気と共に中身が表れる。熱々で、ほくほくで、やわらかくて、分からないくらいにクミンシードが香っていて、たまらないおいしさだった。
添えられた野菜もぜんぶ違う味がして、それぞれがみなみずみずしくて本当においしかった。
ほどよい大きさの平たい木のお皿に、ふんわりした七分づきのご飯とおかずが盛り合わせてあった。量も、味も、匂いも何もかもがちょうどよかった。
出てくるのに少し時間がかかるのも、とてもいいと思った。
そこにいると、待っている時間もごちそうになっていたから。
帰りは、下の方の道を通ったら、そこがまた素晴らしかった。緑の山に囲まれた見渡す限りの水田に、西陽が当たっていた。
 山の家からは高速を通ってちょうど1時間だった。また行きたいなあ。
そうそう私は、カフェで草花のスケッチの古本を買った。
春から夏へ、秋から冬へ。同じ草が季節によって移り変わる様子も見られるようになっている。岸田衿子さんの小さい文もとてもいい。
これで、山の家に生えている草の名前がちゃんと分かるようになるかもしれない。「幸うす草」なんて呼んでいたらかわいそうだもの。
私は朝ごはんをひとりで食べ、こうして日記を書いている。
スイセイはまだ寝ている。
きのうは初めての道だったから、車の運転でくたびれたのだろう。
とくに中部横断自動車道は、景色はすんばらしいのだけど、高いところ(空に近い)を走っているので、道路から落っこちそうで私だっておっかなかった。
さて、8時だ。そろそろツナギに着替えてひと作業をしよう。
今日もまた、12時半くらいに出掛ける予定。
韮崎の山の中で、彼女と猫と暮らしているしみずたの友だちのセルフビルドのお宅へ見学にゆく。
もしかしたら泊まることになるかもしれないので、着替えや夏用シュラフ、お風呂セットも持ってゆく。
またきのうの高速を通るの、気の毒だな。
「初めての道は、やっぱりドキドキするのう」と言っていたから。
庭に出てみるも、毛虫があまりに多いので、草抜きはあきらめる。
首にタオルを巻いて重装備態勢で、まずいちごを摘んだ。きのうみたいにつぶし、お土産に持っていこうと思って。
 花壇の中の若い枝が伸びないように切っておく。台所裏の薮がらしも根もとから切った。あとはもう、何もやらない。
今日はきのうよりさらに蛾が多い。大量発生というくらいに多い。
私の首がかぶれているのは、やっぱり毛虫なのかな。
いちばん疑わしいのは、ハッカ油を首に塗って、炎天下で草取りをしたせいかもしれない。
そのハッカ油は5年前くらいに北海道で買ったものだから、古くなっていたのかも。きのうよりさらにひどく、全体的に紅くなっている。
玄関まわりの塀からはみ出している桑の小枝を切っていたら、下の方で奥さん二人が話しているのが風にのって聞こえてきた。
毛虫の話をしているようなので、私は枝を切っているふりをしながら、耳を澄ます。
「幼虫のときに汚いのが蝶になって、きれいなのが蛾になるっていうよね」
やっぱりあの毛虫は、きれいな蝶になるのだ。
スイセイはジープのふたを開けてバッテリーを交換中。とりこんでいるところなので、あとで教えてやろう。
今、11時を過ぎたところだが、ちょっと早めに出てどこかでお昼ごはんを食べることにする。
では、行ってきまする。

●2014年5月31日(土)晴れ

6時半に起きる。スイセイはとっくに起きて作業をしている。
ゆうべは少しだけ肌寒かったので、ウールのマットをシーツでくるんでかけ布団にした。明け方は、さらに夏用シュラフ(置きっぱなしにしておいた)を上からかけた。
寝床を片づけていたら戻ってきた。お湯を沸かし、スイセイはカップスープ(じゃがいも)、私はミルクティーをいれる。
遠くの山は霧がかかっている。太陽は今、どのあたりにあるんだろう。
今朝の山は逆光のせいで、頂上の木の葉の輪郭が細かなところまで透けてレース編みのようになっている。それがとてもきれい。
くたびれて昼寝をしているスイセイの顔は陽焼けしている。
さて、私は何をしよう。
朝ごはんのみそ汁用にフキをゆでておこうかな。
朝ごはんは、スーパーのミニ鮭弁当(スイ)、野沢菜のおにぎり(私)、野ブキと豆腐のみそ汁、きゅうり&ラディッシュ(ゆうべの残りを塩もみしておいた)。
今日は、11時ごろに出発して津金学校というところへ行く。
「すみれ洋裁店」のすみれちゃんの展示を見にゆく。
出掛ける前に、私は庭の草抜きの続きをやろう。
スイセイは津金学校の池上さんのお土産に、ヒミツの白い花を根っこごと抜いている。
ほよほよと生えている草(たぶんオヒシバ)も、若いドクダミも、短い草も何でも引っこ抜く。「幸うす草」は、根っこごとあっけなく抜ける、なかなかいいやつだった。
それにしても毛虫がびっくりするほど多い。茶色と黄色と黒の縞模様で、太いのや細いのやらが木にびっしりと張りついている。
「みいよう、そっくりな模様の蛾もよく飛んどるから、その幼虫がこの毛虫かもしれん」
そうだろうか。これからさなぎになったら、その中で色が変わって、違う模様の蛾になるかもしれないと私は思うが、黙っている。
日陰には毛虫が多くいる。毛虫との戦いだ。見るだけで痒くなる。
きのうから首すじが痒いのは、毛虫にかぶれたんだろうか。
10時半までやって、出掛ける支度。
では、いってきまーす。
いちごをつぶしたのに、ほんの少しのグラニューと牛乳を混ぜたのをカップに作り、冷蔵庫で冷やして持ってゆく。ジープの中で食べようと思って。

●2014年5月30日(金)晴れ

6時半に起きた。今日は山の家に行く。
朝ごはんは鮭と青じそのおにぎり(ゆうべのうちに作っておいた)と麦茶。
スイセイがジープの屋根に荷物(つい立てみたいな物、拾ったらしい)をくくりつけるのにたっぷりと時間をかけ、9時半に出発。
夏のような天気。ジープの中は暑いけど、走り出したら涼しい風。梅雨前の貴重な晴れの日だ。
高速はとてもすいている。
高尾辺りを走っているとき、「山が緑一色になったのう」とスイセイが言った。
私もちょうどそう思っていたところだった。
前に来たとき(4月の末)には黄緑や緑、茶色、薄いピンクのパッチワークだった。
今日は緑の葉の一枚一枚までやけにくっきりと見える。私は目がよくなったんだろうか。
12時に物産所に着いた。
みそ、こだわり卵、食パン、ソーセージ入りの白パン(天然酵母だそう)、スナップえんどう、きゅうり、ラディッシュを買う。
お昼ごはんは、もろこしスイトン&鮭のおにぎり(私)、もろこしおざら(スイ)。
ソフトクリームをなめながら出発。
ここらは、こんなあちこちにとうもろこし畑があったっけ。とうもろこしはもう食べられそうなくらいに太っている。
2軒あるホームセンターをはしご。スイセイは夏用の地下足袋を捜しているらしい。私はシュラフを持ってくるのを忘れたので、なんとなしに見回るが、買わない。
ホームセンターにはお客がほとんどいなかった。
道路にも車はなく、人も歩いていない。土手の草がそよいでいる。
ここは本当にのどかなところだな。景色を眺めているだけで眠たくなって、頭がバカになる。そのことを、ここに来るまでいつも忘れている。
スーパーに寄って、2時ごろに山の家に着いた。
台所の裏庭は、スギナがフサフサと気持ちよさそうに生えている。前回あんなに取ったのに。でも、真上から見てみたら、地面にずいぶん隙間があった。
桑の葉もずいぶんフサフサ。畑の方もすっかり草だらけ。見たことのない草もある(紫と茶が混ざったようなギザギザした弱っちい葉なのだけど、上の方が枝分かれして、トゲのある小さい実がたくさんついている。茎も細く貧弱そうに見えるけど、靴下にしつこくからまりつく。なんか、嫉妬深く幸薄い感じの草。私はこの草が嫌い)。
その「幸うす草」の下で、いちごがたわわに実っていた。
畑の方は花畑。薄いピンクのケシのようなのや、紫の菖蒲、マーガレット、何だか分からない赤紫の花(葉は菖蒲に似ている)。ドクダミはあまり出ていない。
もしかすると肌寒いかもしれないと思っていたのだけど、そんなことはない。ツナギの上を脱いで両袖を腰でしばり、ランニングになって掃除する。
床はずいぶんきれいなまま。掃除機をかけなくてもだいじょうぶだし、雑巾もそれほど汚れない。
土蔵側から庭の草抜きをやる。
前回、もしかしたら花壇のまわりに生える観賞用の草かもしれないと思って残しておいたのは、やはり雑草だった(30センチほどの丈で小さな穂が出ている)。なかなかに根が張っているので、バッコンする。
ドクダミはまだこれからなのだな(蕾のところがあった)。カラスムギや短い草(たぶんメヒシバ)も抜いておく。
地面の隙間が多いので、ちょっとやるだけですぐにきれいになる。
あっという間に陽が傾きかけしまう。
山の景色を味わいたいような……、でもまだ草を抜きたいし、いちごも摘んでやらないとかわいそう。
気が散って腰が落ち着かず、土蔵側の半分までやって、今日の作業は終わりとする。
5時。
いちごを摘んだ。うーん、おいしい。野性的な甘みと酸っぱみだ。
風呂場で行水して着替え、缶ビールを片手に畑の上から山を眺める。スイセイのツルハシ作業を眺めながら。
なかなか陽が暮れない。6時を過ぎてもまだまだ明るい。
ここからの眺めは絶景だと思う。
スイセイは暗くなるまでまだひと仕事したいのだそう。
私は裏庭の野ブキを摘んで、煮る。
フキはまだ若いので、さっとゆでこぼして、水と醤油だけで煮た(味をみて、だしがいらないことがわかった)。
今日は焚き火はしないけど、外でビールを飲みたいとスイセイがいうので、フキの煮たのを鍋ごと出した。
7時になってもまだ暮れない。
私たちは、空が暗くなるまで外にいた。
裏山の上に一番星が出て、だんだんに明るく光り出し、山に隠れるまで。
星の位置が変るのは、空が動いているのではなく、地球が回っているということ。その動きは、あんがいと早い。
月見酒ならぬ、宇宙を眺めながらのビール。つまみのフキにはだし汁などいらない。
今日、山の家に来て思ったこと。
自然は、思い通りにはゆかない。思い通りにならないって、癒される。
夜ごはんは、ポテトサラダとゲソ揚げ(スーパーの)、ゆでスナップえんどう、きゅうり&ラディッシュ(みそ添え)、よもぎのお焼き。
よもぎのお焼きは「うかたま」の編集長の中田さんに教わった。
上の方のやわらかいよもぎを摘んで、ゆでて、硬くしぼったのを包丁で細かくたたきボウルに入れる。その上から強力粉と水を加えて混ぜ、フライパンで焼く。
中田さんに教わったのは厚焼きだけど、私は水が多めの生地にして薄めに焼いてみた。
白ごま油で焦げ目をつけて焼いて、仕上げにしょうゆをまわした。
それがものすごくおいしかった。野趣あふれるというのか、今しか味わえないというのか。春から夏にかけて、よもぎの成長に合わせて味が変る、とても風情のある味だ。
10時、歯磨きをしに外へ出る。
裏庭に立つと、みずみずしい緑のハーブのような、芳しい花のような匂いがむせかえっていた。スギナの匂いだろうか。
街灯などないからあたりは真っ暗。窓の灯りさえついていない。
庭に出ると、ジージーという虫の声しかしない。 10時半に寝る。

●2014年5月24日(土)晴れ、風強し

先おとついの7時くらいだったか(前の日記を書いた日だと思う)、空がすごいことになっていた。
暗いのに晴れている青空に、うず高く積み重なった入道雲が、純白のメレンゲみたいにくっきりとわき上がっていた。
北東の方角では、稲妻がトカゲの尻尾のようにチラッチラッと光る。
昼間、夕立ちがあったり急に晴れたりとめまぐるしい一日だったから、空がいきいきしていたんだろうか。
怖いくらいにきれいだったので、見るようにとしつこく薦めたのだけど、テレビを見ていたスイセイはまったく興味を示さず、あんまり誘うのでいやそうな顔をしていた。
最近気づいたこと。
いつも私は、お風呂から上がると寝室の電気を消し、寝る間際まで毎晩同じDVDを見る。
この間まで小津安二郎の『麦秋』だった。その前はフランスのアニメーション『イリュージョニスト』。そして、木皿さんの『しあわせのカタチ』。
最近はまっているのは、『やかまし村の子どもたち』だ。
おとつい、ふと思いついて日本語字幕を消してみた。
スウェーデン語の音質というか、音感というか、とくに子どもが話すカチャコチャした言葉の響きが好きでたまらないのだけど、字幕を消すとさらに細かいところまで聞こえ、体に入ってくることを発見したのだった。
しかも字幕に目を捕われていた分、今まで見落としていた画面のすみずみまで見渡すことができる。
ゆうべもそうやって見ていたら、9時半くらいにスイセイが布団に入ってきた。
「ほんとじゃのう、よう聞こえるのう」と、3分くらいいっしょに見てくれた。
今朝は、午前のうちにたまっていたメールの返事をお送りし、読売新聞の「空想書店」の記事に何を書こうか、ぼんやり考えている。
モスクワのワークショップのお話は、いろいろ考えた末、お断りすることに決めた。
ああ、眠たくなるほどのいいお天気だ。
夜ごはんは、塩鮭、肉じゃが(新じゃがいも、豚コマ、玉ねぎ、武雄市のトークの日にいただいたグリーンピース)、刺し身こんにゃくワカメ(しょうが醤油)、小松菜おひたし(カリカリじゃこのっけ)、白菜漬け、麩とねぎのみそ汁、白いご飯。
そういえば、お昼に作って食べた焼そばがとてもおいしかった。
武雄市図書館の向かいにあるスーパーで買った、「マルタイ焼そば ソース味」。おなじみマルタイラーメンの棒麺なのだけど、ゆでてから炒めてもけっこうコシがあり、スープも複雑な味がする。
おそるべしマルタイ。九州はいろいろな種類のマルタイがあってうらやましいな。

●2014年5月21日(水)雨のち曇り

静かな雨が降っている。
きのう、朝早くにラジオを聞いていたら、スウェーデン民謡が流れていた。
大好きな『やかまし村の子どもたち』の冒頭で、夏休み前の終業式の日に学校で歌っていた曲だった。
そのあとにも何曲かスウェーデン民謡が続いていたので、その歌のタイトルかどうかは分からないけれど、「馴染み深い豊かな緑」という曲名をアナウンサーが告げていた。
なんていいタイトルだろう。
しっとりと雨に濡れている今日の緑は、そんな色でもある。
私は晴れ渡った日の緑より、灰色に浮かび上がる緑の方が好きかもしれないな。
緑が目にしみる(まぶしいのではなく、目に染み込むと私は解釈している)とは、こういう緑のことをいうんだといつも思う。
ホームページを開いてくださった方、長いこと日記を休んでいてごめんなさい。
仕事が忙しかったわけでもないのだけれど、なんだかバタバタと慌ただしく、ずっと心が落ち着かなくて、ようやく今日あたりゆとりが出てきたのです。
「気ぬけごはん」の原稿はきのうお送りし、「ロシア日記」の著者校正もさっき終ったところ。
いろんなことがあった。
大好きな脚本家のドラマで、料理のお手伝いをすることが決まったり(まだ詳しくはお伝えできなくてごめんなさい)、モスクワでワークショップをするかもしれないことの打ち合わせをしたり。
急にメールがきて、郁子ちゃんと大きな樹のある広場でビールとカヴァを飲んで、そのままふたりでカラオケに行っちゃったり。
飛行機に乗って、佐賀県の武雄市というところへトークイベントに出掛けたり。
武雄市ではおいしいものをたくさんご馳走していただいたので、こんど、少しずつ日記に書いていこうと思います。
さて、今日は、のんびりと読書の日にしよう。
夜ごはんは、ごぼ天うどん(武雄市のスーパーで買ってきたごぼう入りさつま揚げ、ワカメ)の予定。

●2014年5月3日(日)晴れ

今朝もすがすがしい青空。
大家さんの庭のジャスミンが甘く香っている。
山の家での洗濯物も、今日ですべて洗い終った。
綿毛布やシーツなどの大物を、ベランダにめいっぱい干す。
どんぐりの花は、山から帰ってきた日にはすでに落ちてなくなっていた。
今年は金色の簪が見られなかったな。
やわらかかった若葉もずいぶんしっかりして、中学生くらいの硬さになっている。
今日は音がしない。ときおり自転車が通り過ぎるくらいで、人も歩いていない。車が走ってないのかも。
みんな、ゴールデンウィークでどこかに出掛けてしまったのだろうか。
おとついからとりかかりはじめた「ロシア日記」がいい調子なので、今日はパンを焼きながら続きを書こうと思う。
発酵日和なので。
今私は、川原さんと一緒にウズベキスタンのブハラという街にいる。
45度を超える土地なので、昼間はホテルで昼寝して、夕方になったら散歩に出る。
リヤビ・ハウズという、「不忍池」のような(百合子さんがそう書いていた)池の畔に腰掛け、アイスクリーム&ビール。
おかげでお腹をこわし、宿に缶詰めになったあたりを書いている。
気温は違えど、夕方の光の感じが今の季節に似ているような気がして、ベランダに出ては伸びをしながら書いていた。
さて、今日もまたウズベキスタンに行ってこよう。
さっき、息抜きに粉を練ったのを、クーラーの室外機の上にのせて発酵させているところ。
「ロシア日記」は5時半までやって一気に書き倒した。パンもうまく焼けた。
まだまだ荒削りの文なので、明日から推敲をする予定。
ひさしぶりに『まる子』と『サザエさん』だ。
夜ごはんは、ぶっかけ納豆うどん(ほうとうで)、水菜のおひたし、さつま揚げのフライパン焼き。

●2014年4月29日(火)曇りのち小雨

6時15分起床。
スイセイはとっくに起きて野良作業をしている。
スイセイがお腹を空かせていつ戻ってきてもいいように、サンドイッチ(ハム、カマンベール)を作ってホイルで包み、ストーブにのせておく。
私はシュラフみの虫でミルクティー。
朝は、緑がしたたるようないい匂いが濃くする。朝露に濡れ、どの緑もみずみずしい色をしている。
手前の山は緑のパッチワーク、いちばん奥の山は灰色に薄ぼけている。
太陽が丸く透けている。空は曇っていても緑は美しい。山は、毎朝違って見えるんだな。
鳥がピチュピチュ鳴いている。
ホーホケチェチェ ヘーチャチュチッチュと鳴いているのは、まだ上手にさえずることができないホトトギスだ。
手前の山には、ところどころに濃い緑の針葉樹らしき部分がある。杉の木のように見える。
家々が目に入らないようにして見れば、山も鳥の声も緑の匂いもロシアの田舎にそっくりだ。
バイカル湖畔の村、名前はなんてったっけ。
「から松林のあるところ」というロシア語がついていた(リストビアンカ村。東京に帰ってから思い出した)、そこにそっくり。
うちは、あの村にあったような頑丈な木造の家を建ててもらいたい。
今、スイセイが戻ってきた。サンドイッチをもくもくと食べている。
くたびれたので、ちょっとうたた寝するのだそう。
今日は東京に帰るので、日記を書いたら私は部屋を掃除しよう。
出発の前に、草マルチ(抜いた草を地面にかぶせる。こうしておくと新しい草がはえにくい)をしようと思う。
小雨が降り出した。
帰り際、お墓に挨拶をする。
小梅の実を摘んだり、干しておいたヨモギを紙袋に詰めたりしていてすっかり遅くなり、12時近くに出発する。
今日は連休のいち日目だから、道路が混んでないといいのだけれど(すいていました)。

●2014年4月28日(月)曇り

ゆうべはとても寒かった。
寝はじめのころ、暑いような気がしてくつ下をぬいだり、パジャマの下のスパッツを脱いだりしたから、しんしんと冷えた。
「夜暖かいと、朝冷える」とは、組合長さんから前に教わったこと。山の陽気の特徴なのだ。
それで、明け方にくつ下をはき、シュラフを袋状にしてみた。
はじめてそうしてみたのだけど、ものすごく快適だった。なんて暖かい安心に囲まれるのだろう。青いみの虫だ。
このシュラフはもう20年近く使っていて、中の羽毛もずいぶんペタンコになったから、新しく買い替えようと思っていたのだけど。でもこれは、とってもいいものだ。ファスナーも頑丈だし。大切にしよう。
今朝は、7時になっても外が明るくならない。曇りなのだ。
窓を開け、青いシュラフみの虫をしながらミルクティー。
朝飯前の草抜きをし、8時半に朝ごはん。
朝ごはんは、カツサンド(きのうコンビニで買ったもの。アルミホイルに包んでストーブにのせておいた)、サラダ(きゅうり、ラディッシュ、トマト)、ミルクティー(私)、紅茶(スイ)。
山を見ながら一服しているスイセイに、きのうの夕方の山のことを話してきかす。
「今まで私は夕焼けが見られない(西側はすぐ裏に山があるから、まだ陽のあるうちに隠れてしまう)のをちょっとがっかりしてたんだけど、あの山に夕焼けが反射して茜色になるんだよ。はじめて見た。近くの山からピンクになって、それがだんだん奥に移っていくの。太陽が沈むのはそりゃあすごいけど、直接の夕焼けよりも、こっちの方がうーんといいかも」
今日は、台所の裏庭の草抜きをする予定。
スギナ、カラスノエンドウ、タンポポ。
ススキの赤ちゃんはまったくというほどないので、もうバッコンは使っていない。おばあちゃんのカマと、潮干狩りで砂を掘るのに使うような小さなクマデだけで、カラスノエンドウなんかの根っこが掘れる。
昼ごはんは、土蔵前が薄暗いので、いつもの場所にお膳を出して食べる。
カレーライス(土鍋ご飯)、ゆで卵。
食べていたら、組合長のUさんがほうれん草のゆでたのを持ってきてくださった。
「あっちもこっちも、きれいになりましたねえ。いいですねえ」
ほうれん草は花が咲いていたり、茎が太かったりするのを、緑鮮やかにやわらかくゆがいてあった。とてもおいしかった。
午後になったら、雲の間から青空が見えてきた。
また台所裏の続きをやる。
はじめは西を向いて作業をしていたのだけど、せっかく山が見えるので、反対側の端から攻めていくことにする。
コツコツと草を抜いて、ふと頭を上げると山がある。
ピーカンの青空ではないけれど、いちばん遠くの山肌まで見える。
野ぶきの茎はまだ細くて食べられないので、小さな葉だけをちょっと摘む。ためしにふきみそを作ろうと思って。
5時過ぎまでがんばって、ぜんぶ終った。
お湯を沸かして行水し、着替えて準備したのだけれど、今日は山は染まらないみたい。曇っているから夕陽も控えめなんだろう。
缶ビールを片手に、スイセイとお互いの作業を見てまわる。
私はくたびれすぎて、あとの日記が書けないです。
夜ごはんは、もつ煮込み(豆腐としいたけを加えた。汁を雑炊用にとっておき、具だけをすくって食べた)、ふきの若葉みそ(葉をゆで水にさらしておいたのを、細かく切って白ごま油で炒め、麦みそを加えて、ウイスキーでちょこっとのばしてからフライパンに炒りつけた)、土鍋ご飯(雑炊にするつもりだったのに、炊きたてにふきみそをのせて食べたらとまらなくなってしまう)、ソーセージ炒め、昼のほうれん草のおひたしをバターで炒めたもの。

●2014年4月27日(日)快晴

スイセイは日の出前から起き出し、出ていった。
私はシュラフにもぐる。空気は冷たいのだけど、もぐっていればぬくぬくと暖かいこの感じが好き。
ぺカーッと太陽が昇って、でもまだシュラフから出たくなくてうろうろしていたら、窓が開いてスイセイが立っている。
後ろの光が眩しすぎるので、スイセイの顔も何もかもが見えない、黒いてるてる坊主みたいにしか見えない。
お腹が空いたので、牛乳と稲荷ずしを取ってくれという。
私も起きる。まだ6時なのだそう。
石油ストーブをつけ、紅茶が沸くまでの時間もまた好きだ。
窓の近くに腰掛けをもってきて、シュラフをかぶりミルクティーとビスケット。
太陽はずいぶん昇ったものの、遠い山の稜線の重なったところが、まだ薄ぼけている。近くの山は若緑。
チチチチ、チュクチュクといろんな鳥が鳴いている。
歯磨きしながら畑に出る。
スイセイがツルハシでススキをバッコンしているのが見える。降り下ろす姿勢は、剣の達人のよう。
露が下りて草も地面も濡れ、光っている。朝の山々はみずみずしい。
朝いちばんの野良作業が気持ちよさそうなので、ツナギに着替え、私も朝飯前の庭の草取りをやる。
8時に朝ごはん。
サラダ(きゅうり、ラディッシュ、トマト)、ソーセージ炒め、スクランブルエッグ、じゃがいもポタージュ(スイ)、コーンポタージュ(私)、トースト(バターを塗ったフライパンでじりじりと焼いた)。
サラダは塩をしただけだし、ソーセージも焼いただけ。スクランッブルエッグも、卵がおいしいから塩と牛乳だけ。
道具も調味料も乏しいけれど、そのものがおいしいから、たいした料理をしなくてもすごく満足できる。窓の景色も素晴らしく、キャンプみたい。なんとなく、アムたちの朝ごはんを思い出す。
スクランブルエッグがとてもうまくできた。牛乳を入れすぎたかなと思ったのだけど、焼いているうちにやわらかくかたまって、ねっとりふわふわに。
卵がおいしいせいもあるけれど、カセットコンロの火力のせいかも。
卵2個に対し、牛乳は大さじ2かそれよりちょっと少ないくらいだろうか。牛乳パックを傾け、トボッと入れた。家でも試してみよう。
スイセイはうたたね。私は水道の水をつないで、食器を洗い、お昼の筍ご飯の支度をし、ボウルに水をためて洗濯する。
何をやっても楽しい山の暮らし。
今、9時18分(パソコン画面に時間が出るのをさっきスイセイに教えられ、はじめて知った。曜日まで出る)。
さて、そろそろ陽焼け止めを塗って、草取りを再開しよう。スイセイはイビキをかいてよく寝ている。
庭の続き。日陰になった地面からやった。
遠くの方で、ブーンという音が長いことしていて、どこかで草刈り機を使っているのかな、今日は日曜日だからな……と思っていたのだけど、私の耳もとで鳴っている虫の羽音なのだった。
休憩のときに、土蔵の方に椅子を置いて休んでみたら、やっぱりとても景色がいい。いつもの休憩場は畑しか見えないけれど、ここからだと母屋と納屋の間から山が見える。
お昼は筍ご飯を炊いて、ここで食べよう。
古いお膳をみつけ、たわしで洗って干しておく。
私はちょっとでもよさそうなことをみつけると、すぐに実行したくなる。
きっと、楽しく生きるのに欲張りなんだな。
料理というのも、考えてみればそういうものの極みかも。
そして、いいことをひとりじめするのが申しわないような気になるから、それで本を書いたりするのだ。
作りやすく、おいしいレシピを工夫することは、私の生態に無理なくぴたりと合っているんだな。
昼ごはんは、筍ご飯(うどんスープの素を耳かき1杯、塩、しょうゆ、白ごま油、ゆでておいた筍、厚揚げの耳を薄く切って油揚げがわりに刻んだもの)、たんぽぽの葉の白和え。もつ煮込み。
たんぽぽの葉を料理したのははじめて。切ってからゆで、味をみながら苦味がほどほどにぬけるまで水に軽くさらして絞り、細かく刻んだ。和え衣には絹ごし豆腐を水切りしておき、麦みそにグラニュー糖をほんのちょっと混ぜた。
モツ煮込みのコンニャクを、「みいよう、ぐちゃうちゃにうまい」とスイセイが喜んだ。
「ぐちゃぐちゃに」というのは、おいしいときのスイセイの最上級のほめ言葉。
お昼を食べ、スイセイは昼寝。私もくったりとくたびれ、30分ほど横になる。
また草取りの続き。
午前中よりも風が強くなった。地面が乾いてやりにくかったが、土蔵側からこっち半分は終った。
お茶にする用のヨモギを畑に摘みにゆく。ザルいっぱいに根っこごと抜いた。
土蔵前に腰掛け、ヨモギの葉っぱをちぎる作業をしていた。
スイセイは山の方へ木を切りにいっている。
たぶん夕方の5時前くらいで、あたりはまだ明るいけれど、昼間とは違う光だった。
今日も、いち日が終るのだなあという光。
ひとしきり強い風が吹いて顔を上げると、木の葉がザーーッと大きく揺れた。
そのときにふと、スイセイも私もいつかは死ぬのだと思った。
よく、夕方になるたびに幼児がぐずって泣くという話を聞くけれど、それはわけもなく泣いているのではないんじゃないか。
もしかすると、生まれて間もない幼い子の方が死ぬことの近くにいて、私たちよりも生々しい心細さがよぎるのかもしれないなんて、そんなことを思った。
ヨモギを終え、道具を洗って納屋にしまい、今日の作業は終りとする。
着替えて顔を洗い、髪をとかし、部屋の窓から山を見る。
遠くの山が、薄い茜色に染まっている。
山は東にあるのだけれど、向い側の夕陽が映っているのかもしれない。
いちばん遠くの山から茜色がなくなって蒼くなるまで、ずいぶん長いこと私は見ていた。
焚き火をしているスイセイを見にゆくと、「みい、顔が変ったのう」といわれる。
どんなふうに変ったのだろう。東京での力がぬけ、ゆるんだ顔になっている気がする。
夜ごはんは、じゃこ天焼き(辛子じょうゆ)、厚揚げチャンプル(ニラ、しいたけ、卵)、こごみのおひたし、きゅうり&みそ、カップヌードル(スイ)。
今日も私はビールが飲めない。ウイスキーの紅茶割り(薄め)がとてもおいしい。
ふたりともくったりとくたびれ、8時半には寝てしまう。
スイセイはくたびれると口数が少なくなる。

●2014年4月26日(土)快晴

ゆうべはぐっすり眠れた。背中が真っ直ぐに伸び、とても気持ちよかった。
7時のサイレンが鳴って、シュラフから顔を出すと、ビカーッと太陽が出ていて、顔に当たった。
スイセイはとっくに起き、畑で何かしている。
いつものように庭に出て歯磨き。
ゆうべのお皿をゆっくり洗い、身繕いをして朝ごはんを支度をする。
しばらく忘れていたけれど、私にも山の時間がもどってきた。
朝ごはんは、サラダ(きゅうり、トマト)、ハムエッグ(卵が白身のところまでとてもおいしい)、バタートースト、ミルクティー(私)、ポタージュスープ(スイ)。トマトがとてもおいしい。「畑からもいできたみたいな味じゃのう」。
朝ごはんのあと、もつ煮込みを仕込んでストーブにかけながら、たまっていた日記を書く。きのう、吉祥寺の家を出発したところからここまで一気に書いた。ふー。やっと書けた。
ようやくこれで、リアルタイムに追いついた。
さて、そろそろ外の作業をはじめよう。
まずは台所の裏庭の草取りからだ。
スギナがいちばん多く、ヒメオドリコソウとカラスノエンドウくらい。ヤブガラシはまだ若葉だから、ほんの少しだけ。
スギナはずいぶん少なくなった。地面にすきまがある。もしかすると草マルチの影響かもしれない。
おばあちゃんのカマで、奥の方から抜いてゆく。格闘している感じではないのに、地面がすんなりと見えてくる。
ススキはない。まだ草が出はじめの季節のせいかもしれないけれど、ここの地面も変ってきたと思う。
12時のサイレンが鳴って、山に行っていたスイセイが帰ってきたのでお昼にする。
昼ごはんは、コロッケサンド(きゅうり)、トマト、あっさりめのモツ煮込み(豚モツ、コンニャク、厚揚げ、筍、ゆで卵、麦みそで味つけ)。
食後にスイセイは昼寝。私は庭の方の草抜き。
5時までやって、温泉へ。
たっぷり浸かって、マッサージ機にもかかり、ふぬけとなる。
夜ごはんは、冷や奴、きゅうり&ラディッシュ(麦みそ)、鳥スペアリブ(出てきた脂でしいたけ、アスパラ、ニラの順に一種類ずつ炒め、そのつど食べる)、ポテトサラダ、モツ煮込み。
スイセイはビール。私はゆうべの気のぬけたビールでさえ、あまり飲めない。
9時前に寝床を作り、横になる。
ときどき目を開けると、スイセイはあぐらをかいたまま宙を見ている。
ビールを飲むでもなく飲んで、ただそうしている。
きっと、頭の中ではいろいろ考えが巡っているのだ。

●2014年4月25日(金)晴れ一時雨

9時20分に山の家へ出発。
ジープの中は夏みたいに暑い。腕に当たる陽射しも夏のよう。でも走りはじめると、風はひんやり爽やかだ。
スイセイが眼鏡を忘れた。今かけているのではないらしい。
パン屋さんに寄ったら(山の家での食パンを買いにゆく)、取りに戻るという。
スイ「こうやって、自分のことを確かめるんよ。運転用の眼鏡を忘れたゆうのんは、ああ、今日のオレはボケとるんじゃのと。小さいことに気づくことで、いい気にならんようにするんよ」。
私「そうすると、大きい事故につながらないんだね」
どこもかしこも緑、緑。しばらく見ない間に、世の中はこんなことになっていたのか。
ジープに乗って近所を走っているだけなのに、もう旅の気分。歩いている人のことも、景色も、いつもとは違う目で見ている。
高速の近くのコンビニで、スイセイはトイレ&コーヒー。私はいつものように、フランクフルトソーセージにケチャップと辛子をしぼって食べる。
10時半、高速に乗った。
いい天気だけれど、遠くの山はぼんやりとしか見えない。
道路は、思ったよりもうんと空いている。
眩しくて目がシバシバするから、油断すると瞼が落ちてきて眠たくなるような天気だ。
近づくにつれ、山はくっきりと姿を表した。
山の間に入ると、どこもかしこもやっぱり緑、緑。空と道路意外は、ぜんぶ緑色。
私「いい景色だね」
スイ「おう、今がちょうどの」
私「すいてるよねー、道も」
スイ「すいとるー、すいとるー」
談合坂でトイレ休憩。
向かいのぽっこりとした山は、いろいろな緑を貼り合わせたパッチワーク。中腹にもやもやっとした薄いピンク色も見える。山桜だろうか。
12時ちょうどに直売所に着いた。
今は果物がない。キウイと甘夏くらいしかない。そのかわり春ならではの野菜がある。
こごみ、グリーンアスパラ、筍(今朝かきのうの夕方掘ったものだそう。小中2本入り)、ニラ(細めで丈が短いのを、ほうきのように束ねてある)、トマト(果物がわりにかぶりつけるくらいの、小粒のりんごみたいな大きさ)、きゅうり、ラディッシュ、しいたけ、卵、自家製麦みそ、お稲荷さん、コロッケを買う。
お休み処で昼ごはん。
安倍川餅のお茶セット&もろこしスイトン(スイ)、もろこしスイトン(私)。
スーパーで食材を買って、2時前に山の家に着く。お墓に挨拶をしてから、あちこち見てまわる。
ひと月前にスイセイが来て作業をした畑の場所に、案内してくれる。
どこもかしこも見通しがいい。
ススキもずいぶんバッコンしてあるし、暴れていた野イバラも小さくなっていた。桑の木も枝をはらってあるから、ほとんど裸の状態。モンシロ蝶くらいの大きさの若葉が、枝先に並んでいるくらい。スイセイはそうとう頑張ったのだな。
さっそく着替え、スイセイは作業をはじめた。
いつものように私は掃除。住み心地のいいよう、巣作りをする。
私が来れたのは、なんと去年の9月以来。ひさしぶりなので、念入りに雑巾がけをする。台所の鍋や食器の類を洗うのはもちろん、それらをどかして調理台や流しもきれいにした。
スイセイに焚き火をしてもらって(前回切っておいたバラの枝や、大雪の重みで折れた梅の枝などをくべている)、小さい方の筍を丸ごとくべる。中くらいの筍は、糠を入れてゆでておく。
筍が焼けたので、5時前だけど私はビールを飲みはじめる。真っ黒に焼けた皮をはぐと、蒸し焼きにされた赤ちゃんみたいな筍が出てきた。そのおいしいこと。春の精の味がする。
スイセイはまだビールを飲まない。どこからか枝をひきづって持ってきたりしながら、焚き火の番をしている。
庭は、ススキらしきものはひとつもなく、今はやわらかな草が生えている。ほわほわとした15センチくらいの長さ。
アマゾンは草も若葉も出ているが、絡まってはいない。
台所の裏庭はスギナが群生しているけど、それだってはじめの年ほどにはひどくない。
地面も植物も、前みたいに暴れなくなった。
今年で4年目になるのだけど、土や木や草の様子は確実に変わり、落ち着いているのが分かる。
私たちがここをみつけるまでは、長い間ススキが王様の植物の王国だった。人が誰も入らないのをいいことに、伸び放題、絡まり放題。
何十年もそうしてきたところに、人の手が入り息が吹きかかったことを、この土地が感づいていい子にしているような感じがする。
縦横無尽に地中に根を広げたススキに負けて、生えてこられなかった植物が、まず出てきた。
今はやわらかい草とタンポポと、カラスノエンドウくらいしかない。ヨモギさえとても少ない(季節のせいもあると思うけど)。
花壇には、ボケの赤い花が咲いたあとがあった。いろんな植物の根っこが、地中でこのときを待っていた。
それはスイセイが、ブルトーザーなんかを使わずに、体ひとつでいい聞かせるように、コツコツと手なずけてきたからじゃないかな。
地面にも、感受性みたいなものがあるんだと思う。
気持ちとかじゃなく、物理的な感受性。
夜ごはんは、焚き火ごはん。
アムプリンの器で蒸し焼きをろいろやった。まず、バターをのせたしいたけとアスパラ焼き(さっと火が通っただけのもおいしかったけど、焼きすぎたのもくったりとしてたまらなくおいしかった。ホワイトアスパラの缶詰めの味)、台所の裏庭で、スギナに混じって生えていたつくしも軽く焼いてみた(ほんのり苦味がある春の味。とてもおいしい)、ソーセージ、ちくわ。
おいしいカマンベールチーズを東京から持ってきていたので、小枝に差してあぶって、バゲットも直火で焼いて挟んで食べるが、どうもうまくない。
都会の味は、ここではちっともおいしく感じない。ただのバターのようななめらかすぎる味。ちくわを焦げるくらいに焼いたものの方が、ずっとおいしかった。
自然が荒々しい土地では、繊細においしくされた頭でっかちみたいな味は負けてしまうのかな。不思議だなあ。
私たちは暗くなっても外にいた。
焚き火を見ながら、だんだんに夜になる気配を感じているだけで楽しい。
くずれかけたブロック塀でこしらえたへっぽこ炉だし、家はいつまでたってもオンボロで、ビールだって本物じゃない(発泡酒)けど、なんてロマンチックなんだろうと思う。
私はこれをひとりじめするのが申しわけない。
知っている人をひとり残らずここに連れてきて、味合わせてあげたい。
遠くの空で雷が光っているけど、音はしない。
そのうちにぽつんと雨粒がひとつ落ちて、ぽつりぽつりと少し増え、だんだんに雨の密度が濃くなる。そうして、しめやかに降りはじめたのだった。
「今から降りますよーって、ちゃんと合図を送って、それから降りはじめるんよの。雨って、そういうふうに降るよのう」
部屋に戻り、ストーブをつける。
もう瞼がくっつきそう。顔を洗って歯をみがく。
水道のホースをはずしに外に出たら、雨はやんで星が出ていた。
9時半に寝る。

●2014年4月20日(日)うすぼんやりとした曇り

とても寒い。足もとのストーブをつけながら、これを書いている。
スイセイは木曜の夜にぶじ帰ってきた。
留守にしたのはわずか3日だったけれど、私にはその間に気づいたことがもうひとつある。
それは、料理って、おいしく作ろうと思わなければおいしくできないということだ。
自分ひとりだと洗いものを少なくしたいから、盛りつけもごっちゃりとして節操がなく、食べるときにも、誰も見ていないから行儀悪くかっこんだりして。
食事の時間が自由すぎるのがまずいけない。
作りはじめるときにはすでにお腹が空いているので、ついつい適当になってしまう。
そうすると、作ったときの気持ちをそっくりそのまま味にしたような適当な料理ができる。
その相似形には、料理家としても目をみはるものがあった。
私の憧れは、ひとりでもちゃんと食卓をととのえる『るきさん』。
たぶん決まった時間にニュースか何かを見ながら、もぐもぐもぐとよく噛んで食べる。
ひとりでも食べたい味のものをちゃんと作るから、るきさんの料理はおいしいしいにちがいないと思う。
さて、今日は「はなべろ読書記」の続きをやろう。
『セラピスト』について、きのうから書きはじめた。
きのうのうちに茄子とひき肉のカレーを煮込んでおいたので、夜ごはんはこれで安心。
窓の外ではずいぶん若緑が増え、雲の多い薄水色の空になじんでいる。
児童公園の向かいのお宅は、生け垣に藤色の花が咲いている。
それもまた、今日の空の色具合にとても似合っている。
夜ごはんは茄子とひき肉のカレー(ゆで卵、らっきょう、福神漬)、サラダ(キャベツ、きゅうり、ピーマン、ディル)。

●2014年4月16日(水)ぼんやりした晴れ

きのうの私はいったい何をしていたんだろう。
朝10時くらいにスイセイが広島に帰ってしまってからは、心がずっとふわふわしていた。
11時に「ほぼ日」の記事を読んで、何の脈略もなく靴磨きをはじめ、3時近くまで熱中して、昼ごはんを食べるのを忘れた。
うろうろと家の中を歩きまわっては、誰かからメールが届いてないかどうかチェックしてみたり。届いているとうれしくてすぐに返事を送ったり。
スイセイが家にいると、知らず知らずのうちに時間を気にしながら生きていることがよく分かった。
それは一見自由でない感じもあるのだけれど……いないとなると、時空がぶわっと広がりすぎてとりとめがない。あんがいと不自由。
夜ごはんの前にせんべいを食べてしまったので、オムライス(ソーセージと豆入り)をせっかく作ったのに、お腹がいっぱいで半分残した。
そんなわけで、今日は心を落ち着け、独身生活を楽しもうと思う。
せっかくなので、朝ごはんも作らないし食べない。
宅配便の人が来てもいいように、パジャマだけは着替えた。
顔を洗って布団に戻り、読書にいそしむ。本は最相葉月さんの『セラピスト』。
お菓子の缶にはビスケットがあるし、オムライスの残りもあるから、今日は一日中、ごはんをいっさい作らないことに決める。

●2014年4月13日(日)ぼんやりした晴れ

朝起きたら、部屋の温度が21度だった。
またさらに暖かくなった。
どんぐりの花も、もう5センチほどの長さになっている。ちょっと黄色がかってきているような。
向かいの空き地の地面にはムクドリ、空にはオナガがゆき交っている。
川原さんからきのうメールが届いた。
アラスカのデナリ国立公園は四国より大きく、園内を45ではなく87に区切っているのだそう。
本屋さんで「地球の歩き方」を見て、調べてくれたみたい。
めんぼくないです。
さて、日曜日だけどこれから私は「アンドプレミアム」という雑誌の撮影だ。
11時半になったら編集さんたちがいらっしゃる。リーダーもくる。
撮影が終って、三鷹に買い物に出る。
スーパーの野菜売り場で、お母さんと6歳くらいの男の子が買い物をしていた。
「うどと、あとは小松菜を買おう」とお母さんが言ったら、隣で野菜をじっと見ていた男の子が、「水菜はいらないの?」と言った。
「ううん、今日は水菜はいらない」とお母さん。
私は感心し、ちょっとうらやましかった。
この家族のごはんは、きっとおいしいんだろうな。
このところ、うちは残り物っぽいごはんばかりだったから、今夜は私も真面目に作ろう。
さて、帰ったら『まる子』と『サザエさん』だ。
夜ごはんは、ふきのとうの佃煮、めかぶ(だし醤油)、サザエのつぼ焼き、ブリカマ塩焼き(大根おろし)、水菜のおひたし。

●2014年4月10日(木)晴れ

大家さんのどんぐりの木、若葉が出てきていると思っていたら、花だった。
きのうより1センチ以上も伸びていたので、花だと分かった。
ゴールデン・ウィークのころになると咲き、西陽が当たると金色に輝く簪みたいになるのだけれど、毎年、毎年、私はそのことを忘れてしまう。
朝ごはんを食べて、パン屋さんへゆきながら散歩。
桜はもうほとんど散っていた。
そのかわり、いろんな草花が花盛りだ。
タンポポはもちろんのこと、スミレ、ヒメオドリコ草、スノードロップ、花弁が星のような白と薄紫のニラバナ、紫色の豆粒みたいなのが連なった何だか分からない花(あとで調べたらムスカリだった)。
白いパフスリーブみたいなドウダンツツジの小さな花や、濃いピンクのハナズオウ。
本当はもう咲いていたのに、桜ばかりに目がいって、見えなかったのかも。
中央公園へゆき、パンを買って、いつもと反対側のコースをさかのぼって帰ってきた。帰り道の薬屋さんでトイレットペーパーを買うのと、スイセイがレンガに穴があいたのを拾うため。
いつもと反対の道を歩くのは、なんだかとりとめがない。
のんべんだらりとして、三半規管がおかしくなったような。表裏がひっくり返ったような。
のどが乾いて、途中にある小さな公園で水を2回飲んだ。
昼ごはんを食べて、今日もまた、「ほぼ日」の記事の校正と、「はなべろ読書記」の校正。
夜ごはんは、厚揚げ入り広島風うどん(ワカメ、ねぎ)、だし巻き卵(大根おろし)、新玉ねぎの黒酢じょうゆマリネ(せんキャベツの上に汁ごとのせた)。
「新玉ねぎの黒酢しょうゆマリネ」がおいしくできたので、ここにレシピを書いておきます。
まず、新玉ねぎ1コを半分にし、芯を取って1センチ幅に切りボウルに入れます。小鍋にしょうゆ1/4カップ、酒1/8カップ、黒酢大さじ1、ごま油大さじ1、赤唐辛子1/2本(種をよけて小口切り)を合わせて煮立て、玉ねぎの上から熱々をまわしかけます。玉ねぎが軽くしんなりしたら食べられます。容器に移して冷蔵庫で保存してください。
そのまま食べてもおいしいけれど、カツオの刺し身とか、焼いた肉の上にのせてもおいしそう。
肉を焼くときには、玉ねぎを少し炒めたのをのせるとさらによいかも。こんどやってみよう。

●2014年4月9日(水)晴れ

朝起きたとき、いつもより暖かく感じた。
ストーブをつけなくても、部屋の気温が20度あった。
大家さんのどんぐりの木は、若葉がずいぶん出てきている。
さて、この間の花見の日の日記に、川原さんから聞いたことを、私はずいぶん間違えて書いてしまった。
日記を読んだ川原さんが、メールを送ってくれました。
それにしても私の間違いっぷり、ひどいなあ。
観光案内としても役に立つようなとても分かりやすい文をいただいたので、ここにそのまま載せさせてもらいます。

「アラスカにオーロラを見にいった話、
カナダってかいてあったよ。
デナリ国立公園というとこなんだけど、カナダって聞こえたかな。

人間が入り込むことで生態系が破壊されなようにいろんな規制があるの。
自家用車は入れないとか(専用シャトルバスのみ)、
キャンプは指定区域内で人数制限があるとか。

四国くらいの面積を45(不確か)くらいに区切って、
そのひとつのなかに何人までとか、人数制限してるんだ。
場所によって制限数は違うんだけど、
ある場所(バックカントリーといって、水もないし火も使ってはいけない荒野。遠くにマッキンリーの雪山が見える)でテントを張った晩、
この数キロ圏内には私たち4人しかいないんだーって、体験したの。

昼は観光客がたくさん入ってるんだけど、ほとんどが日帰りだから。
人気のあるキャンプサイト(水やトイレなど設備が整ってるとこ)にはたくさん人がいるけどね。 って話でした!」

さて、今日は3時から「Zの会」。
ひさしぶりに高野さんがいらっしゃる。
スイセイが朝からコピーをしにゆき、お渡しする資料も準備万端ととのっているので、私はぎりぎりまで「ほぼ日」のインタビュー記事の校正をやる。
ほとんど直すところがないけれど、もう少ししっかりめにお伝えしたい言葉を、つっこんで加えてゆく。
これはメモについて取材された記事です。私はメモ魔だから、壁やいろんなノートに書き散らしてあるメモの写真をたくさん撮ってもらいました。4月15日に前編、16日に後編がアップされます。どうか、楽しみにしていてください。
打ち合わせも無事終り、高野さんとスイセイと「いせや」へ。
いよいよ『Zの本』の形がおぼろながらも見えてきたのが嬉しい。
これは、スイセイとの対談が軸になった本です。もう4年越しでやってきたので、今年中に出せたらいいなあと思っています。
なんだか今日は、宣伝みたいな話題がたくさんになってしまった。
夜ごはんは、「いせや」の焼き鳥いろいろ、シュウマイ、ポテトサラダ、塩キャベツ、ホタルイカとワカメの酢みそ和え、ビール。
6時半にはお開きとなり、てくてく歩いて「長男堂」でデザートを食べて帰ってくる。
私はコーヒー&チーズケーキ、スイセイは焼酎のお湯割り&アイスクリーム2種盛り。
はっきりと暖かい春の宵だった。

●2014年4月4日(金)曇りのち晴れ、一時雨

3時まで「はなべろ読書記」を書いて、川原さんと花見散歩へ。
近所の小さい公園の桜ははらはらと風に散い、つもった地面が薄桃色になっていた。
ふきだまりの花弁を宙にまいたり、桜並木をゆっくり歩いたり。
スポーツセンターのグラウンドの丘に座り、小さいお花見。
何の打ち合わせもしてないのに、川原さんはおつまみいろいろ(チーズのふきみそ漬け、チイチイいか、アーモンド、ウニのおつまみ、干しぶどう)、私はたまたま冷蔵庫にあった日本酒の小ビンと、おちょこをふたつ持ってきていた。
川原さんはコンビニでビールか日本酒を、私はおつまみをコンビニでみつくろえばいいなと思っていたのだった。
以心伝心だ。
グラウンドを囲む丘は、満開の桜だらけで、はらはらはらはらと舞う。
桜の景色もでっかいけれど、空もでっかい。
晴れていたかと思ったら、遠くの方で黒い雲がわき出したり。
黒い雲が増える一方で、空の高いところでは雲間から光が漏れていたり。またしばらくすると、雲の輪郭が金色に縁どられたり。
桜の枝越しで移り変る空もまた、お花見とセットだった。
川原さんは、アラスカにオーロラを見にいったときの空を思い出していたそう。
「そこは、カナダの州立公園の中にある場所で、遠くにマッキンリーの山が見えるの。四国の四分の一くらいある広い広い原野なのに、私たちを入れて、人は8人くらいしかいないんだよ」
テントを張って野営し、オーロラが現われるのを待っている間にも、空はいろんなふうに移り変わっていたんだそう。
そんな空、私も見てみたいなあ。そりゃあ荘厳だったろうなあ。
そのうちにぽつりと1粒、雨が首筋に当たって、ぽつぽつと降り出した。
私たちはヤッケを羽織り、フードをかぶってゆっくり歩く。桜がある道ばかりを選んで。
中央公園は雨のおかげで人がいない。
去年、筍の撮影が終った日の夜に、立花くん、カクちゃん、川原さんと4人で、木の根元に座ってビールを飲んだ桜の大木をふたりじめする。
枝を広げた桜の木。散りかけの桜は、とてもきれい。
この間、ひとりでここに来たときには何とも思わなかった。
八分咲きの桜はきれいなことはきれいなのだけど、どこを見ていいのか分からないような、とりとめのない感じだった。
そんなふうに見えるのは、ひとりだからかな? それともずっと散歩に出ていなくて、待ち望む間もなく開花してしまったから、感動がないのかも……とも思っていたのだけど、川原さんと話しているうちに、散る前の桜はほころびがないからだという結論に達した。
「自分の内側だけで、パーンと張ってる」と、ほっぺたを膨らませ、顔で表してみせる川原さん。
私「パンパンすぎて、余裕がない。15歳くらいの少女の感じかね。やっぱ散りはじめはいいよね。サービス精神があるよ」
商店街の和菓子屋さんで、かしわ餅(桜餅が売り切れだったので)を買う。川原さんはわらび餅とみたらし団子を1本買った(みたらしは歩きながら食べた)。その先の塩鮭がおいしい店で、塩鮭、ぬか漬け、白菜漬け、ふきのとう、新じゃがなど買う。
帰り着くと、青紫色の雲がぶどうの房のようになっていた。沈む直前の夕陽は、ごっつい金色。
川原さん、見てるかなあ。
夜ごはんは、ふきのとうみそ、赤魚のみりん漬け、新じゃがの薄味煮(ごま油でざっと炒め、だし汁、酒、薄口しょうゆで汁がなくなるまで煮た。甘じょっぱくするより新じゃがの味がよくし、とてもおいしかった)、ほうれん草のおひたし(しらすのっけ)、漬け物(白菜、大根、きゅうり、かぶ)、白いご飯。
たいしたおかずじゃないけれど、ニュースを見ながらお膳に並んだのを食べているとき、「7時から昭和歌謡ショーがあるで」とスイセイが言った。
そのあとですぐ、「しょうゆがほしいのう」と言って、私が台所へ取りに立ったのだけど、そのときふと胸があったかくなった。
その感じ、なんだかひさしぶりだった。

●2014年4月1日(火)晴れ

ゆうべ、お風呂から出てテレビをつけたら、たまたま『笑っていいとも!』のお別れ会みたいなのをやっていた。
ゆかりの芸能人たち、主に芸人さんたちがひとりずつマイクの前に立って、タモリにお別れの挨拶をしていた。
テレビにいつも出ている人たちなのに、顔が素になってしまっている芸人さんもいた。
挨拶はひとりひとりみんな違って、どこまでが芸なのかも分からず、なんだか見てはいけないものを見てしまっている感じもあり、ずっと目が離せなかった。
ときどき泣いた。
番組の終りに、カメラに向かって頭を下げ、挨拶をしていたタモリの最後の言葉が忘れられない。言葉っちりは定かではないけど、たしか、こんなふうだった。
「テレビの前の皆さんから、多くの価値を私につけていただき、この、みすぼらしい体にも、たくさんのきれいな服を着せてもらいました。32年間、本当にありがとうございました。」
「この、みすぼらしい体に」というところで、私は涙がこぼれた。
こういうことをテレビで言ってもいいんだ。さらさらとした声で。
そのときのタモリの、いつものニヤニヤより5ミリばかしあらたまった、でもちっとも神妙でない、はにかみをたたえた顔。
この人は、芸能のキングのような人なのに、自分のことをちっともえらいと思っていないんだな。
なんだか眠れなくなって、ひさしぶりに『0655』を見て、それから寝た。
スイセイがいないと、私の時間はバラバラだ。
今、スイセイは山の家。
28日の朝出掛けていったから、今日で4晩が過ぎた。
その間私は、ずっと深く眠れていない。
情けないなあ。
あとで、お弁当を持って桜を見にゆこう。ひとりで。
中央公園の桜は八分咲だった。
桜の木の根元には、子供連れのお母さんたちでいっぱいだったので、私は広場のはしっこのベンチでお弁当を食べた。
遠くでけぶっている桜を見ていると、頭がぼーっとしてくる。
帰り道、並木道の桜を見上げていても、やっぱり頭がぼーっとしてくる。
小さい満開の花がたくさんありすぎて、どこを見ていいのか分からなくなる。
去年の今ごろ、筍の撮影をしていたことを懐かしく思い出しながら、石舞台のある小さい公園を通る。
もう1年がたってしまったのだなあ。
前にここを通ったときは大雪の日で、小学生の男の子がかまくらを作っていた。
スイセイから電話があり、今日の夕方に帰ってくるのだそう。
夜ごはんは、ふきのとう(山の家の)の天ぷら、虹鱒の塩焼き、うどと牛肉の炒り煮(ゆうべの残り)、うど皮のきんぴら(ゆうべ作っておいた)、小松菜の煮びたし、ジャーマンポテト(スイセイからじゃがバターをリクエストされたのだけど、まちがえて玉ねぎとじゃがいもをバターで炒めてしまった)、ビール。
ひさしぶりに会ったスイセイは、陽に焼けてひきしまっていた。

●2014年3月23日(日)晴れ

よく晴れている。風もなく音のしない日曜日。
シーツやらバスタオルやら、青い空によく映えている。
お風呂場の方の木はまだ蕾だけど、ベランダ側の杏の花は満開で、薄ピンクのぼんぼりのよう。
満開の花って光を発するのだな。
苦戦していた『季節のうた』(大好きな佐藤雅子さんの本)の解説文もようやく書き上がった。最後の見直しをしてお送りする。
やったー!
これでしばらくは締め切りに終われることもない。
あとでぐるっと散歩して、図書館へも行ってこよう。
夜ごはんは、菜の花の辛子和え、セロリとにんじんの塩もみ(すし酢、薄口しょうゆ、白ごま油)、麩とねぎのみそ汁、たくわん、とろろご飯。

●2014年3月21日(金)晴れのち曇り一時雨のち晴れ

ひさしぶりに晴れ間が出た。
洗濯物と布団をせいせいと干し、原稿書きをしていたら、あれよあれよと曇ってきた。どんよりと暗い。
ふと窓を開けると、ベランダに雨粒が。
大急ぎで布団を取り込むが、少し濡らしてしまう。
洗濯物はスイセイが入れてくれた。
春の天気は油断ならない。
今書いている宿題は、『季節のうた』の解説文。
なかなか進まずに、いったりきたりしながら書いている。
そのうちまた晴れてきた。
また布団を干す。
大家さんがどんぐりの木にはしごをかけ、枝を切っている。
私「鳥の巣がありますね」
大家さん「そうなんです。かわいそうに、カラスにやられちまったんですよ。ハトです。キジバトです。このへんじゃあめずらしいハトでね、とてもきれいなやつでした。私どもも気にかけて、カラスに石をぶつけたりなんかしてたんですけど、卵のうちにやられちゃったみたいなんですよ。この辺にハトの羽が散らばってて、かわいそうなことをしました」
また原稿の続き。
プリントアウトをしながら推敲を繰り返すも、なかなか前に進まない。
3時過ぎに買い物に出る。
風は強いけれど、気持ちよく晴れている。
農家の庭先販売でほうれん草を買って、遠まわりしてスーパーへ。
千葉産のいわしのピッチピチなのが1匹100円だった。あさりとメカブも買う。
夜ごはんは、いわしの蒲焼き(自分の『おかずとご飯の本』を見て作った)、めかぶ、ほうれん草とハムのバター炒め、あさりのみそ汁、納豆(スイセイだけ)、玄米(私)、白いご飯(スイ)。
ねらわずして、なんとなしに春先の食卓となった。
そういえば、今年に入ってからとくに、畳の部屋でテレビを見ながら夕飯を食べるようになった。丸いお膳を出して。
畳がきれいだから、お膳の足でこすりつけないように気をつけながら。
ときどき、敷きっぱなしの布団を半分に折りたたみ、空いたところにお膳を出したりもする。昭和の家庭の食卓だ。

●2014年3月17日(月)晴れ

今、日記の日づけを書こうとして、1月と打ち込んでしまった。
なんとなく1月の方がしっくりくるような気がして、ほんの一瞬だけど、今がいつなのか分からなくなった。
私のはなべろ感覚は、1月で止まっているのかも。
『料理=高山なおみ』ができ上がり、本屋さんに並んで、増刷もしていただいて。本のためのインタビューやトークショーもやった。
そして「キチム」での展示会や料理ショウがすでに終ったことを、頭では理解できるのだけど……そのめまぐるしいスケジュールについていけてないところが、自分の中にはれっきとあるのだな。
少しずつもとにもどして、体で分かるようにならねばと思うけど、無理はしまい。
ベランダの隅には、山の家の畑の土が入った小さなプランターがある。
きのうそこに、オオイヌノフグリの薄紫の小さな花が咲いているのをみつけた。
カラスノエンドウのやわらかいツル葉ものびている。
この間まで、雪が積もっていたのに。
雪が溶けてから、ここには茶色く干からびたネコジャラシしかなかったのに。
山の家は、今ごろどうなっているだろう。
この間の大雪で、どこか壊れていやしないかな。
畑や庭は、やわらかい雑草で覆われはじめているころだろうか。
おとついだったか、宅配便を出しにコンビニまで歩いた帰り、ちょっと遠まわりした。
あちらこちらで花の匂いがし、ハクモクレンの蕾も割れて、真っ白な花弁がのぞきはじめていた。
今朝、ひさしぶりに「ふくう食堂」のメールボックスを開いたら、たいへん嬉しいメールが届いていました。
私もまた、ああ、あれは夢ではなかったのだなと思っているところだったので、送ってくださった方にお許しを得て、ここに全文を載せさせていただきます。
*******************
 突然のメール、大変失礼いたします。

 私は、9日の「料理ショウ」に参加させていただいた者です。

 知らない場所に来ると緊張するという私自身の性質もありますが、レシピをきちんと読み込んで、メモを取って、質問をする参加者の方をみて、なんだか自分がとても恥ずかしくて、この場にいるのが申し訳ない気持ちになってしまい、初めはうつむきがちでした。

 でも、途中から、詳しいレシピやテクニックを知りたいからではない、高山さんが料理を作っているときの仕草を、声を、まなざしを、直に感じたいから参加したのだという、自分なりの目的を思い出して、リラックスして楽しむことができました。

 参加者の方の質問に対して、こうだと答えを言い切るのではなく、突き放す感じでなく「やってみたら良いと思う」と答えていらっしゃるのをみて、「腑に落ちる」ということを大切にされているのだなと感じました。頭だけではなく、身体や心でも納得するということを。

 高山さんのとても綺麗な手と手つき、スイセイさんのバックについていた数字のシールが可愛らしくて気になったこと、ゲラで出来た飾りがキラキラゆれていたこと、川原さんが挿絵について話される様子をみて、「誠実」という言葉を軽はずみに使うのは止めようと思ったこと、永積さんの始めて聴いた生の声がただただすごかったこと、壁に貼られた、祈りのような幾つもの言葉、ロールキャベツが甘かったこと、立花さんのフィルムを観ていたら、お腹が空いて軽い眩暈を覚えたこと。

 次の日、起きたらそれら全てが夢だったような気がして、でも違う、現実にあったのだということ思い出して、嬉しくなりました。

 先に、レシピやテクニックを知りたいから参加したのではないと書きましたが、綺麗なふきんを近くに置いておけば別の野菜を切るときに便利なのだなと思ったり、バターをフライパンに広げるときにも使っているのをみて、手はもっと使えるのだなと思ったことなど、結果的に、現実的な面で参考になる発見がいくつもありました。

 このイベントに参加して、料理をもっとしたくなりました。そして、作った料理を誰かと一緒に食べたいと思いました。

 本当に、ありがとうございました。

●2014年3月12日(水)快晴

ぽっかぽかのいい天気。春の匂いがする。
おかげさまで『料理=みんな展』も『料理ショウ』も、ぶじ終りました。
「キチム」に足を運んでくださったたくさんのみなさま、ありがとうございました。
みんなの言葉が書かれた感想ノートは、うちの家宝です。
私は『料理ショウ』で使いはたし、体はへろへろなのだけど、気持ちは元気。
今日はそんなふうですが、落ち着いたら、「キチム」であったことなど、少しずつ書いてゆきたいと思っています。
そうそう、たいへん有意義で楽しい『料理ショウ』でしたが、参加してくださったみなさんに、ひとつだけおわびがあります。
それは、みなさんにロールキャベツをお出しするタイミングのことです。
ほんとうは、もう少し煮込んで、キャベツがくったりとやわらかくなってからお出しするつもりだったのですが、あのときの私は、みなさんを驚かせることばかりに気持ちが向かってしまったのと、実演の言葉を伝えるのに必死なあまり、頭でっかちになり、体で料理を感じる感覚が鈍っていました。
もちろん、あのくらいの煮込み具合のロールキャベツもおいしいのだけれど、私が本の中でお伝えしたかったのは、箸でくずれるほどにやわらかなロールキャベツだったことを、ここにつけ加えておきます。
本当に、ごめんなさい。
みなさんのお家で、どうかあらためて再現をしてください。
さて、これから宅配便を出しにいったら、もういちど布団に入ろうと思います。
夜ごはんは、やさしい味のカレーライスの予定。

●2014年3月2日(日)雨

今日もまた冷たい雨。このところ春みたいな日が続いていたのに、また冬に逆もどりだ。
きのうは畳屋さんに来てもらった。窓際のところが陽に焼けたり、表面がささくれ立ったりしていたから、畳返しというのをしてもらった。
表のゴザを裏返しただけなので、青畳というほどには青くなく、鶯色に茶が混じったような落ち着いた色だ。
今度のヘリは木綿の茶色(今までは紺色だった)。畳にもよくなじみ、とても気に入っている。
職人さんによると、うちの畳のゴザは鹿児島産のい草を広島で織ったものだそう。裏にスタンプが押してあったらしい。
「いいゴザですよ」と言われた。
それほど高価なものではないから、何の気なしに使っていたけれど、これからは大切にしよう。私は平気で、電気ストーブや衣装カゴをひきづるのだから。
ゆうべは寝るとき、新しい畳の匂いがほんのりしていた。
さて、今日もまたきのうにひき続き、マーマレードジャムを煮ている。
来週からの「キチム」の展示に来てくださった方に、ほんのちょっとずつでも味見をしてもらおうと思って。
きのうのはきび砂糖のみ、今日のは赤ざらめを少し加えてみた。
佐藤雅子さんの『季節のうた』の文庫版解説を書きながら、くつくつと煮る。
隣の鍋では、牛すねのスープストックが煮えている。ビーツも丸ごとゆだっている。
換気扇を消してやっているので、窓ガラスがくもっている。いい匂い。
あさっては「キチム」の飾りつけの搬入で、「Sunui」の4人娘や川原さんも手伝ってくれる。賄いにボルシチを作ろうと思って。
スイセイは何やら夢中で工作をしている。眼鏡を二重にかけ、口に筆を挟んで紙をつかんでいる顔は、棟方志功のよう。私が覗くと嫌がる。
夜ごはんは、筑前煮(ちくわ、里いも、コンニャク、にんじん、ごぼう、絹さや)、牛肉のバター焼き(大根おろし)、ほうれん草のおひたし、みそ汁(ごぼう、豆腐)、白いご飯。

●2014年2月23日(日)曇り 

ぼんやりした天気。
朝からなんとなしにそわそわしている。
今日は原宿の「ヴァカント」というところで、『料理=高山なおみ』について立花くんと対談する。
ドキドキするので、みなさんにお見せする物(試行錯誤ノートなど)だけめいっぱいカバンに詰め、あとは何も考えないようにする。
「みいは、ポカンとしとけばええんで。料理界のジミーちゃんなんじゃけえ」と言われる。
さーて、どうなることやら。
和楽(しおりちゃんの4年生の息子)に会えるのを楽しみにして出掛けよう。

●2014年2月17日(火)晴れ

家の前の雪の原はずいぶん溶け、ぐしょぐしょしている。
朝からいきせききって「ロシア日記」の続き。
いいところまできているので、早く書きたい気持ちをおさえ、まずはインタビュー記事の校正をやる。
さあ、ウズベキスタンだ。
夢中で書いていて、気づいたら3時を過ぎていた。
雪の原では、朝からずっと黒いジャンパーを着た男がひとりで雪掻きをしている。
この広いところを、手つかずのところもまだまだあるのに、こつこつとプラスチックのスコップでやっている。えらいなあ。
スイセイ伝えると、「何ゆうとるの。あんなに楽しい作業は、世の中にほかにはないんで」。
へえ、そうなのか。
言われてみれば男は、大きな水たまりから道を作って水が流れやすくしたり、流れていくさまをじっと眺めたり。隅のほうからじわじわと雪を運び出し、陣地を広げている。
「ロシア日記」をプリントアウトして、推敲し、5時には仕上げをしてお送りする。やったー、締め切りの1日前にできた!
冷蔵庫に何もないので、厚着をして買い物に出る。
夜ごはんは、有頭えびの塩焼き、レバニラ炒め(豚レバー、ニラ、もやし)、納豆(スイセイだけ)、たくわん、紅しょうが、ワカメのみそ汁、白いご飯。

●2014年2月16日(日)快晴

とてもよく晴れている。空が青く、あちこちぴっかぴか。
大家さんのどんぐりの木にあった鳥の巣あとは、雪が溶けてもそのままの形でちゃんと残っていた。
うちの前の広場は、一面の雪の原。
雪に足あとのようなへこみ(中に人が入れないので、実際には風がつけた波紋か、雨のあとだと思う)があるところとか、大家さんの枯れ木の具合とか、四角く溶けた水たまりに太陽が反射しているところとか……まるで外国の絵のよう。
子供らが雪の斜面で遊んでいるような、こんな感じの西洋の絵があった。
ワイエスでもないし、タピエスでもないし。
うーん、すごくよく知っている名前の画家なんだけどなあと思いながら、お昼のお弁当を食べていて、ようやく分かった。
ブリューゲルだ!
パソコンで調べてみたら、「雪中の狩人」という絵だった。
雪が積もった丘を歩いているのは子供らではなく、犬をひき連れた狩人だけど。
うーん待てよ、こんな感じの絵で、子供らが雪遊びをしている風景のはなかったろうか。
まだ釈然としないけれど、そんなことより「ロシア日記」の続きを書かんんにゃ。火曜日が締め切りなのだから。
今日の「サザエさん」は、波平の声優が新しい人になる。新聞記事によると、『まる子』のクラスメイト長沢君の声の人らしい。
夜ごはんは、ミートソーススパゲティのうどん版(ミートソースに白菜を加えて煮込み、サワークリームとディルをのせた)。

●2014年2月15日(土)曇り

今朝はわざと寝坊した。
テレビの収録が終ってから、ようやくゆっくり眠れたので。SFチックなおもしろい夢もたくさんみた。
朝ごはんを食べ、「ロシア日記」の続き。
眩しいのでカーテンを閉め、ボタボタという盛大な雪解けの音を聞きながら、ウズベキスタンに集中する。
スイセイは朝からずっと雪掻きで忙しい。階段、マンションから通りへ出るまでの道、ジープの雪下ろし。パン屋さんにも行ってくれている。
さあ、夕方までもうひとがんばりしよう。
夜ごはんは、ササミカツ&タラのフライ(白菜のせん切り、トマト、タルタルソース)、豆腐のみそ汁、白いご飯。
お風呂から上がって、ウェブ用インタビュー記事の校正をする。

●2014年2月14日(金)雪

天気予報の通り、朝起きたら少しだけ積もっていた。
でも、先週の雪よりはうんと少ない。
うちの前の広場はまだ地べたが見えているし、ベランダの雪もシャーベット状で積もってはいない。水っぽい雪なのだろうか。
朝ごはんを食べ、「ロシア日記」の続き。
いちど休憩し、これまでの号を読み返して、ウズベキスタンにいるときの自分を体に注入した。
1時からは「ほぼ日」の取材で、田中くんとカメラマンの男の子がいらっしゃる。
雪が降り積もる中、いろんな資料を見せながら、ぺらぺらと私はよく喋った。
バレンタインデーなので、カメラマンの男の子にロシアのチョコレートを、田中くんにはキャンディーをあげた。
2時間ほどで終り、また「ロシア日記」の続き。
夜ごはんは、鶏の水炊き(手羽元、大根、白菜、しいたけ、豆腐、柚子こしょう。手羽元におろしにんにくをすり込んだら、なんとなしにサムゲタン風になった。こういうスープで煮た大根は、だし汁で煮たのとは違う食感になるのが不思議。厚めのいちょう切りにしたのだけど、角もくずれていないのに、とろりとやわらかくなる。おろしにんにくと鶏の脂のせいだろうか。とてもおいしかった)。
夜になっても降り積もる雪。空もぼんやりと白く、いつまでもいつまでも暗くならない。何度も窓を開け外を眺める。
お風呂から上がって、また窓を開ける。家々の屋根にロウソクを立ててまわりたいような積もり具合だ。
けれどこうして眺めていても、この間ほどには雪を満喫できないのはどういうわけだろう。集中力が足りず、すぐに窓を閉めたくなる。心がウズベキスタンにいるからだろうか。
夜中、布団の中で目を開けたら、雪明かりのせいで部屋中がぽっかりと白っぽくなっていた。

●2014年2月8日(土)大雪

朝起きたら、雪が積もっていた。
細かい細かい粉雪だ。
朝ごはんを食べている間も、静かに静かに降り積もる。
音がしない。
私もスイセイも、窓の外を見ながら食べている。
11時頃、重装備をしてパン屋さんにゆきがてら散歩に出る。
スイセイは傘をささずに歩く実験だとそうで、毛糸の帽子の上につばのある帽子をもうひとつかぶった。
うちのマンションの階段は、2階に下りるまでまだ誰も通っていない。もっこりと、片栗粉のような新雪。
近道をして中央公園へ。
絶え間なく降り続く雪。だんだん激しくなってきた。
犬を連れた散歩の人がひとりだけ、ほにはだれもいない。真っ白すぎて、目がおかしくなる。
どこが近くなのか、どこからが遠くなのか分からない。
遊具がある方を見ると、公園だなと分かるけど、反対側の吹雪いている方を見ると、どこか外国のうら淋しい山奥に、ひとり取り残されたような感じがする。
前をゆくスイセイが、「ちょっと、遭難しそうな感じじゃない?」と言った。
スイセイは黒いバックを頭巾のようにかぶっている。
パン屋の帰り道は、風向きが反対になって、傘をささなくても歩ける。
帽子の上にフードをかぶって歩く。あったかい缶コーヒーを飲みながら。
ポケットに忍ばせてきた、カクちゃん(立花くんの助手)が焼いてくれたバターケーキも、歩きながら食べる。
雪の中で食べるケーキは、なんておいしいんだろう。
だれの足跡もない、どこまでも真っ白な雪原。なんてきれいなんだろう。
ずっとずっと遠くの木が、粉雪に霞んでいる。
私はワーッと叫んで走った。
走っても走っても、進んでいないような感じ。
「ミニアムプリンじゃのう」とスイセイ。
スーパーで食料を買い出しし、とちゅうで別れて、私は「マクドナルド」へ。
道ですれちがった男の子ふたりともが、ハンバーガーらしき紙袋がビニールに入った袋をうれしそうにぶら下げて歩いていたから。にやにやしながら。
「やっぱ、雪の日のお昼ごはんはマックでしょ」と私がいうと、「オレはいらん。みいは貪欲じゃのう」とスイセイは呆れた。
暖かい部屋の中で、窓からの雪を眺めながら、ポテトをはさんだチーズバーガーを頬張るのだ。
帰ってから、「はなべろ」の原稿書きの続き。
まだまだ、雪は降り積もっている。さっきより強まったかもしれない。
下の公園の丘をソリですべっている子供たちの声が、窓を閉めていても聞こえてくる。
さっき、「マクドナルド」からの帰り道、石舞台のある公園で小学3年生くらいの男の子が、ひとりかまくらを作っていた。
レンガをひとつひとつ積み重ねるように、両手につかんだ雪の玉で、しっかりと土台を固め、黙々と、熱心に。
なだらかなカーブをつけた雪の壁には、小さな手の平の跡がいっぱいついていた。
あの子はまだ、やっているだろうか。
夜ごはんは、鍋焼きうどん(かき揚げ、麩、ほうれん草、卵)。

●2014年2月2日(日)曇りのち晴れ

いちど起きて洗濯もしたのだけど、頭がぼんやりして仕事にならないので、今日は休日とする。
私はきのうの自宅ロケで、けっこうくたびれたのかも。
『きょうの料理』でペリメニの皮を作り、包むところまで説明をしながらやった。
そのあとはインタビュー。
カメラがまわって、プロデューサーが「はい、どうぞ」とスタートサインを出すと、とたんに私は何を言えばいいのか分からなくなる。
『犬が星見た』の百合子さんのことだから、言いたいことはたくさんあるのに、いざとなるとうまい言葉が浮かんでこなくて、うーんと考え込んでしまうのだった。
胸がドキドキしたりはまったくしないのだけど、これも緊張の一種だろうか。
ふだん私は、文を書く頭と心で言葉を捜し、考えているような気がした。
テレビのときにも、それをそのまま口に出して落ち着いて喋ればいいのだけど、どうもうまくいかない。小学生のようになって頭が真っ白になる。
喋り言葉に変換しようとすると、そこまでつながっている管が詰って機能しないような感じになる。ぽかーんとしてしまう。
雑誌のインタビューのときには、いくらしどろもどろでも尻切れトンボでも、心にある考えを正確に伝えさえすれば、ライターさんが書き言葉に起こしてくれるから大丈夫。
テレビは一回撮りだから、追い詰められるような気持ちになってしまうのかな。
私はプロデューサーに向かって答えているのに、カメラのレンズの方が手前にあって、無言のままじーっとこちらを向いているのが、なんだかとても不思議に思う。
不思議に思いはじめると、レンズの黒い穴に吸い込まれそうになる。
映画の『アレクセイと泉』の中で、アレクセイの父親がインタビュー中に「どうしてレンズはずっとこっちを向いているんだ」と、急に言って立ち上がるシーンがあるのだけど、私にはその気持ちがとてもよく分かる。
カメラマンはじーっと黙っているし、カメラのレンズもじーっとしてるから、すごく変な感じなのだ。
やっぱりこればっかりは、馴れるしかないんだろうな。
そのあと、川原さんとスイセイと「キチム」でやる3月のイベント(いろいろ決まってきたら、『ふくう食堂』にて告知します)の相談をして、吉祥寺のおでん屋さんに行った。11時過ぎに帰ってきた。
そんなわけで、それほどには飲んでいないけれど、今朝はふだんの胃袋ではない感じ。
ポタージュスープを飲んで、陽がいっぱいに当たった畳の部屋でごろごろしながら『るきさん』を読んでいるうちに、寝てしまう。
3時ごろ、起きて洗濯物を干す。
はじめて窓を開けたのだけど、今日は春のように暖かかったのだな。
夕方、西陽が壁をオレンジ色に染めた。
しばらくしてふと見ると、『料理=高山なおみ』を立て掛けてある本棚のところに、濃い光が四角く当たって、そこだけ金色に光っていた。
なんだか祝福されているように見え、写真を撮った。
夜ごはんは、トマトソースのスパゲティー、コールスロー、大根の塩もみサラダ。

●2014年1月26日(日)晴れ

「ダ・ヴィンチ」のゲラを拡大コピーしにいって、あちこち掃除する。
これは『料理=高山なおみ』のインタビューのゲラ。直すところなどほとんどないのに、きのうからじっと読み込んでいる。
床にワックスも塗った。
今日は春のように暖かく、風が強い。
なんとなしに曇ってきたので布団をとり込もうとしたら、東の空の下の方が黄色くけぶっている。
黄砂だ!
慌てて洗濯物も入れる。なんか、口の中がじゃりじゃりするような。
スイセイは部屋にこもって何かしている。
また、ゲラを読み込む。
つまり私は暇なのだ。
夕方、木枯らしのなか買い物にいった。
昼間があまりに暖かかったので、油断してカーディガンだけ羽織って出てしまった。
毛糸の編み目から肌を刺す冷たい風に、自転車をこぎながら震え上がった。
冬ブリのいいのがあったので買ってきた。天然ものなのに1切れ280円。カマに近いところだから安いのだろうか。肉厚でとてもおいしそう。
菜の花とコンニャクも買う。
今夜はスイセイの好物デーになりそうだ。
帰ってから、せっせと料理する。もうすぐ『まる子』がはじまる。
川原さんちは今夜、豚のしょうが焼きだそう。
夜ごはんは、ブリの照焼き(大根おろし)、コンニャクの炒り煮、ほろふき大根(三ちゃんのお母さんにいただいた京都のおいしい白みそ)、菜の花の辛子和え、自家製なめたけ、塩もみにんじんの酢(すし酢)油がけ、白いご飯。

●2014年1月19日(日)快晴

今朝はすっかり寝坊して、10時半に起きた。
ゆうべ、カレーライスを食べて、いつものようにスイセイと『地球ドラマチック』を見ていたのだけど、猛烈に眠たくなって、布団を敷いてそのまま寝てしまったのだった。
私はいったい何時間眠ったのだろう。夢もたくさんみたような気がする。
『料理=高山なおみ』は、木曜日に増刷のお知らせがきた。
よく、新聞広告なんかに「たちまち増刷出来!」というのがあるけれど、こういうことなのだな。
それがたまらなく嬉しかったから、はりつめていた何かがはずれたのかもしれない。
すっかり怠け心が出て、朝ごはんを作る気もしなくて、スイセイはカレーを温め直して食べていた。私はチーズトースト(コーンをのせてみた)を食べる。
今日は、「はなべろ読書記」の校正と、「気ぬけごはん」の原稿の仕上げをやる予定。
それにしてもよく晴れている。風が強いようだけど、あちこち光って見える。光と影がくっきりしているみたい。
これは冬の光。
あとで、散歩がてら図書館へ行ってこよう。
近ごろ私は、グールドの『田園』のCDをアマゾンで買ってからというもの、毎日くり返し聞いている。
とくに2楽章と4楽章が好きで、風呂上がりにオレンジ色の電気だけつけて聞いていると、透き通った空気で部屋中がいっぱいになる。
純な空気とでもいおうか、心が静まる。
けれどもそれは、ひとりで聞いているときだけのことで、スイセイが隣にいたり、打ち合わせのときなどにかけると、音がピリピリして気にさわるような感じになる。BGMには向かないっていうことだ。
夜ごはんは、ヤンソンさんの誘惑(スウェーデンのじゃがいも料理。よく炒めた玉ねぎ、アンチョビ、生クリーム、パン粉)、ゆで上げペンネ(オリーブオイル、塩、黒こしょう)、白菜、にんじん、大根の塩もみのサラダ(黒酢ドレッシング)。

●2014年1月10日(金)快晴

ピッカピカの青い空。
ゆうべの大風で、塵やらスモッグやら何やら、くすんだものたちがぜんぶ吹き飛ばされた。
今日こそが元旦の天気だ。
きのうは、リトルモアの男の子と女の子に手伝ってもらいながら、『料理=高山なおみ』のサイン本を165册作った。
畳の部屋に小さな机を置いて、電気ストーブを近くに寄せ、せっせとサインするのは幸せな作業だった。
私が書いたのを受取った女の子が、ていねいに紙を挟んで(字が写らないように)包み直し、男の子が箱詰めし、下に停めてある車に運ぶ。
目の前に積み上げられた本の表紙を見、その紙に触れてめくるたび、私はなごやかな気持ちに包まれた。
刺激的だった月にいちどの撮影、くる日もくる日も原稿を書いていた日々、デザインが上がってきた日の感動、朝も昼も夜もなく校正にはまっていた怒濤の毎日…… この本に関わってきたこれまでの時間が、黄色い満月のような満足のかたまりとなって、本の間に挟まれ、ここから日本中の本屋さんに届けられる。
ありがたいことです。
終ってから、ゆうべのチゲ鍋の汁を増やして白菜とお餅を加え、雑炊を作ってみんなで食べた。煮豚や満月卵もお出しした。
お正月の間はスイセイとふたりでひっそりと暮らしていたから、お客さんに料理を食べてもらえるのが嬉しかった。
私はすっかりいい気分となり、三ちゃんのお母さんにいただいたお酒をちびちびと飲みはじめ、そのあとスーパーに追加のお酒を買いにいって、スイセイと小さな宴会になった。
正月明けに撮影や打ち合わせなどが続いて、いろんな人にお会いするのもきのうでひと段落。
今日から原稿書きに入ろう。
まずは、「はなべろ読書記」だ。
夜ごはんは、筑前煮(三ちゃんのお母さんの里いもと京にんじん、ちくわ、コンニャク、れんこん)、サワラのみそ漬け(京都のおいしい白みそに漬けておいた)、菜の花の辛し和え、豆腐と油揚げのみそ汁、白いご飯。

●2014年1月1日(水)快晴

明けましておめでとうございます。
よく晴れているけれど、風が強い。
元旦の朝にしては、ピカピカの天気じゃないのは、この風のせいだろうか。
目に見えないくらいの白い粉が、空気中にうっすら混じっているよう。
洗濯物を干していて、大家さんのどんぐりの木に鳥の巣らしきものをみつけた!
枝の三叉に、小枝や枯れ葉が丹念に集められている。
とてもかわいらしい。
葉が青々と茂っていたころには、あそこでひっそりと卵があたためられ、雛たちが育っていたんだろうか。
何の鳥だろう。今年もまた、卵を産みにくるだろうか。そのつもりで観察してみよう。
元旦の朝ごはんは、数の子、黒豆、聖護院大根の切り干しの煮たの、満月卵、煮豚、真鯛のお刺身、大根の柚子香漬け、お雑煮(大根、白菜、里いも、ほうれん草)、磯部巻き、日本酒。
お雑煮に入れた三ちゃんのお母さんの里いも、ねっとりときめが細かくてたまらなくおいしい。
ゆうべの『紅白』はすごかった。
綾瀬はるかちゃんが『花は咲く』を歌ったあたりから、目が離せなくなった。
もしかしたらやるかもしれないと、ちょっとは期待していたけれど、『あまちゃん』のコーナーがあんなにあって、『潮騒のメモリー』もあんな形で歌われるなんて。
涙、涙で、私は正座して見た。スイセイも画面にのめり込んでいた。
やっぱり私は、キョンキョンの『潮騒のメモリー』がいちばん好きだ。
そんなわけで、年越し蕎麦を早めに食べる計画は流れ、『ゆく年くる年』を見ながらゆでて食べた。
だから、今朝はちょっと胸焼け。
朝ごはんが終ったら、スイセイも私もそれぞれで過ごす。
私は陽のいっぱいに当たる畳の部屋で、読書三昧。
吉本隆明さんの『フランシス子へ』を、ゆきつもどりつゆっくり読んで、泣く。
『ごちそうさん』の総集編も、つい最後まで見てしまう。
夜ごはんは、たらば蟹、数の子、黒豆、聖護院大根の切り干しの煮たの、サラダ(厚切りハム、レタス、きゅうり、ホワイトアスパラ、マヨネーズ)、ホタルいかの沖漬け(大根おろし)、日本酒。

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